「エピソード」ではない episode(アシモフ「黒後家蜘蛛の会」) [注意したい単語・意外な意味]
諸事情でまとまった時間を使い英語に接するのが難しい状態が続いているが、以前はこうした時、せめて通勤時間に英書を読むようにしていた。しかしトシをとって電車内の読書は目に厳しいと感じるようになり、それも見合わせるようになっていた。
ところが、英語にまったく接していないと落ち着かなくなるのは、それなりに長いつきあいとなっているからだろう。少し前から、行き帰りの電車内で、無理のないと感じる長さの時間を割き、ときおり目を休めつつ、再びペーパーバックを読むことにした。
こうした読書には難しい内容は向かない。気軽に読めるものが一番だ。そこで私の愛読書であり、このブログでも何度か取り上げたことがあるアイザック・アシモフの連作ミステリ短編集「黒後家蜘蛛の会」の原書を、第1巻からマイペースで再読している。
「黒後家蜘蛛の会」とは、6人の仲間で作る月例食事会の名前で、別におどろおどろしいものではなく、毎回ゲストを招いて四方山話に花を咲かせる。しかし毎回、なぜか謎をはらんだ体験談が持ち上がり…という形で各話が進んでいく。
参考:日本語版「ウィキペディア」の「黒後家蜘蛛の会」の項
前置きが長くなったが、今回はこのシリーズの作品から、episode という単語を取り上げたい。
- "Revsof is now in the hospital. He's been there two months. I'll have to explain that it's a mental hospital and that he had a violent episode which put him into it and there's no point in going into the details of that."
("The Three Numbers" in "More Tales Of The Black Widowers" by Isaac Asimov)
episode は「エピソード」として日本語にもなっているが、それ以外に「(再発性の疾患の)発症、症状の発作」という意外な意味がある。
私が何をきっかけにこれを知ったのか記憶にないが、簡単な単語なのにずいぶんとかけ離れた意味を持っているのがかえって印象的だったのかもしれない。
「黒後家蜘蛛」の今回のエピソードに出てきた上記の例も、そちらの意味だろう。「レブソフはひどい発作を起こして病院にかつぎこまれたが、それについてこまごましたことを話しても意味がないので控えておこう」というように解釈すればよさそうだ。
このシリーズはその昔、翻訳で読んでいっぺんで気に入ってしまったものだが、装丁を変えながら現在も版を重ねているのがうれしい。私は表紙にクロゴケグモが描かれた初期の古い装丁の版を持っているが、ふと気になって本棚からこの巻の翻訳をひっぱりだして開いてみた。
- 実は、それが、精神病院なのです。彼が入院するに当たっては、少々ごたごたがありましたが、その経緯についてはここでお話しする必要はありません。
(アイザック・アシモフ:黒後家蜘蛛の会2~「三つの数字」)
あれ? he had a violent episode が「激しい発作を起こした」ではなく「少々ごたごたがあった」と訳されている。うーん、そうなのかなあ。私も100パーセント自信があるわけではないけれど。
episode の「発作」の意味について英語圏の辞書から引用しよう。
- An episode of an illness is short period in which a person who suffers from it is affected by it particularly badly. [medicine]
...people who'd suffered a third episode of depression in two years.
The new drug lessens the severity of pneumonia episodes.
Synonyms: period, attack, spell, phase
(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)
- a period of time during which somebody is affected by a particular illness or a particular stage of a longer illness
an acute episode of pneumonia
All the patients had episodes of unexplained fever.
His former wife suffered with depressive episodes.
(Oxford Learner's Dictionaries)
この単語は、「追加的に入って来るもの」という意味のギリシャ語系の言葉に由来するそうで、「エピソード」「挿話」「出来事」は何となくわかるものの、病気について使われるようになった経緯についての記述は、ウェブをちょっと見た程度では見つからなかった。
以前も書いたことがあるが、「黒後家蜘蛛の会」のシリーズは英語圏の出版社では絶版となって久しく、翻訳を読んできた私は、どうしても原文で読みたいという気持ちを抑えられなくなり、何年か前に海外のいくつかの中古書店から買い集めて全巻を揃えた。
そして今回、久しぶりの原文通読を進めている。ページが茶色く変色しているのはもちろんだが、過去のペーパーバックの通例として活字が大変小さく細かい。しかし、読んでいるとあまり苦に思わなくなってくるのは(目には悪いのだろうが)、この作品がいい意味での「ひまつぶし」としての傑作だからだろう。
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ところが、英語にまったく接していないと落ち着かなくなるのは、それなりに長いつきあいとなっているからだろう。少し前から、行き帰りの電車内で、無理のないと感じる長さの時間を割き、ときおり目を休めつつ、再びペーパーバックを読むことにした。
こうした読書には難しい内容は向かない。気軽に読めるものが一番だ。そこで私の愛読書であり、このブログでも何度か取り上げたことがあるアイザック・アシモフの連作ミステリ短編集「黒後家蜘蛛の会」の原書を、第1巻からマイペースで再読している。
「黒後家蜘蛛の会」とは、6人の仲間で作る月例食事会の名前で、別におどろおどろしいものではなく、毎回ゲストを招いて四方山話に花を咲かせる。しかし毎回、なぜか謎をはらんだ体験談が持ち上がり…という形で各話が進んでいく。
参考:日本語版「ウィキペディア」の「黒後家蜘蛛の会」の項
前置きが長くなったが、今回はこのシリーズの作品から、episode という単語を取り上げたい。
- "Revsof is now in the hospital. He's been there two months. I'll have to explain that it's a mental hospital and that he had a violent episode which put him into it and there's no point in going into the details of that."
