dog tag 「(兵士の)認識票」 [読書と英語]
前回の fruit salad のように、平易な単語が使われているアメリカ軍がらみのスラングで頭に浮かんだのが dog tag である。
本来は「犬の鑑札」のことだが、転じて「軍人が首にかける、名前などを記した認識票」として使われる。
これまで何度か取り上げたことがある、アイザック・アシモフの安楽椅子探偵もの連作短編集「黒後家蜘蛛の会」の原著で実例を拾っていた。第3巻に収録されている Second Best という一編である。
- But I did try to reach for his dog tags so I could hand them in if I ever got back to any American line.
(Casebook of the Black Widowers by Isaac Asimov)
- There was a pause and Halsted said, "So you never got the soldier's dog tags."
(ibid.)
若い時に従軍した朝鮮戦争について語る人物の言葉で、前線で知り合ったあと名前を紹介しあう間もなく敵弾に斃れた友軍兵士の遺体から、せめて認識票を取ろうと思ったものの、敵の攻撃が激しくてその余裕もなかった、と当時を回想している場面である。
状況から「認識票」を指していると想像はついたが、辞書を引いたらまさにその通りで、identification tag を表すアメリカ軍の俗語とある。単語も簡単なのですぐに覚えてしまった(自分が使うような状況はまず考えられないが)。
ひとつ気になったのは、上記アシモフの小説もそうなっているが、辞書にも usually plural とあり、複数形でよく使われるらしいということだった。
なぜだろうかと思ったが、下記 Wikipedia の記述などを読むと疑問が氷解する。ちょっと長いが引用しよう。
- They (dog tags) commonly contain two copies of the information, either in the form of a single tag that can be broken in half, or as two identical tags on the same chain. This purposeful duplication allows one tag, or half-tag, to be collected from an individual’s dead body for notification, while the duplicate remains with the corpse if the conditions of battle prevent it from being immediately recovered.
https://en.wikipedia.org/wiki/Dog_tag
余談だが、朝鮮戦争は前回触れたTVシリーズ「刑事コロンボ」でも、まれにではあるが言及されることがある。「黒後家蜘蛛の会」も「コロンボ」同様、シリーズが始まったのはやはり1970年代だ。
朝鮮戦争勃発から20年以上経った頃であり、徐々に落ち着きとともに語ることができるものになっていたということだろうか(正式には、この戦争は今もまだ終わっておらず、「休戦中」ではあるのだが)。
現在、当時における朝鮮戦争と同じような時間的間隔で離れているのはアフガン戦争やイラク戦争だが、これは物理的時間では比較できないような影響を今もアメリカに及ぼしているはずで、エンターテインメント作品での扱いも容易ではないだろうと思う。
難しい話になってしまうので、dog tag の英語圏の辞書から説明を引用して終わりにしよう。
- 1. a small piece of metal attached to a dog's collar, typically giving its name and the owner's address
Definitions on the go
2. (North American English, informal) a small piece of metal that US soldiers wear round their necks with their name and number on it
(Oxford Advanced American Dictionary)
- a small piece of metal that soldiers wear on a chain around their necks with their name, blood type etc written on it
(LDOCE)
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本来は「犬の鑑札」のことだが、転じて「軍人が首にかける、名前などを記した認識票」として使われる。
これまで何度か取り上げたことがある、アイザック・アシモフの安楽椅子探偵もの連作短編集「黒後家蜘蛛の会」の原著で実例を拾っていた。第3巻に収録されている Second Best という一編である。
- But I did try to reach for his dog tags so I could hand them in if I ever got back to any American line.
(Casebook of the Black Widowers by Isaac Asimov)
- There was a pause and Halsted said, "So you never got the soldier's dog tags."
(ibid.)
若い時に従軍した朝鮮戦争について語る人物の言葉で、前線で知り合ったあと名前を紹介しあう間もなく敵弾に斃れた友軍兵士の遺体から、せめて認識票を取ろうと思ったものの、敵の攻撃が激しくてその余裕もなかった、と当時を回想している場面である。
状況から「認識票」を指していると想像はついたが、辞書を引いたらまさにその通りで、identification tag を表すアメリカ軍の俗語とある。単語も簡単なのですぐに覚えてしまった(自分が使うような状況はまず考えられないが)。
ひとつ気になったのは、上記アシモフの小説もそうなっているが、辞書にも usually plural とあり、複数形でよく使われるらしいということだった。
なぜだろうかと思ったが、下記 Wikipedia の記述などを読むと疑問が氷解する。ちょっと長いが引用しよう。
- They (dog tags) commonly contain two copies of the information, either in the form of a single tag that can be broken in half, or as two identical tags on the same chain. This purposeful duplication allows one tag, or half-tag, to be collected from an individual’s dead body for notification, while the duplicate remains with the corpse if the conditions of battle prevent it from being immediately recovered.
https://en.wikipedia.org/wiki/Dog_tag
余談だが、朝鮮戦争は前回触れたTVシリーズ「刑事コロンボ」でも、まれにではあるが言及されることがある。「黒後家蜘蛛の会」も「コロンボ」同様、シリーズが始まったのはやはり1970年代だ。
朝鮮戦争勃発から20年以上経った頃であり、徐々に落ち着きとともに語ることができるものになっていたということだろうか(正式には、この戦争は今もまだ終わっておらず、「休戦中」ではあるのだが)。
現在、当時における朝鮮戦争と同じような時間的間隔で離れているのはアフガン戦争やイラク戦争だが、これは物理的時間では比較できないような影響を今もアメリカに及ぼしているはずで、エンターテインメント作品での扱いも容易ではないだろうと思う。
難しい話になってしまうので、dog tag の英語圏の辞書から説明を引用して終わりにしよう。
- 1. a small piece of metal attached to a dog's collar, typically giving its name and the owner's address
Definitions on the go
2. (North American English, informal) a small piece of metal that US soldiers wear round their necks with their name and number on it
(Oxford Advanced American Dictionary)
- a small piece of metal that soldiers wear on a chain around their necks with their name, blood type etc written on it
(LDOCE)
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タグ:アイザック・アシモフ
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初めてコメントします。いつも楽しみに拝読しております。
"dog tag" で想起したのは
"Not all heroes wear capes. They wear dog tags."
という言い回しです。
「ヒーロー」というのは必ずしもマントを羽織っているわけではない...ナポレオンやスーパーマン、キャプテン・アメリカは、一目見て「わかりやすい」英雄像の好例と言えますが、真に英雄と言えるのは、認識票を首から下げた前線の兵士一人ひとりなのかもしれません。
太平洋戦争を扱ったドラマ『ザ・パシフィック』のレビューを見ていた際に遭遇した言葉なのですが、シリーズ通して視聴したことで、言葉の重みをより実感しました。無辜の一般市民が銃を手に取り、殺戮行為の応酬に参加することになったという歴史を踏まえてみれば、危うい側面を持ち合わせている言葉とも言えますね。
by B.O (2021-10-21 15:37)
B.O.さん、情報および考えさせられる深いコメント、どうもありがとうございました。今後とも宜しくお願いいたします。
by tempus_fugit (2021-10-24 18:16)