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酒の「チャンポン」をめぐる英語表現 [英語文化のトリビア]

前回取り上げた stiff drink からの連想で、酒がらみのちょっとおもしろい表現を紹介しよう。いわゆる「チャンポン」に関わる言い回しである。

どの辞書を引いても記載はなかったので、どれくらい実際に使われているのかは不明だが、「酒に関わる”民衆の知恵”を科学的に検証した」というニュースに出てきてメモしておいたものだ。

"Beer before wine and you’ll feel fine; wine before beer and you’ll feel queer." と "Grape or grain but never the twain" がそれで、3年前に複数のメディアで読んでメモしていた。

まず一つ目について、少し長くなるが、そうした記事のひとつから引用しよう。

- Plenty of us have been there: waking up after a night out with a thumping headache, feeling sick and swearing never to touch alcohol again. If only there were a way to prevent these terrible hangovers.

It isn’t uncommon for us to mix our drinks, maybe a beer in the pub before moving on to wine. Folk wisdom has something to say about this: “Beer before wine and you’ll feel fine; wine before beer and you’ll feel queer.” This idea is very prevalent and versions of it occur in many languages.
(中略)
But it turns out that there is no truth to these sayings, as we’ve just demonstrated in our latest study, published in the American Journal of Clinical Nutrition.
("Beer before wine and you’ll feel fine? No you won’t says new study
" The Conversation, February 8, 2019)

"Beer before wine and you’ll feel fine; wine before beer and you’ll feel queer." つまり、「ビールを飲んでからワインを飲むのはOKだが、その逆はヤバい」という、チャンポンあるいは二日酔いに対する戒めということになる。wine と fine、beer と queer が韻を踏むようにしているのは明らかだ。

元になった研究を載せたサイトがあり、それを見ると、一つ目とともに二つ目の”生活の知恵”の言い回しが紹介されていた。他の記事同様、下線は私がつけたものだ。

- Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine
Abstract
Background: Alcohol-induced hangover constitutes a significant, yet understudied, global hazard and a large socio-economic burden. Old folk wisdoms such as "Beer before wine and you'll feel fine; wine before beer and you'll feel queer" exist in many languages. However, whether these concepts in fact reduce hangover severity is unclear.
(中略)
Conclusions: Our findings dispel the traditional myths "Grape or grain but never the twain" and "Beer before wine and you'll feel fine; wine before beer and you'll feel queer" regarding moderate-to-severe alcohol intoxication, whereas subjective signs of progressive intoxication were confirmed as accurate predictors of hangover severity.
(National Library of Medicine, February 1, 2019)

"Grape or grain but never the twain" の grape は「ぶどう」つまりワインのこと、grain は「穀物」だが、ビールを指しているのだろう。twain は two の意味だそうだ。こちらも韻を踏んでいるが、「ワインかビールのどちらかだけなら良いが、両方いっしょはダメ」という意味だと思われる。

そして、今回の研究は、こうした民間の言い伝えは根拠がないということを明らかにした、という内容である。

私は科学の知識に乏しいので、上記のサイトを見ても研究の詳細はわからないが、つい笑ってしまった。民衆に伝わる生活の知恵が本当かどうか正面から研究し、ふさわしいスタイルの文章にまとめて発表している。

研究者としては当然なのだろうが、素人から見ると何だかおかしく思えてしまったのである。何とも失礼なことではあるが。

脱線になるが、これで連想したのは、このブログでこれまで何度も取り上げたことがあるSF作家アイザック・アシモフが書いた「再昇華チオチモリンの吸時性」という短編である。

これは一見まさに学術論文で、”チオチモリンという化合物”について表やグラフを交えて論じ、最後には参考文献まであげている。書いてあることはほとんど理解できないが、最後になって「マイナス時間」というとんでもない話が出てくる。つまり、クソまじめな論文のスタイルにのっとって書いた”トンデモ話”なのだった。

アシモフがこれを書いたのは若い頃で、ちょうど博士号の口頭試問を受ける前に雑誌に発表された(彼は文学ではなく、化学が専攻だった)。本人の回想によれば、化学研究を冗談のネタにしたと取られかねず、ちょっとまずかったかな、と思っていたところ、厳しい口頭試問の最後にこんな質問が飛び出したという。

- 「ミスター・アシモフ、チオチモリンという化合物の熱力学的属性について述べてください」
わたしはすっかりほっとして神経症的なばか笑いをはじめました。かれらがわたしを落第させるつもりなら、わたしを相手に悪意のないジョークなど飛ばさないだろうと、すぐに気づいたからです。(中略)
わたしは笑いつづけながら外に連れ出され、二十分待ったあと、試験官たちが出てきて、わたしと握手し、言いました。「おめでとう、ドクター・アシモフ」
(アシモフ初期短編集3「母なる地球」浅倉久志・訳)

「チャンポン」をめぐる今回の研究を、「チオチモリン」の冗談論文と同列に扱うことはもちろんできないが、私が持ち合わせていない理系の頭脳に対する羨ましさも込めて、余談として書いてみたしだいである。ついでだが、アシモフは本国アメリカのSFファンの間では Good Doctor という愛称で呼ばれていた。

脱線の罪ほろぼしにつけ加えると、酒の「チャンポン」は、最初の引用に出てきた mix を使ったり、和英辞典にある drink sake and beer at the same time のように言ったりすればいいようだ。ただ、日本語の語感が持つおもしろさに欠けるのは残念だ。

ふと「チャンポン」の由来は何だろうと思ってウェブを調べたところ、諸説あるらしいが、日本語というより中国語が元になっているという見方が多いようだ。

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