field sobriety test とはどのような検査か (ウォルズ副大統領候補、過去の飲酒運転で虚偽説明) [英語文化のトリビア]
アメリカ民主党のウォルズ副大統領候補が、若い時に起こした飲酒運転について虚偽の説明をしていたという英文記事を読んだ。そこに出てきた field sobriety test は字面の意味は把握できたが、具体的にどんなものかを調べたらちょっとおもしろいと思ったので、取り上げることにする。
私が読んだのはCNNの記事で、数か所でこの言葉が出てきた。そのうち2つを引用すると、
- But in 2006, his campaign repeatedly told the press that he had not been drinking that night, claiming that his failed field sobriety test was due to a misunderstanding related to hearing loss from his time in the National Guard. (中略)
None of that was true.
("Tim Walz’s 2006 campaign falsely described details about his arrest for drunk driving in 1995" CNN, August 15, 2024)
- According to the police report, the state trooper detected a strong odor of alcohol on Walz’s breath and requested he take a field sobriety test.
Walz failed the test and was transported by a state trooper to a local hospital for a blood test showing he had a blood alcohol level of .128 – well above the state’s legal limit of 0.1 at the time.
(ibid.)
故郷ネブラスカ州で高校教師をしていた1995年、31歳の時に、制限を大幅に超えるスピードで車を運転していたところを見つかり、その場で field sobriety test を受けたら”合格”せず、病院で血液検査をしたところ州の基準を大きく上回るアルコールが検出された、という。
問題は(もちろん飲酒運転も悪いが)、これについて2006年にミネソタ州の下院議員に立候補した際、飲酒運転はしていなかったとか、sobriety test に通らなかったのは州兵だった時に聴力が悪くなったためだ、と述べていたことで、これはウソだったという。
CNNのウェブ記事には、取り調べの際のウォルズ氏の顔写真 mug shot が載っているほか、取り調べた警官が他メディアに語った証言も転載している。
記事が "his campaign repeatedly made false statements..." と書いているように、虚偽の説明をしたのは his campaign つまりウォルズ氏の選対陣営であり、氏本人ではなかったということになるが、それでも選挙でのマイナス材料になるおそれはありそうだ。
さて今回の表現だが、sobriety /səˈbraɪəti/ は the state of not being drunk ということで、形容詞の sober 「しらふの」の方がおなじみかもしれない。辞書にも sobriety test 「飲酒検査」として載っているように、言葉自体には特段注目するような点はないだろう。
「飲酒検査」を表す英語表現で私の頭に浮かぶのは breathalyzer test で、息のアルコールを計器で測定するおなじみ?の検査だ。
今回の記事を読んだ時も field sobriety test も同じようなものだろうと思い、というより、ほとんど無意識のようにそう解釈し、素通りした。
しかし記事を読み終わってから、これはあの呼気検査のことでいいのだろうか、とふと思った。さらに考えると、「聴力を失った」というくだりも、検査にどう関わるのかとひっかかった。
こうした具体的なものについて何なのかを確かめるには、言葉による説明を調べるよりも、ウェブで画像の検索をするほうが手っ取り早く、かつ明快に理解できることがよくある。まさに Seeing is believing. である。
そうすると、片足で立たされていたり、路上をまっすぐ歩けるか試されていたり、といった画像がヒットする。そこで、ああ、こうした形で酒を飲んだかどうかを調べるテストなのだ、とわかった。耳は平衡感覚=バランスに関わるので、こうした言い訳をしたのだろうか。ただこれは私の誤解かもしれない。
またこの検査の内容を書いたチャート画像もヒットし、"Walk & Turn Test" "One-Leg-Stand Test" "Counting Backward Test" (これは数字を逆の順番に数えていくというものだろう)など、いくつかの項目が書かれている。"Portable Breath Test" もあるので、機器の持ち合わせがあれば呼気テストもやるのだろう。
