SSブログ

Write-in Biden! ~候補者登録のないバイデン氏が予備選で勝利 [アメリカ政治]

アメリカ大統領選挙のニューハンプシャー州民主党予備選で現職バイデン氏が快勝した。トランプ対ヘイリーという共和党の争いに比べると扱いは小さかったが、それを報じる記事を眺めていて、write-in candidate とか write-in campaign などといった表現が目についた。

何の変哲もない単語が使われているが、どういう意味だろうか。

- President Joe Biden has won the New Hampshire Democratic primary as a write-in candidate.
The Associated Press declared Biden the winner based on an analysis of initial vote returns where write-in votes have been tabulated by candidate.
("Why AP called New Hampshire for Biden: Race call explained" AP News, January 24, 2024)

write-in を辞書で引くと、「投票用紙に正式に載っていない候補者、その候補者への投票」「投票用紙に候補者として出ていない人(の名を書いて投じる票)」などとある。中には「候補者名記入投票(の候補者)」としか書かれていないものもある。

英語圏の辞書を見ると、

- relating to a person whose name is not on a ballot paper (= a voting paper) but who wants to be elected:
He got 32 write-in votes to Mr Rose’s 16.
They were running a last-minute write-in campaign.
(Cambridge Dictionary)

- In the US, a write-in is a vote that you make by writing the candidate's name on the ballot paper.
When Republican write-ins were included, Johnson's margin of victory was only 330 votes.
The state does not permit write-in votes.
Four years ago, he was a write-in candidate in New Hampshire.
(Collins English Dictionary)

これだけだとわかったようなわからないような気持ちになるが、今回は現職の大統領がそうした候補者だったことが幸いしたというべきか、日本のメディアも何らかの説明をつけて報じていた。

今回の予備選開催は民主党が公式に認めたものではなく(その経緯は長くなるので省略、興味のある方は調べていただきたい)、バイデン氏も立候補の届け出をしなかったとのことで、このため投票用紙に彼の名前は載っていなかった。

そんなバイデン氏がなぜ勝ったといえるのか。それは投票用紙に名前を手書きで記入する欄があるからだ。「自由記入」と表現していた日本のメディアもあったが、この方式の投票が write-in ということになる。

下記PBSのサイトにある記事にはニューハンプシャー州の投票用紙の画像が載っていて、イメージをつかむことができる。
https://www.pbs.org/newshour/politics/biden-isnt-on-the-ballot-in-new-hampshires-primary-heres-why

これでわかるように、用紙には候補者の名前がずらりと並んでいて、名前の横の楕円を塗りつぶして投票するが、一番下は "WRITE-IN" と小さく書かれた空欄になっている。ここに名前を書き入れるわけである。アメリカでは、こうした方式をいくつもの州が採用しているそうだ。

この write-in (candidate) については、例えば以下のような説明が英語のサイトで見つかる。

https://en.wikipedia.org/wiki/Write-in_candidate

https://ballotpedia.org/Write-in_candidate

ということで、とりあえずは一件落着としたいものの、理屈ではわかったつもりになっても、日本人の私としては腹にストンと落ちるものでもないというのが正直なところだ。

日本では、国政選挙を筆頭に、有権者が投票用紙に名前を直接書き入れる方式が使われている(あらかじめ候補者名が印刷された用紙に記号をつける方式を地方選挙で採用している自治体もあるが、ごく限られている)。そこで投票用紙に立候補していない人の名前を書くこと自体は可能だが、それは無効票になってしまう。

一方、アメリカの write-in は、候補者登録のない人を書く欄をわざわざ用紙に設けるなど制度として存在しているわけで、選挙制度は国によっていろいろな違いがあるはずだと思いつつも、やはりちょっと不思議な気になってしまうのである。

ニューハンプシャー州の予備選を前にバイデン氏の支持者たちは、投票に行って用紙に大統領の名前を書くよう訴える運動を展開した。たとえば下記の記事には、"Write-in Joe Biden" と書かれたプラカードやそれを持つ人たちの写真が載っている。

"Biden isn't on the New Hampshire ballot. These voters are writing him in anyway"
(NPR, January 23, 2024)

このスローガンを眺めていてつくづく思ったのは、write-in という見かけは単純な言葉なのに、日本と日本語には1対1で結びつく単一の仕組みや言葉がまず見当たらないはずだ、ということである。

早い話、上記の "Write-in Joe Biden" は、プラカードの呼びかけとしてはどんな日本語にしたらいいのだろうか。

もちろん、「候補者名簿に載っていないバイデンに記名で投票してください」のようにすればいいのだが、それだと説明になってしまい、プラカードの言葉としてはよろしくない。字面をそのまま訳したような「投票用紙にバイデンとお書きください」では write-in の意味が伝わらない。

スローガン風にするには、せめて「自由記名でバイデンを!」のような感じにしないとダメだと思うが、write-in のことを知らなければ、「自由記名」と言われても意味不明だろう。

write と in 自体は英語学習の最初に習う単語なのに、そのたった2語を組み合わせた言葉の意味を理解するには、たぶん辞書を引いただけでもダメで、さらにその先へと調べを進めなくてはいけないようだ。

同時通訳者でテレビ英語会話のインタビュー番組の講師をつとめ、私もお世話になったことがある故・國弘正雄氏(→こちら)は、英語学習と異文化理解について、「ことば」と「こと」と「こころ」の3点をおさえるようにしなくてはいけない、というようなことを述べていたのを思い出す。

この write-in についていえば、方式や制度という「こと」についてさらに知ることに加えて、どうしてこのような制度があるのか、その経緯や背景は何か、ということが、いってみれば「こころ」にあたるのだろうが、残念ながらとてもそこまで突き詰める余裕や気力は今の私にはない。

なおアメリカの選挙の投票用紙については、このブログを始めた初期に、chad という単語を取り上げたついでにごく短く触れたことがあるので、ご参考まで。

過去の参考記事:
紙に穴をあけた時に出るくず (chad)

にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村←参加中です

nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:資格・学び

nice! 2

コメント 2

TM

write-inは難物ですね。意味はわかるけど、その背景や考え方がわかりにく。自由記名で投票するというのは世界的にも少ないように思いますが、どうなんでしょうか?どこかで読みましたが、アメリカはやたら選挙が多く、投票に行くのも大変
とのこと。基本直接選挙でしょうが、大統領選だけ間接選挙でしょうか?最近は4年に1回の選挙の時に日本のメディアも詳しい制度解説をしてくれるので、ようやくわかってきたという人が多いのではと推測。あまり報道されませんが、投票率はあまり高くないとも聞きました。日本のように住民登録制度がないので、選挙民が投票者登録をするというのもよくわからない。誰かまとめてわかりやすく解説して欲しいです。ぼやきばかりになってしまいました。
by TM (2024-02-01 11:35) 

tempus_fugit

 大昔、短い期間アメリカの田舎に滞在したことがありますが、ちょうと地方選挙が実施されていて、候補者の遊説の他に討論会や集会がさかんに開かれ、民主主義とはこうしたものかと思いました。
 ただ連邦制ということもあってか、制度や仕組みはいろいろ複雑で州による違いもあり、どうもよくわからないままです。
 若い時に感心したアメリカの選挙も、その後は民主党・共和党いずれも支持層が大きく変わり、ついにはトランプ大統領を生み出すに至ったのには、外国人の私としても紆余曲折と社会の変化の大きさを感じざるを得ません。
by tempus_fugit (2024-02-04 21:42) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村← 参加中です
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...