a Cassandra 「警鐘を鳴らしても世間から無視される人」 [固有名詞にちなむ表現]
前回取り上げた Jeremiah とやや似たような意味を持つ固有名詞由来の言葉が Cassandra である。「エレミヤ」が旧約聖書に出てくる男性なのに対し、「カサンドラ」(または「カッサンドラ」)はギリシャ神話に登場する女性だ。
カサンドラはトロイアの王女で、アポロンの神が彼女を愛して予知能力を授けた。しかし、アポロンに結局は捨てられる未来が見えたためその愛を拒んだ。怒ったアポロンは、カサンドラの予言は正しいにもかかわらず誰もその予言を信じないという呪いをかけた。古代の神は自分勝手なものである。
そしてトロイアが悲劇に見舞われることを予言したが、誰もそれを信じない。有名な「トロイの木馬」the Trojan Horse もカサンドラが関係するエピソードで、彼女は敵のワナであることを見抜いたがその警告は無視され、トロイアは滅亡することになる。
こうしたことから Cassandra は、「人々に受け入れられない凶事の予言者」「不吉なことを予想するが、一般の人々には信じてもらえない人」を指して使われる。
新型コロナウイルス感染拡大の初期、関連する英文記事をいろいろ読んだが、私の手製の学習ノートにはそこで拾った Cassandra の実例をメモしていた。こうしたウイルスの発生に警鐘を鳴らしていた人は以前からいた、という文脈である。
- It notes that Garrett, a Pulitzer Prize-winning journalist, was prescient not only about the impact of H.I.V. but also about the emergence and global spread of more contagious pathogens.
“I’m a double Cassandra,” Garrett said.
She's also prominently mentioned in a recent Vanity Fair article by David Ewing Duncan about "the Coronavirus Cassandras."
(“She Predicted the Coronavirus. What Does She Foresee Next?"
The New York Time, May 2, 2020)
- …It was conventional wisdom among public health experts. Anybody who didn't understand the danger just wasn't paying attention. Still, even the Cassandras who saw such a crisis coming have been shocked by how poorly it has been handled.
("What is killing us is not connection; it is connection without cooperation." Foreign Affairs, July/August 2020)
今回ウェブを調べたら、WHO(世界保健機関)のサイトでも次のような形で使われている例を見つけた。
- I don't want to sound like a Cassandra on a Friday evening but is there a black swan situation where we could have a second pandemic threat in parallel with the current pandemic?
("COVID-19 Virtual Press conference transcript - 26 February 2021"
World Health Organization, February 26, 2021)
なおここに出てくる black swan 「黒い白鳥」とは、「非常にまれなもの」を意味する。
Cassandra の説明を英語圏の辞書から引用しよう。発音は /kəˈsændrə/ である。
- 1. Greek mythology a daughter of Priam and Hecuba, endowed with the gift of prophecy but fated never to be believed
2. anyone whose prophecies of doom are unheeded
(Collins English Dictionary)
彼女の母親の Hecuba 王妃(ヘキュバ、ヘカベー)は、シェイクスピアの「ハムレット」のセリフにも出てくるが、長くなるので言及は避けることにする。
- a person who predicts that something bad will happen, especially a person who is not believed
(OALD)
- people are sometimes called a ‘Cassandra’ if they warn that something bad will happen, but nobody believes them. In ancient Greek stories, Cassandra was the daughter of Priam, King of Troy. She had the power to see the future, and warned that the Greeks could use the Trojan Horse to take control of Troy, but no one believed her.
(LDOCE)
余談だが、私が「カサンドラ」という名前に初めて触れたのはギリシャ神話ではなく、記憶が正しければ「カサンドラ・クロス」という映画だった。内容は覚えていないので調べてみたら、作品中に出てきて重要な役割を果たす橋の名前であり、神話とは関係がなかった。原題は The Cassandra Crossing で、ちょっと邦題と異なっている。
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カサンドラはトロイアの王女で、アポロンの神が彼女を愛して予知能力を授けた。しかし、アポロンに結局は捨てられる未来が見えたためその愛を拒んだ。怒ったアポロンは、カサンドラの予言は正しいにもかかわらず誰もその予言を信じないという呪いをかけた。古代の神は自分勝手なものである。
そしてトロイアが悲劇に見舞われることを予言したが、誰もそれを信じない。有名な「トロイの木馬」the Trojan Horse もカサンドラが関係するエピソードで、彼女は敵のワナであることを見抜いたがその警告は無視され、トロイアは滅亡することになる。
こうしたことから Cassandra は、「人々に受け入れられない凶事の予言者」「不吉なことを予想するが、一般の人々には信じてもらえない人」を指して使われる。
新型コロナウイルス感染拡大の初期、関連する英文記事をいろいろ読んだが、私の手製の学習ノートにはそこで拾った Cassandra の実例をメモしていた。こうしたウイルスの発生に警鐘を鳴らしていた人は以前からいた、という文脈である。
- It notes that Garrett, a Pulitzer Prize-winning journalist, was prescient not only about the impact of H.I.V. but also about the emergence and global spread of more contagious pathogens.
