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a Walter Mitty 「空想の中で自分の成功や活躍を思い描く人」 [固有名詞にちなむ表現]

固有名詞にちなむ表現として、これまでの連想でもうひとつ、Walter Mitty を取り上げたい。その昔、英語の授業で課題として読まされた短編小説に出てきた主人公の名前だ。

「読まされた」と書いたのは、私にとっては正直いっておもしろいと思った作品ではなかったからだ(先生ごめんなさい)。ストーリーの内容もじきに忘れてしまった。

それでもなぜこの作品のことを覚えていたかというと、先生が「Walter Mitty の名はアメリカではよく知られている」と言っていたこと、さらに、作品の中に "poketa, poketa" という摩訶不思議な擬音 onomatopoeia が出てきて、これが印象に残ったからだった。

その後、まがりなりにも英語を読めるようになり、いろいろな英文を触れていたら、確かに Walter Mitty を目にすることが何度かあった。先生の言ったことは正しかったわけである。

しかし作品を再読したことはないのであらためて調べると、タイトルは The Secret Life of Walter Mitty で、アメリカの作家ジェームズ・サーバー James Thurber が1939年に「ニューヨーカー」誌に発表した小説だった。

後にコメディ俳優ダニー・ケイ Danny Kaye の主演で映画化され、日本では「虹を掴む男」という題で公開されている。今世紀に入って LIFE! という別のタイトルでリメイクされていることも知った。

ウォルター・ミティはさえない男だが、突然白昼夢にふける性癖あるいは病がある。その中で彼は常に重要な立場にある人物で、常人の及ばない大活躍をしている。しかしそうした妄想の最中に現実にひきもどされる・・・ということの繰り返しが彼の日常となっている。



また、印象的に覚えていた擬音は、原典では正確には "ta-pocketa-pocketa-pocketa" と書かれていて、これは空想の世界にひたっている時に主人公の頭の中に響く音を表している。

ということで、Walter Mitty は「妄想の中で冒険的・英雄的な人生を思い描いている平凡な人物」を指して使われるようになった。

こうした現実逃避型、あるいはおめでたい人を表す代名詞的な言葉がそれまではなかった、ということだろうか。いずれにせよ、このように使われるようになったとは、それにふさわしい評判を得た作品なのだろう。私の文学鑑賞力の貧しさに恥じ入るばかりである。

下記はこの表現の実例で、ひとつ目は、これまでもこのブログで何度か引用している、日本で起きたイギリス人女性殺害事件についてのノンフィクション (邦題「黒い迷宮: ルーシー・ブラックマン事件15年目の真実」)で目にとまったものだ。

- Tim has all the signs of a serious personality disorder. He's a Walter Mitty character.
(People Who Eat Darkness by Richard Lloyd Parry)

- Impostors who wear military medals they have not earned could face jail if a bill now before parliament is passed. What drives these "Walter Mittys" to invent fake tales of heroism?
("The 'Walter Mittys': Why do some people pose as heroes?" BBC, November 25, 2016)

英語圏の辞書から定義や用例を引用しよう。Walter Mittyish として形容詞化もされているようだ。

- an ordinary person who pretends to have, or dreams about having, a life that is more interesting or exciting:
People have described him as a Walter Mitty, living in a fantasy world.
He's a Walter Mitty character and always has been - you can't believe anything he says.
He likes being an accountant, and he's not some Walter Mitty type who daydreams about being chased around by gangsters.
(Cambridge Advanced Learner's Dictionary & Thesaurus)

- a person who imagines that their life is full of excitement and adventures when it is in fact just ordinary
My client is very much a Walter Mitty character.
I was living in a sort of Walter Mitty world.
(Oxford Learner's Dictionaries)

- a commonplace unadventurous person who seeks escape from reality through daydreaming
Walter Mittyish adjective
President Biden brought his Walter Mitty fantasies to a joint session of Congress on Tuesday night.
(Merriam-Webster.com)

また Wikipedia のこの言葉の項にある Popular culture の小項目には、実際に使われた例がいろいろ紹介されているが、その中にはアメリカのケネディ大統領やニクソン大統領についての証言も載っていて、興味深い。
https://en.wikipedia.org/wiki/Walter_Mitty

ということで、教材として読まされ、おもしろいとは思えなかったサーバーの小説だが、少なくとも私の英語学習には結果的に役に立つことになった。

こうした固有名詞に由来する言葉に気をつけるようになったのもこれがきっかけといえそうで、このブログでも20年近く前に始めて以来、折にふれて固有名詞にちなむ表現を取り上げてきた。

文学作品は自分で興味を持って選び読んでこそおもしろいと思っていたので、英語や国語の教材としては苦手だった。しかし考えてみると、そうして読んだ作品をきっかけに何かに目を開かされた、という人もいるだろうし、そこまでいかなくても、私の Walter Mitty の例のように、副次的?な効果もありうる。与えられた教材・課題だからと後ろ向きにとらえるのは考えものなのだろう。

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TM

大変勉強になります。Walter Mittyはまったく知りませんでした。有名な映画にもなったのですね。元はサーバーの作品だと聞いて関心を持ちました。サーバーはFables for our timeという短編集(パスティーシュ?)を一部読んだことがありました。ずっとユーモア作家かと思っていました。改めてWikiの解説を読めば、彼は片目の視力が弱ったので想像力が高められたとのこと(Wiki: シャルル・ボネ症候群は、低視力になった際に引き起こされる複雑幻視)。だとすれば、Walter Mittyはこのあたりに端を発しているのかと想像されます。そのサーバーはオハイオ州出身で、上記の本を勧めてくれたアメリカ人もオハイオ出身でした。地元の人たちには大切な人だったのでしょう。もう40年以上も前の話です。毎度脱線しまして恐縮です。
by TM (2024-08-15 09:31) 

tempus_fugit

さすがTMさん、サーバーのことをご存知で、Walter Mittyは別としても短編集を読んでらしたのですね。私は偉そうにブログを書きましたが、作品をまともに読んだことはなく、いつものように上っ面なことを書いただけで、TMさんがお書きの情報を読むとますます恥じ入ります。

現役で出ている邦訳「傍迷惑な人々~サーバー短編集」はブログ本編をアップしたあと図書館で見つけ、Walter Mittyが収録されていたので立ち読みしましたが、やはり私にはそれほどの名作とは思えませんでした。サーバーがお好きな人には失礼なことですが、私の文学面の限界だなとあらためて思いました。
by tempus_fugit (2024-08-16 00:08) 

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