without tears 「難なく」「やすやすと」(マンガ「ピーナッツ」より) [読書と英語]
少し前の新聞に掲載されていたマンガ「ピーナッツ」で目にとまった without tears についてメモしておきたい。辞書を見たら、意外とこの表現が載っていなかったからでもある。
「ピーナッツ」といえば犬のスヌーピーが人気だが、10日ほど前の The Japan Times 紙に掲載されていた回に登場していたのはチャーリー・ブラウンとライナスの2人で、野球の場面である。
マウンドにいるチャーリー・ブラウンに、野手のライナスが「きょうは期待には応えられそうにないよ」と声をかけ、次のように理由を説明する。
- I'm the victim of a short and sad love affair! It's hard to catch a line drive when you have tears in your eyes...
これに対して、チャーリー・ブラウンは次のように言い返す。
- We don't have anyone on our team who could catch a line drive without tears in his eyes!
without tears は、文字通りに「涙なしには読めない」というような場合に使えるが、そのほか比喩として、「努力せずに」「苦もなく」「容易に」という意味もある。
「ピーナッツ」のマンガでは、ライナスが「失恋したので目が涙で曇って、とてもライナーを捕ることはできない」と言ったのに対して、チャーリー・ブラウンが言葉をもじって「そもそも、うちのチームに without tears でライナーをさばけるヤツなんているかよ!」と応じた、ということだと思う。
私がこの言い方に出会ったのは数十年前の高校生の時、ただし英語ではなかった。高校がある駅の近くの書店に立ち寄り、語学書コーナーで英語関係の本を眺めていた時、隣りの他の言語の棚に「涙なしのフランス語」という本があるのが目にとまったのだ。
フランス語を学んでいたわけではなく手に取ることはなかったが、そのタイトルが妙に印象に残った。
それから何年も経ったある日(私は社会人になっていた)、都会のとある書店で洋書コーナーを見ていたら、"... without tears" と題された何かの入門書があるのに気づいた。
全体のタイトルは忘れてしまったが、「あのフランス語の参考書と同じではないか!これは決まった表現に違いない」と考えた。
この表現、単語自体は簡単なのに、載せている辞書は意外と少なかったのは冒頭に書いた通りだが、その数少ない記載を英語圏のオンライン辞書から引用しよう。
- Without requiring an arduous or unpleasant amount of effort or learning.
The game touts itself as being math lessons without tears.
(Farlex Dictionary of Idioms)
なお「涙」の tear は、上記の「ピーナッツ」からもわかるように、実際には複数形の tears の形で使われることが多い。単数形だと「ひとしずくの涙」ということになるのだろう。複数形は「悲しみ」「嘆き」という意味にもなる。without tears は、むしろこちらの方で考えたほうがいいのだろうか。
ついでに「涙なしのフランス語」は、検索してみると、正式には「大村初級フランス語―涙なしのフランス語」というタイトルで、大村雄治という人が著し、1959年に出版されていた。
さらに驚いたことに、テレンス・ラティガン Terence Rattigan というイギリスの戯曲家が1936年に書いた、まさに French Without Tears という作品があることを知った。こちらが元祖「涙なしのフランス語」なのだろう。
この作品は映画化もされているが、それに出演したレイ・ミランド Ray Milland はアカデミー主演男優賞も受賞した俳優で、ヒッチコック監督の名作「ダイヤルMを廻せ!」 Dial M for Murder のほか、私の好きなドラマ「刑事コロンボ」の初期の傑作「指輪の爪あと」 Death Lends a Hand にも出演している。
マンガの「ピーナッツ」から始めた話が、思わぬところで名を知っている俳優につながったのは、偶然とはいえおもしろいものだ。
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「ピーナッツ」といえば犬のスヌーピーが人気だが、10日ほど前の The Japan Times 紙に掲載されていた回に登場していたのはチャーリー・ブラウンとライナスの2人で、野球の場面である。
マウンドにいるチャーリー・ブラウンに、野手のライナスが「きょうは期待には応えられそうにないよ」と声をかけ、次のように理由を説明する。
- I'm the victim of a short and sad love affair! It's hard to catch a line drive when you have tears in your eyes...
これに対して、チャーリー・ブラウンは次のように言い返す。
- We don't have anyone on our team who could catch a line drive without tears in his eyes!
without tears は、文字通りに「涙なしには読めない」というような場合に使えるが、そのほか比喩として、「努力せずに」「苦もなく」「容易に」という意味もある。
「ピーナッツ」のマンガでは、ライナスが「失恋したので目が涙で曇って、とてもライナーを捕ることはできない」と言ったのに対して、チャーリー・ブラウンが言葉をもじって「そもそも、うちのチームに without tears でライナーをさばけるヤツなんているかよ!」と応じた、ということだと思う。
私がこの言い方に出会ったのは数十年前の高校生の時、ただし英語ではなかった。高校がある駅の近くの書店に立ち寄り、語学書コーナーで英語関係の本を眺めていた時、隣りの他の言語の棚に「涙なしのフランス語」という本があるのが目にとまったのだ。
フランス語を学んでいたわけではなく手に取ることはなかったが、そのタイトルが妙に印象に残った。
それから何年も経ったある日(私は社会人になっていた)、都会のとある書店で洋書コーナーを見ていたら、"... without tears" と題された何かの入門書があるのに気づいた。
全体のタイトルは忘れてしまったが、「あのフランス語の参考書と同じではないか!これは決まった表現に違いない」と考えた。
この表現、単語自体は簡単なのに、載せている辞書は意外と少なかったのは冒頭に書いた通りだが、その数少ない記載を英語圏のオンライン辞書から引用しよう。
- Without requiring an arduous or unpleasant amount of effort or learning.
The game touts itself as being math lessons without tears.
(Farlex Dictionary of Idioms)
なお「涙」の tear は、上記の「ピーナッツ」からもわかるように、実際には複数形の tears の形で使われることが多い。単数形だと「ひとしずくの涙」ということになるのだろう。複数形は「悲しみ」「嘆き」という意味にもなる。without tears は、むしろこちらの方で考えたほうがいいのだろうか。
ついでに「涙なしのフランス語」は、検索してみると、正式には「大村初級フランス語―涙なしのフランス語」というタイトルで、大村雄治という人が著し、1959年に出版されていた。
さらに驚いたことに、テレンス・ラティガン Terence Rattigan というイギリスの戯曲家が1936年に書いた、まさに French Without Tears という作品があることを知った。こちらが元祖「涙なしのフランス語」なのだろう。
この作品は映画化もされているが、それに出演したレイ・ミランド Ray Milland はアカデミー主演男優賞も受賞した俳優で、ヒッチコック監督の名作「ダイヤルMを廻せ!」 Dial M for Murder のほか、私の好きなドラマ「刑事コロンボ」の初期の傑作「指輪の爪あと」 Death Lends a Hand にも出演している。
マンガの「ピーナッツ」から始めた話が、思わぬところで名を知っている俳優につながったのは、偶然とはいえおもしろいものだ。
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タグ:映画・ドラマ
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