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prejudice the chances 「チャンスを損なう」 [注意したい単語・意外な意味]

今回も、英語を長年やっていて「この単語にはこんな意味もあるんだ」とようやく気づいた例について書いてみたい。取り上げる語は prejudice である。

クラシック音楽の名レコード・プロデューサーとして知られたジョン・カルショーという人物が著した Ring Resounding という本を最近読み終わった。

カルショーは、ワーグナーの代表作である楽劇「ニーベルングの指環」 Der Ring des Nibelungen の初めてのスタジオ録音を実現させたことで知られ、そのプロジェクトの回想と舞台裏を書いたのがこの著作である。

ワーグナーの「ニーベルングの指環」は、いわばシリーズのタイトルで、「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々のたそがれ」という4つの作品で構成される。通しの実演も4夜にわけて行われ、合計すると14, 5時間にのぼる超大作だ。

カルショーが1958年から65年までの期間をかけて当時の名歌手たちとウィーン・フィルハーモニーを起用して制作した初の全曲録音は、レコード史上の偉業とされている。

この回想録の終わりの章に、次のような一節があった。先に背景を補足すると、カルショーたちは1950年代はじめ、ドイツのバイロイト Bayreuth にあるワーグナーの祝祭劇場で上演された「指環」を全曲録音して売り出そうと考えた。しかし技術面その他のトラブルが重なり、結局は商品化できなかった。そして捲土重来、新たにウィーンでのスタジオ録音に挑むことになった。

- It struck me that if we had succeeded then, the Vienna Ring might never have happened; for in retrospect I do not think we would have sold many copies of the Bayreuth Ring, and a failure would have prejudiced the chances of getting enough money for a major studio recording.
(Ring Resounding by John Culshaw)

プロジェクトが成功裏に終わり、大きな評価と売り上げを得た今、カルショーは振り返ってこう思ったーもしあの時バイロイトの「指環」が陽の目を見ていたら、むしろ今回のウィーン録音は実現しなかっただろう。バイロイト上演の録音は、たとえ発売されたとしても商業的に儲かることはなかったはずで、新たな全曲録音に金をつぎ込もうという機運も生まれなかっただろう。この一節はそんなふうに取ればいいはずだ。

そこで prejudice だが、おなじみの「偏見(を抱かせる)」ではどうも文脈にあわない。そこで素直に辞書を引くと、「損害を与える、害する、傷つける」という意味が載っていた。主に法律用語として使われるという。

英語圏の辞書からこの意味についての記述を抜き書きしよう。

- to have a bad effect on the future success or situation of someone or something
A criminal record will prejudice your chances of getting a job.
He refused to comment, saying he did not wish to prejudice the outcome of the talks.
(Longman Dictionary of Contemporary English)

- If someone prejudices another person's situation, they do something which makes it worse than it should be. [formal]
Her study was not in any way intended to prejudice the future development of the college.
They claim the council has prejudiced their health by failing to deal with asbestos.
(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)

また without prejudice という言い回しがあり、「偏見を持たずに」の他に、法律用語として「権利関係に不利益を与えることなく」「権利などを侵害せずに」"without dismissing, damaging, or otherwise affecting a legal interest or demand" という意味があることが辞書に記されている。

カルショーがこの意味の prejudice をここで使った意図は判然としないが、私としてはひとつ新しいことを学ぶことができたので、まあよしとしよう。

さて、ワーグナーの「ニーベルングの指環」の中でもっとも知られているのは、映画「地獄の黙示録」 Apocalypse Now で、アメリカ軍のヘリコプター部隊がベトナムの村を攻撃するシーンで使われた「ワルキューレの騎行」という音楽だろう。

10代だった私は、映画館でこの場面と音楽に接した時に戦慄を覚えたのをよく覚えている。



そしてクラシックを聞くようになっても、「ニーベルングの指環」は長いこと、「ワルキューレの騎行」など有名な曲や場面を集めた抜粋盤を聞くのが精一杯だった。ようやく全体に触れたのは映像ディスクが鑑賞できる時代になってからだが、見終わった時は作品のスケールの大きさに茫然自失となった。

その後さまざまな斬新な演出による上演の映像が手に入るようになったが、なにしろ長大な作品とあって、私がこれまで聴き通した回数は数えるほどだ。それでも筋書きがわかるくらいになると、むしろ映像ぬきで、音楽から自分なりに場面を脳内で想像(創造)するほうが楽しめるようにも感じてきた。ワーグナーの大ファンだった漫画家の故・松本零士氏もそのようなことを書いていたという記憶がある。

音だけで鑑賞する場合、入念なスタジオ録音によるカルショーの遺産は、半世紀前とは信じられない鮮明な録音と高水準の演奏で今もスタンダートとみなされている。ただ私にとっては、長大な作品を一気呵成に聞かせるような迫力を持つ、カール・ベームという指揮者による1960年代半ばのライブ録音により魅力を感じている。

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