produce 「（免許証などを）見せる、提示する」

先日来続けて取り上げた license からの連想で、produce について書きたい。「生産する」の他に、何かを「取り出す」「示す」「提示する」という意味がある。produce my driver's license とすれば、「運転免許証を出して見せる」ということになる。

このブログで何度か触れたことがある、アイザック・アシモフの”安楽椅子探偵もの”連作短編集「黒後家蜘蛛の会」の原書から実例を引用しよう。事件現場に居合わせた Ananias St. John という登場人物が警察官に呼び止められた体験談を話している場面だ。

免許証について言及した後に produced it と単に代名詞で受けているので、実例としては”いまいち”で大して役に立たたないが、後で補足するようにいくつか参考になる点があったので学習ノートにメモしていた。

- When I gave him my name, he looked at me sharply and asked if I had my driver's license with me. It seemed to me he thought I was giving him a false name. I produced it, along with a few credit cards, and there it was--Ananias, in clear print.
(Casebook of the Black Widowers by Isaac Asimov)

補足というのは、新約聖書の「使徒言行録」に Ananias という人物が出てくるが、うそをついたため神罰で命を落としたといい、転じて「うそつき」の意味で使われるそうだ。そこで、この名前を持つ登場人物は、本名なのに警官に冗談を言っているのかと本気にしてもらえず困った、という内容になっている。

聖書に関わるこの背景については、原作でも少し後で言及されるが、聖書に詳しければ名前を見ただけでピンとくるのだろう。その点で多くの日本人には敷居が高いはずで、私も最初は状況がつかめなかった。

さらに、この登場人物の姓 St. John も、saint （聖人）と John （ヨハネ）で「聖ヨハネ」となるので、一層おかしみが増すはずだ。作者アシモフ一流のお遊びであることに間違いあるまい。

ついでに、上記の実例に出てくる with me にも留意したい。これをつけることで、単に所有しているだけなく「その場に持ちあわせている」ことが明確になる。自分で英語を使うときにはここまでなかなか頭が回らないことがあるのではないかと思う。

補足が長くなったが produce に話を戻すと、この単語は ticket とか pen とか watch などいろいろなものに使える。字面だけでは「製造する」と同じではないか、と思えそうだが、そこは内容や状況で意味ははっきりする、ということなのだろう。

英語圏の辞書から定義や用例を抜き書きしておこう。なお produce にどのようにしてこの意味が生じたのか知りたいと思ったが、辞書類をちょっと見た限りでは説明は見つからなかった。

- If you produce an object from somewhere, you show it or bring it out so that it can be seen.
To hire a car you must produce a passport and a current driving licence.
(COBUILD Advanced English Dictionary)

- to bring something out from somewhere and show it:
He produced a letter from his desk that he asked me to read.
One of the men suddenly produced a knife from his pocket.
The company produced receipts in substantiation of its claim.
He opened his suitcase and produced a large box of chocolates.
(Cambridge Advanced Learner's Dictionary & Thesaurus)


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タグ：聖書 アイザック・アシモフ