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a Jeremiah 「悲観主義者」 [固有名詞にちなむ表現]

前回引用した本から、もうひとつ表現を取り上げたい。Jeremiah は「ジェレマイア」という男子の名前だが、旧約聖書の記述がもとになって、「将来を憂う人」「悲観論者」という意味があるのがおもしろい。

前回同様、クラシック音楽の名レコード・プロデューサーとして知られるジョン・カルショーという人物が書いた回想録の最終章から拾ったもので、実演に代わるレコードや映像メディアの将来をめぐって書いた部分である。

- Mass communication by means of records and television and radio does not, as some Jeremiahs predict, necessarily mean a lowering of standards; on the contrary, over a long enough period, standards are bound to rise.
(Ring Resounding by John Culshaw)

この本が出版されたのは1967年だが、現在の視点で読んでも、カルショーが先進的な考えと見通しを持っていたのが印象的である。

それはともかく Jeremiah だが、紀元前の古代ユダヤの預言者「エレミヤ」のことでもある。旧約聖書には「エレミヤ書」 the Book of the Prophet Jeremiah がある。

預言者エレミヤは、当時のユダヤ人の信仰が薄れていることを嘆き、悔い改めるよう警告を発するが聞き入れられない。彼の懸念は、バビロニアが侵攻してエルサレムの神殿を破壊し、ユダヤ人を強制連行する「バビロン捕囚」 the Exile として現実のものとなる。

これがもとになって、冒頭に書いたような意味で比喩的に使われるようになったのであろう。この意味では a Jeremiah と不定冠詞をつける(カルショーは複数形で使っている)。

英語圏の辞書から、この意味を中心に引用しよう。

- (6th century BC) in the Jewish and Christian religions, a Hebrew prophet who said that Jerusalem would be defeated and that God would become angry with the Jews and punish them.
A pessimistic person, who always says that bad things are going to happen, is sometimes called a Jeremiah.
(Longman Dictionary of Contemporary English)

- a person who habitually prophesies doom or denounces contemporary society
(Collins English Dictionary)

- (plural Jeremiahs)
A person who is pessimistic about the present and foresees a calamitous future; a prophet of doom.
(Wiktionary)

また、Q and A サイトである Quora には "What does it mean to call someone a Jeremiah?" という問いがあり、回答の一つに次のようなものがあった。

- in English the phrase “don’t be a Jeremiah”, or “they are such a Jeremiah” has been used for over a hundred years to denote someone who is constantly complaining, usually about a particular state of affairs, while predicting things will only get worse
https://www.quora.com/What-does-it-mean-to-call-someone-a-Jeremiah

今回の実例はクラシック音楽のプロデューサーの著書から拾ったが、私が初めて Jeremiah に「悲観主義者」の意味があることを知ったのもクラシック音楽がきっかけだった。

預言者エレミヤは、バビロニアに滅ぼされたエルサレムの崩壊を嘆いて「哀歌」を書いたとされ、これも旧約聖書に収められている。「エレミヤの哀歌」The Lamentations of Jeremiah として知られているが、これに多くの作曲家が音楽をつけている。

作曲家は違っても美しい作品が多く、私はそちらの方から聖書の預言者エレミヤに触れて少し調べた際、今回の比喩的な意味も知ったしだいである。

なお私自身忘れていたが、このブログを始めたばかりのころ、旧約聖書に関係する英単語について書いたエントリをアップしていたのに気づいた。The lamentations of Jeremiah についても言葉だけだが取り上げていたので、ご参考まで(→こちら)。

なお a Jeremiah と似たような意味を持つ、やはり西洋の故事と固有名詞にちなんだ他の言葉があるのだが、これはあらためて取り上げてみたい。

過去の参考記事:
・「旧約聖書」関連の単語から
https://eigo-kobako.blog.ss-blog.jp/2006-11-25

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TM

先日なつかしくなって70年代のロックバンドThree Dog NightのJoy to the Worldを聞くと、Jeremiah was a bullfrog, was a good friend of mine...で始まる歌詞でした。まるで讃美歌みたいな歌詞だなと思っていました。なんでカエルの名前なのかは謎のままですが。Jeremiahは旧約聖書にある名前と知っていましたが、pessimistic person, foretells disasterなどの意味があるとは知りませんでした。always complainingなどの意味もあるのですね。聖書、特に旧約からの故事は深くて難しいです。
by TM (2024-06-20 09:43) 

tempus_fugit

Three Dog Night の歌は懐かしいですね。しかし歌詞はちゃんと読んだことがなく、そこに Jeremiah が出てくるという認識もありませんでした。情報ありがとうございました。
by tempus_fugit (2024-07-04 23:41) 

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