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damsel in distress 「ヒロイン危機一髪」 [英語文化のトリビア]

前回取り上げた lady in waiting からの連想で damsel in distress を取り上げよう。damsel が「若い女性」を指す古い言葉だと知っていれば、それに in distress がついた形なので意味は何となく想像できるが、これでまとまったひとつの表現である。

辞書を見ると、

- 悩めるおとめ、苦しんでいる娘(騎士ロマンスの定型的人物像)
(リーダーズ英和辞典)

とある。

確かに間違いではないが、この説明だと恋愛に悩んでいるうら若き女性について使う表現、また古い時代の作品で使われる表現、そういった印象を受けるのではないだろうか。しかし私がこれまで触れた実例から受けるイメージは、それとはちょっと違う。

登場人物の若い女性が何らかのトラブルに巻き込まれ絶体絶命の窮地に陥る。時代は現代であってもかまわない。そこに主人公なりヒーローなりがさっそうと現れて、女性のピンチを救うことになる(あるいはそうなることが期待される)。私が触れた範囲では、どれもそんな形で使われていた。

学習ノートをめくると、007の原作小説「死ぬのは奴らだ」で見つけた、ジェームズ・ボンドと同僚の会話が例としてメモしてあった。

- 'They've got a woman with them. Girl called Solitaire, according to the CIA. Know anything about her?'
'Not much,' said Bond. 'But I'd like to get her away from him. She's not one of his team.'
'Sort of damsel in distress.'
(Ian Fleming: Live and Let Die)

もうひとつ、007の原作者イアン・フレミング風に書いたという触れ込みで数年前に出版された Devil May Care (邦題「デビル・メイ・ケア」)という小説からも実例をメモしていた。ボンドとある女性との会話で、表現はちょっと違った形になっているが、意味は同じだろう。

- "I need your help. To rescue my sister. She's working against her will for a very unpleasant man. He effectively has her captive."
"I'm not a private investigator," said Bond sharply. "I don't rescue distressed damsel."
(Sebastian Faulks: Devil May Care)

脱線だが、タイトルになっている devil-may-care は、かなり前に取り上げたことがあるが、「無頓着な、あっけらかんとした」「むこうみずな」という意味で、英語の辞書では happy and willing to take risks などと説明されている。「むこうみず」であっても、しかめつらをして猪突猛進するのではなく、楽天的な雰囲気を漂わせているということか。ジェームズ・ボンドにはふさわしいといえそうだ。

なお作者のセバスチャン・フォークスは本国イギリスでは知られた作家らしいが、この小説はフレミングの一連の原作に比べるとストーリーは正直落ちると思わざるを得なかった。タイトルもフレミングの作品のようなうまさやひねりが感じられない。文体にどれくらいフレミングの味が出ているのかは私の英語力ではよくわからない。

damsel in distress に戻ると、Wikipedia にはこの項目があり、詳しい説明が載っていた。例として、ギリシャ神話の「ペルセウスに救われるアンドロメダ」から始まって、「アラビアンナイト」や「カンタベリー物語」といった古典、現代では「キングコング」「ターザン」に出てくる女性、さらに、「スーパーマンに助けられるロイス・レイン」「ポパイが救うオリーブ」などがあげられている。

その中の説明の一部を引用しよう。

- The subject of the damsel in distress, or persecuted maiden, is a classic theme in world literature, art, film and video games. She is usually a beautiful young woman placed in a dire predicament by a villain or monster and who requires a hero to achieve her rescue. After rescuing her the hero can usually convince the woman to be his wife. She has become a stock character of fiction, particularly of melodrama.
( ttp://en.wikipedia.org/wiki/Damsel-in-distress )

damsel は dame という単語とも関係があり、古いフランス語の dameisele に由来するという記述がある。「マドモアゼル」mademoiselle ともつながりがあるということになるだろう。-s- の部分は /z/ と濁音になる。

余談だがこの単語と damsel in distress も、lady in waiting先日書いた confetti 同様、海外のテレビドラマがきっかけで高校生の時に覚えたものだ。

当時(1970年代)、「テレビジョンエイジ」という海外ドラマの雑誌をよく読んでいたが、私の好きな作品「スター・トレック」の特集があり、そこに載っていた「全エピソードの登場人物一覧」に「ダムセル」という名前があった。

その後、小説版の翻訳でそのエピソードを読んだら(当時はビデオがなかったためか映画やTVドラマの小説化は今より盛んだった)、そんな名前は見当たらない。綴りを想像して辞書を引き、damsel を見つけた。つまり雑誌の記事は、普通名詞を固有名詞と取り違えていたらしい。

さらに後になって、書店の洋書コーナーで Star Trek を取り上げた英文雑誌の記事を見つけ、苦労しながら読んでいたら、今度は damsel in distress に出会った。その時の英文はもちろん覚えておらず、まとまった表現であることもわからなかったが、意味は想像できたし、後に別の実例を目にした時もすんなりと頭に入った。

なお「テレビジョンエイジ」の記事は、上記の他にも、軍隊の階級 Commodore 「准将」を「コモドール」と人物の名前のように書いていたのを覚えている。そんな登場人物はいなかったはずだがと不審に思って辞書を引いてこの単語を覚えた。雑誌のあら探しをしているようだが、インターネットもなかった当時、私にとっては海外テレビ番組の貴重な情報源だったので、すでに廃刊になったこの雑誌には感謝している。

余談が過ぎたが、Wikipedia には、今回の表現をタイトルにした映画が1937年と2011年に製作されていると書かれている。

さらに調べると、前者は不定冠詞がついたタイトルで、邦題は「踊る騎士」。フレッド・アステアが主演したミュージカル映画で、数々のヒットを飛ばしたジンジャー・ロジャースとの名コンビではなく、この作に限ってジョーン・フォンテインと共演したが、あまりヒットしなかったそうだ。

3年前の映画は、「ダムゼル・イン・ディストレス  バイオレットの青春セラピー」という邦題がつけられており、女子大生を描いたコメディだという。

(参考記事)
stock character 「ステレオタイプ的な登場人物」「ありがちなキャラクター」
lady-in-waiting 「女官、侍女」 (刑事コロンボ「もう一つの鍵」)
devil にちなんだ表現
confetti (紙吹雪)と「こんぺいとう」の共通点
live and let live (007「死ぬのは奴らだ」)
ポテイトウとポタートウ (Let's Call the Whole Thing Off)
海外テレビドラマのタイトルに学ぶ英語

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