civil「(表面的に)礼儀正しい」(カズオ・イシグロ「クララとお日さま」 [注意したい単語・意外な意味]
カズオ・イシグロの最新作 Klara and the Sun(邦題「クララとお日さま」)を読んだ。少女として設定されているAIロボットによる一人称体の語りとあって、英語そのものはさほど難しくはない。この作品から、civil について取り上げてみよう。
この単語自体も難解語ではない。「一般人の」「民間の」ということで、さらに「礼儀正しい」「親切な」という意味がある。後者の意味について、今回新たに学んだことがあった。
この作品では、気づいた限りでは2か所にこの単語が出てきた。
- ‘I couldn’t explain to her why I hate Capaldi so much. Why I can’t bring myself to be civil towards him. But I’d like to try and explain it to you, Klara. If you don’t mind.’
(Klara and the Sun by Kazuo Ishiguro)
- 'I have…a kind of coldness inside me she lacks. Perhaps it’s because I’m an expert engineer, as you put it. This is why I find it so hard to be civil around people like Capaldi. When they do what they do, say what they say, it feels like they’re taking from me what I hold most precious in this life. Am I making sense?’
(ibid.)
civil が polite と同じような意味であることは知っていたので、ひとつ目だけなら特に気には留めなかっただろう。
しかしその少し後にふたつ目が出てきたのを見て、ふと、「この単語、ニュアンス的に polite と何か違いがあるのかな?」と思った。あくまでカンだったが、辞書を引いたらこれが当たりだった。
- (最低限度に)礼儀正しい、丁重(丁寧)な、親切な(uncivil)(polite より好意的でなく、よそよそしい)
(ジーニアス英和大辞典)
- polite in formal but not very friendly
Try at least to be civil.
(LDOCE)
つまり、心のこもった思いやりのある親切さではなく、あくまで形式的に礼を失しない態度、という消極的なニュアンスがある言葉だと考えればよさそうだ。私は単に訳語だけで覚えていて、ここまでの認識はなかった。
「クララとお日さま」の例では、嫌っている人物に対して、形だけの丁重な態度も取る気になれない、ということになるだろう。
ここで気になって自分の学習ノートを見直したら、この civil を使った次のような実例がメモしてあった。
- If you can't give me a civil answer and full apologies I'll put the police on you.
(Goldfinger by Ian Fleming)
何年か前に007ものの原作小説の全巻を読破した時のもので、その際に拾った表現はこのブログでもいくつか紹介したが、「ゴールドフィンガー」で見つけた上記の実例はノートにメモしただけだった。
書き抜きしたのは何か引っかかるものがあったからだろうが、この時はそれだけで終わっていて、特に調べたりはしなかったわけである。自分のカンといってもそのレベルで、自慢できるほどではないようだ。
さて Klara and the Sun は、話題となった「わたしを離さないで」Never Let Me Go と同じように、先端技術を取り上げることで人間社会への問いかけをしたものともいえそうだが、イシグロならばもっと掘り下げた作品にできたのではないか、という読後感が否めなかった。
「人間が失いつつある純真さを持った少女のAIロボット」という主人公の設定が、かえってそうした掘り下げにブレーキをかけたのではないか、とも考えてしまった。
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この単語自体も難解語ではない。「一般人の」「民間の」ということで、さらに「礼儀正しい」「親切な」という意味がある。後者の意味について、今回新たに学んだことがあった。
この作品では、気づいた限りでは2か所にこの単語が出てきた。
- ‘I couldn’t explain to her why I hate Capaldi so much. Why I can’t bring myself to be civil towards him. But I’d like to try and explain it to you, Klara. If you don’t mind.’
(Klara and the Sun by Kazuo Ishiguro)
- 'I have…a kind of coldness inside me she lacks. Perhaps it’s because I’m an expert engineer, as you put it. This is why I find it so hard to be civil around people like Capaldi. When they do what they do, say what they say, it feels like they’re taking from me what I hold most precious in this life. Am I making sense?’
(ibid.)
civil が polite と同じような意味であることは知っていたので、ひとつ目だけなら特に気には留めなかっただろう。
しかしその少し後にふたつ目が出てきたのを見て、ふと、「この単語、ニュアンス的に polite と何か違いがあるのかな?」と思った。あくまでカンだったが、辞書を引いたらこれが当たりだった。
- (最低限度に)礼儀正しい、丁重(丁寧)な、親切な(uncivil)(polite より好意的でなく、よそよそしい)
(ジーニアス英和大辞典)
- polite in formal but not very friendly
Try at least to be civil.
(LDOCE)
つまり、心のこもった思いやりのある親切さではなく、あくまで形式的に礼を失しない態度、という消極的なニュアンスがある言葉だと考えればよさそうだ。私は単に訳語だけで覚えていて、ここまでの認識はなかった。
「クララとお日さま」の例では、嫌っている人物に対して、形だけの丁重な態度も取る気になれない、ということになるだろう。
ここで気になって自分の学習ノートを見直したら、この civil を使った次のような実例がメモしてあった。
- If you can't give me a civil answer and full apologies I'll put the police on you.
(Goldfinger by Ian Fleming)
何年か前に007ものの原作小説の全巻を読破した時のもので、その際に拾った表現はこのブログでもいくつか紹介したが、「ゴールドフィンガー」で見つけた上記の実例はノートにメモしただけだった。
書き抜きしたのは何か引っかかるものがあったからだろうが、この時はそれだけで終わっていて、特に調べたりはしなかったわけである。自分のカンといってもそのレベルで、自慢できるほどではないようだ。
さて Klara and the Sun は、話題となった「わたしを離さないで」Never Let Me Go と同じように、先端技術を取り上げることで人間社会への問いかけをしたものともいえそうだが、イシグロならばもっと掘り下げた作品にできたのではないか、という読後感が否めなかった。
「人間が失いつつある純真さを持った少女のAIロボット」という主人公の設定が、かえってそうした掘り下げにブレーキをかけたのではないか、とも考えてしまった。
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2021-06-22 07:40
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