さらに、Wikipedia には Field sobriety testing という項があり、この検査は FSTs とか standardized field sobriety tests (SFSTs) と呼ばれること、さらにアメリカの The National Highway Traffic Safety Administration (NHTSA) が定める検査項目として、
1. The Horizontal Gaze Nystagmus Test (ペンなどを目の前で動かして追わせ、眼球の反応や動きをチェック。nystagmus は「眼振」)
2. The Walk-and-Turn Test (直線上を歩かせる)
3. The One-Leg-Stand Test(片足で立たせ、1001, 1002, 1003, 1004...と声に出してカウントさせる)
https://en.wikipedia.org/wiki/Field_sobriety_testing
の3つがあるといった説明も書かれていた。
この検査や言葉については、アメリカの運転事情に詳しい人なら先刻承知、という方がいると思うが、私にとっては、ちょっとしたひっかかりから気づいた新しい情報だったので、取り上げることにしたしだいである。
なおCNNの記事には DUI という言葉が出てくるが、これも飲酒運転関係ではよく目にする言葉で、このブログでも十数年前に触れたことがあり(→こちら)、ご存知なかった方はご参考まで。
ついでに名詞の sober については、sober curious というおもしろい表現があり、取り上げたいと思ったことがあるが、そうするとしてももっと調べてからにしたいので、ここでは言葉だけを書いておこう。
さて、ウォルズ氏をめぐっては軍歴詐称の疑惑も持ち上がっているが、「たたけばホコリのでない人間はいない」ということになろうか。
バイデン大統領の選挙戦撤退からハリス副大統領への候補変更とあわただしかっただけに、副大統領候補選び veepstakes での”身体検査”(英語で vet →こちら)の時間も限られていただろうし、あるいはこの程度なら大丈夫、とハリス陣営は踏んだのかもしれない。
さらについでだが、Walz 氏は日本のマスメディアでは「ワルツ」「ウォルツ」などと書かれているが、氏が副大統領候補として取り沙汰されるようになった時に発音を調べたら /wɔːlz/ であると知った。
あえてカタカナで表すと「ウォールズ」という感じだろうが、日本のメディアでも最近、「”ウォルズ”に表記を変更しました」という断り書きを見るようになったので、私もこの表記にした。
ハリスーウォルズの ticket の現在の人気は、かなりムード的な面があるうえ具体的な政策も不明瞭とあって、このブームがいつまで持続するのか疑念も持つが、もし彼が副大統領に当選したら、日本語表記の揺れはどうなるだろうか。
それにしても「ワルツ」はないだろう、waltz と誤読したのか、と思っていたところ、イギリスのThe Economist 誌の最新号(紙版)をのぞいたら、Walz 氏について取り上げた leader (社説)の見出しが "Waltzing" となっていた。
こうした連想をするのは英語圏の人も同じだということらしい。踊りの waltz に現状をなぞらえる意図もあるのだろう。
20年近く前にこのブログを始めて以来、4年ごとの年には、ちょくちょくアメリカ大統領選挙、また時にはオリンピックをネタにした表現を取り上げてきたが、トシをとってきたせいか、どうも以前のような熱意はなくなってしまった。
最近ではハリス氏をめぐって brat という単語が話題となり、私も取り上げようかと思ったが、日本のマスメディアも記事にしているくらいだし、一方で私自身この言葉についてよく理解できていないこと、また一過性の流行りに終わるかもしれないとも思い、結局書かないままでいる。
といっても、ウェブで目についた選挙関連の記事は読むようにしているので、今回のように何か気づきがあった時は取り上げたいと思っている。
過去の参考記事:
・one for the road (ボズ・スキャッグス「シルク・ディグリーズ」)
・閣僚の「身体検査」の英訳
・副大統領候補を選ぶ veepstakes
・presumptive nominee 「指名が確実になった候補者」
・顔写真 (mug shot)
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私が読んだのはCNNの記事で、数か所でこの言葉が出てきた。そのうち2つを引用すると、
- But in 2006, his campaign repeatedly told the press that he had not been drinking that night, claiming that his failed field sobriety test was due to a misunderstanding related to hearing loss from his time in the National Guard. (中略)
None of that was true.
("Tim Walz’s 2006 campaign falsely described details about his arrest for drunk driving in 1995" CNN, August 15, 2024)
- According to the police report, the state trooper detected a strong odor of alcohol on Walz’s breath and requested he take a field sobriety test.
