pretend 「仮に～としておく」

前回の make believe から pretend を連想したが、この単語についても「こういう風に使えるのか」と気づいた実例を拾っているので、少し書いてみたい。

これまで何度か取り上げたことがあるアイザック・アシモフの連作推理短編集「黒後家蜘蛛の会」の原書を読んだ際に、複数の実例を見つけていた。

ひとつ目は、アメリカの歌「ヤンキー・ドゥードゥル」が、ある違法行為を解き明かす鍵を握っている可能性がある、という作品だ。Yankee Doodle は、日本では歌詞よりも「アルプス一万尺」のメロディとしてよく知られている。

- Okay, let's pretend "Yankee Doodle means something in this connection. What can we lose? So let's consider how it goes...
(Tales of the Black Widowers by Isaac Asimov)

もうひとつは、ある組織のメンバーを監視し、その行動から違法行為を割り出そうと登場人物たちが検討している場面だ。その疑惑のメンバーが取った行動について説明している場面にこんなくだりがある。

- I don't know, offhand, if he finished his soup or not, but I' sure that detail is on record. But let's pretend you are right and he only finished half his soup. Go on.
(More Tales of the Black Widowers by Isaac Asimov)

pretend は「～の振りをする」というような訳語で覚えた人が多いはずだ。

ただ、そうした訳語を上記の実例に当てはめて考えても、どうもしっくり来ないように思う。

前回の make believe に私がつけてみた「～のつもりで」という方が、まだしっくりするのではないか。さらには「～と仮定してみる」のようにしてもいいかもしれない。英和辞典で pretend を見てもそうした訳語はついていないが。

「黒後家蜘蛛の会」の翻訳本を見たら、私の考えも的はずれではないようだった。

- いいよ。じゃあ、『ヤンキー・ドゥードゥル』はその件にかかわる何かを意味していると仮定しよう。別に損はないだろう。で、まず、歌そのものを考えてみよう……
（「黒後家蜘蛛の会１」池央耿・訳）

- やつがスープを残したか否か、わたしはこの場ではただちにお答えしかねます。もちろん、記録には詳しく述べられているはずですが。しかし、まあ、仮にやつが、あなたの言われるとおり、スープを半分残したとしましょう。それで、どうなります？
（「黒後家蜘蛛の会２」同）

前回に続いて、基礎レベルの単語表現であっても、実際にどのように使われているかに触れることで、ちょっとした発見があるという例だといえるように思う。


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