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英語版「虎に翼」~ put wings on a tiger [映画・ドラマと英語]

今回は箸休め的な内容である。英誌「エコノミスト」の最近の号を眺めていたら、「虎に翼」にあたる英語が使われているのが目にとまった。

中国の故事や言い回しはけっこう英語圏で紹介されていると思うので別に不思議ではないといえるだろうが、いま放送されている”朝ドラ”のタイトルなので、おっと思った。

といっても別に日本のドラマが取り上げられていたのではなく、アメリカ大統領選挙で民主党の ticket となったハリス氏とウォルズ氏をめぐる中国の反応についての記事で put wings on a tiger として出てきた。

なお Walz 氏といえば、日本のマスメディアで表記が一定していないことを少し前に書いたが(→こちら)、最近は「ウォルズ」で揃ってきているようである。

- “Harris's every move…truly has a presidential air,” said one commenter on Weibo, a microblog platform, in response to Mr Walz’s appointment. Another commenter praised the move, saying it was like putting wings on a tiger.
("China’s rulers are surprised by Kamala Harris and Tim Walz" The Economist, August 18, 2024)

ウェブで検索してみると、「虎に翼」は "add wings to a tiger" "a tiger with wings" などの表現を含めてヒットがあった。たださっと見た範囲ではあるが、これらは定着した英語表現というより、上記 The Economist 誌のように、中国に関係する内容で目につくという印象があった。

逆にいえば、英語のイディオムになっているわけではないが、いかにも中国らしい、中国と結びつきやすい言い回し、といえるだろうか。あくまで私の想像であるが。

add wings to a tiger の検索でのヒットも引用しよう。

- Tigers are the subject of more than one Chinese saying, especially those related to strength.(中略)
Another saying is ‘like adding wings to a tiger’. This means taking something already powerful, and making it even more so. A sporting example would be a successful and skilful football club signing a player who would make them even more formidable to their opponents.
("Lunar New Year: What does the tiger symbolise in Chinese culture?" BBC, January 28, 2022)

「虎に翼」の由来を調べてみたら、中国の古典「逸周書」あるいは「韓非子」と二説あるようだが、どちらも本来は「もともと強いものにさらに威力を与えるようなことはするな」という警告だそうだ。

同義語としてあげられるのが「鬼に金棒」だが、こちらは最初からポジティブに使うように思えるので、この二つは本来の使い方からすれば同義とはいえないのかもしれない。

やはり私の個人的な考えだが、日本では、「虎に翼」は実際によく使う言葉というより、ビジュアル的なイメージの方が強いように思う。

私がそう感じるのは、子どもの時に見ていた人気アニメ「タイガーマスク」で、悪役レスラーを死の特訓で育成する「虎の穴」という悪の組織の本部に、翼を持つ虎をかたどった巨大な建造物が立っているのをよく覚えている影響もあるのだろう。

こうした翼のついた虎をウェブで画像検索するといろいろヒットするので、イメージ的に広く知られたものであることは確かなように思う。

ついでだが、英語の tiger というと、私は大ヒット映画「ロッキー」 Rocky の第3作で使われた Eye of the Tiger という曲を連想する。

これがヒットした大学生のころ、最初にタイトルを見た時は「eye が単数なので、ひとつ眼の虎を思い浮かべなくてはいけないのだろうか」と思った。

しかしこの言葉が出てくる、かつてのハングリー精神を失った主人公ロッキーをライバルが鼓舞する場面を見ると、「虎のような眼光」ということで、和風になるが「寄らば斬るというような殺気」といった比喩的な意味だろうと考えた。



中国と英語の話に戻ると、"A journey of a thousand miles begins with a single step" という英語のことわざは、老子の「千里の道も一歩から」に由来することはほぼ定説になっているようだ。

また漢字(中国語)の「危機」と "crisis" について、ケネディ大統領の名言として知られている言葉がある。

- When written in Chinese, the word 'crisis' is composed of two characters. One represents danger and the other represents opportunity.

というもので、「crisis を表す”危機”は、"危"険を表す語と"機"会を表す2つの字からできている。危険をともなうものは、同時に機会をもたらすものにもなるのだ」ということだろう。単純にいえば「ピンチはチャンス」である。

私が最初にこの話を聞いた時は、さすがケネディ、なるほどうまいことを言うなと思う一方で、中国語の「危機」はそういう意味合いがあるのだろうか、本当だろうか、とも考えた。

下記の Wikipedia の説明によると、これはやはり誤解に基づくものだという。また、この解釈はもともとケネディが最初に言い出したものではないが、彼が大統領選挙で使って知られるようになったとのこと。やはり著名人の影響力は大きい。

- In Western popular culture, the Chinese word for "crisis" (simplified Chinese: 危机; traditional Chinese: 危機; pinyin: wēijī, wéijī) is often incorrectly said to comprise two Chinese characters meaning 'danger' (wēi, 危) and 'opportunity' (jī, 机; 機). The second character is a component of the Chinese word for opportunity (jīhuì, 机会; 機會), but has multiple meanings, and in isolation means something more like 'change point' or inflection point.
https://en.wikipedia.org/wiki/Chinese_word_for_%22crisis%22

なお最後に出てくる inflection point は少し前に取り上げたことがある表現だ(→こちら)。

今回は箸休めとして思いつくままに書いたら、一貫性がなく散漫なうえ思いのほか長くなってしまったが、ついでに、朝の連続テレビ小説にからめて書いた過去のエントリを参考までにあげて終わりにしたい。

"朝ドラ"関連の過去の参考記事:
「花子とアン」に出てきた cantankerous (「けんか腰の」)
罰としての "go to bed" (「花子とアン」)
70年前に「勇気をもらう」は使われていたか? (連続テレビ小説「ごちそうさん」)

別の参考記事:
Pigs could fly. 「そんなバカな!」「トンでもない」

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コメント 2

TM

毎朝見ている朝ドラですが、中国の故事からという説明がされてましたが、英語でも直訳風にしているのですね。英米人には中国的な雰囲気が受けるのかもしれません。翼がついてflying tigersになった。もっともこちらは日中戦争中に国民党についた米義勇兵航空部隊との解説がなされています。これがのちに航空貨物会社になって、さらにはFedExに買収された。crisisと危機の話も引用されることがありますが、ケネディも使っていたのは知りませんでした。故事の引用や訳文となるといろいろ考えることも多いようです。勉強になりました。
by TM (2024-09-05 22:39) 

tempus_fugit

アメリカの航空部隊のFlying Tigersについては何かで見聞きしたことを拝読して思い出しましたが、航空貨物会社になりフェデックスに買収された、という話は知らず、参考になりました。ありがとうございました。
「虎に翼」ではありませんが、The Economistの最新号を読んでいたら、中国の駐在記者による定期コラム "Chaguan" (「茶屋」の意とのこと)に、中国人のある学識者から言われた言葉として "It is natural for a country to want to become strong, like a tiger." とあり、「ここにも虎が出てきたな」と思いました。

 「危機は好機」は、誤解から生まれたのだとしても、確かにそういうことがあると思うので名言ではありますね。私は残念ながらピンチをチャンスにつなげたことがないのでくやしいですが。
by tempus_fugit (2024-09-08 18:26) 

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