Walz failed the test and was transported by a state trooper to a local hospital for a blood test showing he had a blood alcohol level of .128 – well above the state’s legal limit of 0.1 at the time.
(ibid.)
故郷ネブラスカ州で高校教師をしていた1995年、31歳の時に、制限を大幅に超えるスピードで車を運転していたところを見つかり、その場で field sobriety test を受けたら”合格”せず、病院で血液検査をしたところ州の基準を大きく上回るアルコールが検出された、という。
問題は(もちろん飲酒運転も悪いが)、これについて2006年にミネソタ州の下院議員に立候補した際、飲酒運転はしていなかったとか、sobriety test に通らなかったのは州兵だった時に聴力が悪くなったためだ、と述べていたことで、これはウソだったという。
CNNのウェブ記事には、取り調べの際のウォルズ氏の顔写真 mug shot が載っているほか、取り調べた警官が他メディアに語った証言も転載している。
記事が "his campaign repeatedly made false statements..." と書いているように、虚偽の説明をしたのは his campaign つまりウォルズ氏の選対陣営であり、氏本人ではなかったということになるが、それでも選挙でのマイナス材料になるおそれはありそうだ。
さて今回の表現だが、sobriety /səˈbraɪəti/ は the state of not being drunk ということで、形容詞の sober 「しらふの」の方がおなじみかもしれない。辞書にも sobriety test 「飲酒検査」として載っているように、言葉自体には特段注目するような点はないだろう。
「飲酒検査」を表す英語表現で私の頭に浮かぶのは breathalyzer test で、息のアルコールを計器で測定するおなじみ?の検査だ。
今回の記事を読んだ時も field sobriety test も同じようなものだろうと思い、というより、ほとんど無意識のようにそう解釈し、素通りした。
しかし記事を読み終わってから、これはあの呼気検査のことでいいのだろうか、とふと思った。さらに考えると、「聴力を失った」というくだりも、検査にどう関わるのかとひっかかった。
こうした具体的なものについて何なのかを確かめるには、言葉による説明を調べるよりも、ウェブで画像の検索をするほうが手っ取り早く、かつ明快に理解できることがよくある。まさに Seeing is believing. である。
そうすると、片足で立たされていたり、路上をまっすぐ歩けるか試されていたり、といった画像がヒットする。そこで、ああ、こうした形で酒を飲んだかどうかを調べるテストなのだ、とわかった。耳は平衡感覚=バランスに関わるので、こうした言い訳をしたのだろうか。ただこれは私の誤解かもしれない。
またこの検査の内容を書いたチャート画像もヒットし、"Walk & Turn Test" "One-Leg-Stand Test" "Counting Backward Test" (これは数字を逆の順番に数えていくというものだろう)など、いくつかの項目が書かれている。"Portable Breath Test" もあるので、機器の持ち合わせがあれば呼気テストもやるのだろう。
さらに、Wikipedia には Field sobriety testing という項があり、この検査は FSTs とか standardized field sobriety tests (SFSTs) と呼ばれること、さらにアメリカの The National Highway Traffic Safety Administration (NHTSA) が定める検査項目として、
1. The Horizontal Gaze Nystagmus Test (ペンなどを目の前で動かして追わせ、眼球の反応や動きをチェック。nystagmus は「眼振」)
2. The Walk-and-Turn Test (直線上を歩かせる)
3. The One-Leg-Stand Test(片足で立たせ、1001, 1002, 1003, 1004...と声に出してカウントさせる)
https://en.wikipedia.org/wiki/Field_sobriety_testing
の3つがあるといった説明も書かれていた。
この検査や言葉については、アメリカの運転事情に詳しい人なら先刻承知、という方がいると思うが、私にとっては、ちょっとしたひっかかりから気づいた新しい情報だったので、取り上げることにしたしだいである。