“I’m a double Cassandra,” Garrett said.
She's also prominently mentioned in a recent Vanity Fair article by David Ewing Duncan about "the Coronavirus Cassandras."
(“She Predicted the Coronavirus. What Does She Foresee Next?"
The New York Time, May 2, 2020)
- …It was conventional wisdom among public health experts. Anybody who didn't understand the danger just wasn't paying attention. Still, even the Cassandras who saw such a crisis coming have been shocked by how poorly it has been handled.
("What is killing us is not connection; it is connection without cooperation." Foreign Affairs, July/August 2020)
今回ウェブを調べたら、WHO(世界保健機関)のサイトでも次のような形で使われている例を見つけた。
- I don't want to sound like a Cassandra on a Friday evening but is there a black swan situation where we could have a second pandemic threat in parallel with the current pandemic?
("COVID-19 Virtual Press conference transcript - 26 February 2021"
World Health Organization, February 26, 2021)
なおここに出てくる black swan 「黒い白鳥」とは、「非常にまれなもの」を意味する。
Cassandra の説明を英語圏の辞書から引用しよう。発音は /kəˈsændrə/ である。
- 1. Greek mythology a daughter of Priam and Hecuba, endowed with the gift of prophecy but fated never to be believed
2. anyone whose prophecies of doom are unheeded
(Collins English Dictionary)
彼女の母親の Hecuba 王妃(ヘキュバ、ヘカベー)は、シェイクスピアの「ハムレット」のセリフにも出てくるが、長くなるので言及は避けることにする。
- a person who predicts that something bad will happen, especially a person who is not believed
(OALD)
- people are sometimes called a ‘Cassandra’ if they warn that something bad will happen, but nobody believes them. In ancient Greek stories, Cassandra was the daughter of Priam, King of Troy. She had the power to see the future, and warned that the Greeks could use the Trojan Horse to take control of Troy, but no one believed her.
(LDOCE)
余談だが、私が「カサンドラ」という名前に初めて触れたのはギリシャ神話ではなく、記憶が正しければ「カサンドラ・クロス」という映画だった。内容は覚えていないので調べてみたら、作品中に出てきて重要な役割を果たす橋の名前であり、神話とは関係がなかった。原題は The Cassandra Crossing で、ちょっと邦題と異なっている。
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今回もtempus_fugit さんの博覧強記に感嘆いたしました!”カサンドラクロス” 子供のころ欠かさず観ていた日曜洋画劇場を思い出します。本日は、熱中症予防のため室内にて、松岡和子さん翻訳のハムレットを繙いてみようと思います。
by marimann (2024-07-06 07:39)
marimannさんのコメントを拝読して手持ちの「ハムレット」の文庫本で探したら、「ヘキュバ」は第2幕第2場のセリフに出てきました(松岡訳だと108ページと111ページ)。
この場面で言及がある「ダイドー」(カルタゴの女王)と「アイエーネス」(トロイアの王子)は、イギリスの作曲家パーセルによる「ディドとエネアス(ダイドーとイニーアス)」というオペラになっていますが、私が大好きな作品です。さらに脱線となりすみませんでした。
by tempus_fugit (2024-07-06 19:17)
Cassandraという名前で一番に思い浮かんだのが、ジャズボーカリストのCassandra Wilsonでした。最高のボーカリストの一人と思います。その彼女の名前がギリシャ由来とは知りませんでした。ずいぶん前の映画Troyのキャストには載っていませんでした。起源がわかってうれしいです。また、引用中にあるblack swanも少し前に本が出て、かなりヒットしたように記憶しています。企業経営者が経営方針スピーチなんかでよく引用してましたね。本の原典の英語はかなり難解な書きぶりでした。とりとめのないコメントで恐縮です。
by TM (2024-07-07 10:10)
tempus_fugit さんを範として、今日は、17世紀のイギリス演劇、音楽について調べてみます。
by marimann (2024-07-07 11:14)
そうそう、Cassandra Wilsonがいましたね。最近は名前を聞かないように思いますが、そもそも私は彼女の歌をあまり聞いていないのですが、TMさんが「最高のボーカリストの一人」とおっしゃっているとなると、興味が湧きます。今度ちゃんと聞いてみたいと思います。
by tempus_fugit (2024-07-09 22:29)
私自身、イギリスの演劇に詳しいわけではまったくないので、ぜひ調べたことを教えて下さいませ。
イギリスはクラシック音楽の後進国のように言われることがありますが、少なくとも私には、先のコメントに書いたパーセルのほか、タリスやバード、ダウランドなど、素晴らしいと思う作品がいくつもあります。
by tempus_fugit (2024-07-09 22:36)