("The Three Numbers" in "More Tales Of The Black Widowers" by Isaac Asimov)
episode は「エピソード」として日本語にもなっているが、それ以外に「(再発性の疾患の)発症、症状の発作」という意外な意味がある。
私が何をきっかけにこれを知ったのか記憶にないが、簡単な単語なのにずいぶんとかけ離れた意味を持っているのがかえって印象的だったのかもしれない。
「黒後家蜘蛛」の今回のエピソードに出てきた上記の例も、そちらの意味だろう。「レブソフはひどい発作を起こして病院にかつぎこまれたが、それについてこまごましたことを話しても意味がないので控えておこう」というように解釈すればよさそうだ。
このシリーズはその昔、翻訳で読んでいっぺんで気に入ってしまったものだが、装丁を変えながら現在も版を重ねているのがうれしい。私は表紙にクロゴケグモが描かれた初期の古い装丁の版を持っているが、ふと気になって本棚からこの巻の翻訳をひっぱりだして開いてみた。
- 実は、それが、精神病院なのです。彼が入院するに当たっては、少々ごたごたがありましたが、その経緯についてはここでお話しする必要はありません。
(アイザック・アシモフ:黒後家蜘蛛の会2~「三つの数字」)
あれ? he had a violent episode が「激しい発作を起こした」ではなく「少々ごたごたがあった」と訳されている。うーん、そうなのかなあ。私も100パーセント自信があるわけではないけれど。
episode の「発作」の意味について英語圏の辞書から引用しよう。
- An episode of an illness is short period in which a person who suffers from it is affected by it particularly badly. [medicine]
...people who'd suffered a third episode of depression in two years.
The new drug lessens the severity of pneumonia episodes.
Synonyms: period, attack, spell, phase
(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)
- a period of time during which somebody is affected by a particular illness or a particular stage of a longer illness
an acute episode of pneumonia
All the patients had episodes of unexplained fever.
His former wife suffered with depressive episodes.
(Oxford Learner's Dictionaries)
この単語は、「追加的に入って来るもの」という意味のギリシャ語系の言葉に由来するそうで、「エピソード」「挿話」「出来事」は何となくわかるものの、病気について使われるようになった経緯についての記述は、ウェブをちょっと見た程度では見つからなかった。
以前も書いたことがあるが、「黒後家蜘蛛の会」のシリーズは英語圏の出版社では絶版となって久しく、翻訳を読んできた私は、どうしても原文で読みたいという気持ちを抑えられなくなり、何年か前に海外のいくつかの中古書店から買い集めて全巻を揃えた。
そして今回、久しぶりの原文通読を進めている。ページが茶色く変色しているのはもちろんだが、過去のペーパーバックの通例として活字が大変小さく細かい。しかし、読んでいるとあまり苦に思わなくなってくるのは(目には悪いのだろうが)、この作品がいい意味での「ひまつぶし」としての傑作だからだろう。
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タグ:アイザック・アシモフ
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ご指摘のepisodeの意味は知りませんでした。病気の発作、短期的症状、あるいは急性ということでは、acuteやfit of xxなどの形容詞ばかり使ってきたように思います。ちなみに英系の辞書には出ていますが、なぜかMerriam-Websterにははっきりと病気という言及はありませんでした。唯一、an event that is distinctive and separate although part of a larger seriesとの定義があり、これは病気にとれなくもない。それにしてもアシモフ作品Black Widowerの日本語タイトルは今の時代にはとても使えそうにありませんね。もっとも、widowerだったら男なので、だから黒後家か(Wikiの解説を読んで納得)。男だけの集まりですね。すいませんです。
by TM (2023-09-15 21:47)
この作品がいま紹介されたとしたら、「ブラック・ウィドワーズ」と、カタカナの題名になることでしょうね。「黒後家蜘蛛」という漢字を読めない人もいそうな気がします。
今回もコメントありがとうございました。
by tempus_fugit (2023-09-17 12:08)
2023年11月26日付け、日経新聞「半歩遅れの読書術」で詩人の別所真紀子さんがアイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』(池央耿訳)を紹介されていました。”ヘンリーが皺ひとつないのは、情報をインプットして正解を出す人間コンピューターの寓意(ぐうい)ではないだろうか。アシモフには、死を受け入れても人間になりたかったロボットのSFがある”との見事な書評に感動し、ここにコメントを残しました。
by marimann (2023-11-26 20:14)
「黒後家」のパスティーシュである田中啓文の「二〇〇一年問題」という短編をいただいたコメントから連想しました。「シャーロック・ホームズたちの新冒険」(創元推理文庫)に収録されており、まだでしたらぜひお読みください。ヘンリーのことを含め、これ以上書くとネタバレになってしまいますので控えますが、たいへん楽しめました。
日経新聞の記事は、ぜひ探して読んでみようと思います。情報ありがとうございました。
そういえば、「黒後家」ものの専属?翻訳者であった池央耿氏が先日お亡くなりになりました。未翻訳で遺されている黒後家の”第6巻”は、少なくとも氏の新訳で読むという望みは(翻訳が遺されていない限り)絶たれてしまったことが残念です。
by tempus_fugit (2023-11-28 00:10)