なおCNNの記事には DUI という言葉が出てくるが、これも飲酒運転関係ではよく目にする言葉で、このブログでも十数年前に触れたことがあり(→こちら)、ご存知なかった方はご参考まで。
ついでに名詞の sober については、sober curious というおもしろい表現があり、取り上げたいと思ったことがあるが、そうするとしてももっと調べてからにしたいので、ここでは言葉だけを書いておこう。
さて、ウォルズ氏をめぐっては軍歴詐称の疑惑も持ち上がっているが、「たたけばホコリのでない人間はいない」ということになろうか。
バイデン大統領の選挙戦撤退からハリス副大統領への候補変更とあわただしかっただけに、副大統領候補選び veepstakes での”身体検査”(英語で vet →こちら)の時間も限られていただろうし、あるいはこの程度なら大丈夫、とハリス陣営は踏んだのかもしれない。
さらについでだが、Walz 氏は日本のマスメディアでは「ワルツ」「ウォルツ」などと書かれているが、氏が副大統領候補として取り沙汰されるようになった時に発音を調べたら /wɔːlz/ であると知った。
あえてカタカナで表すと「ウォールズ」という感じだろうが、日本のメディアでも最近、「”ウォルズ”に表記を変更しました」という断り書きを見るようになったので、私もこの表記にした。
ハリスーウォルズの ticket の現在の人気は、かなりムード的な面があるうえ具体的な政策も不明瞭とあって、このブームがいつまで持続するのか疑念も持つが、もし彼が副大統領に当選したら、日本語表記の揺れはどうなるだろうか。
それにしても「ワルツ」はないだろう、waltz と誤読したのか、と思っていたところ、イギリスのThe Economist 誌の最新号(紙版)をのぞいたら、Walz 氏について取り上げた leader (社説)の見出しが "Waltzing" となっていた。
こうした連想をするのは英語圏の人も同じだということらしい。踊りの waltz に現状をなぞらえる意図もあるのだろう。
20年近く前にこのブログを始めて以来、4年ごとの年には、ちょくちょくアメリカ大統領選挙、また時にはオリンピックをネタにした表現を取り上げてきたが、トシをとってきたせいか、どうも以前のような熱意はなくなってしまった。
最近ではハリス氏をめぐって brat という単語が話題となり、私も取り上げようかと思ったが、日本のマスメディアも記事にしているくらいだし、一方で私自身この言葉についてよく理解できていないこと、また一過性の流行りに終わるかもしれないとも思い、結局書かないままでいる。
といっても、ウェブで目についた選挙関連の記事は読むようにしているので、今回のように何か気づきがあった時は取り上げたいと思っている。
過去の参考記事:
・one for the road (ボズ・スキャッグス「シルク・ディグリーズ」)
・閣僚の「身体検査」の英訳
・副大統領候補を選ぶ veepstakes
・presumptive nominee 「指名が確実になった候補者」
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タグ:アメリカ政治
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FSTと正式には言うのですね。その昔、アメリカ人が、飲酒検査はまっすぐ歩けるかだけの話と説明してくれました。当時、breathalyzerなど聞いたこともありませんでした。その後、米、豪などでの基準呼気中アルコール濃度を聞いたら、日本よりもずいぶん高かったように記憶しています。Walzさんはそんな前科がありましたか。veepstakes (sweepstakesとゴロが合う)の末に彼が選ばれた時は、ずいぶん時間をかけて選ぶのだと思ってましたが、政治上の計算や身辺調査などに手間取っていたのでしょうか。vet/vettingを念入りにやったら多少ボロは出てくるようです。大統領選もこれから討論会などに向けて発言が増えるでしょうが、お下品な表現(トランプも最近少し控えめ?)はやめて、政策論を戦わせてもらいたいものです。
by TM (2024-08-17 17:45)
TMさんは英語圏の飲酒検査にもお詳しいのですね。恐れ入ります。
トランプは表現の下品さの程度は私にはわからないものの、現時点ではハリス側への罵倒に終始しているのは確かで、陣営からも懸念の声が出ているのに歯止めがかからず、まさにunhingedという感じですね。
これが実はトランプの陽動作戦で、もしある時点から急に政策論争に切り替えたとしたらある意味すごいなと思いますが(政策面ではハリスは現時点で不明確なうえ、民主党も党内でまとまりがないので弱みがありそうです)、トランプがそこまで考えているかといえばやはり疑問ですね。
by tempus_fugit (2024-08-17 22:58)