SSブログ

steel magnolia ~アメリカ版やまとなでしこ [英語文化のトリビア]

カーター元米大統領のロザリン夫人が亡くなった。日本メディアの扱いがごく小さかったのは仕方ないが、カーター政権は私の高校時代と重なる。海外の事物に興味を持ち始め、英語学習にも熱を入れるようになった頃だ。当時を思い出し、時の移ろいを感じさせられた。

CNN の訃報記事を読んでいたら、steel magnolia という表現が目にとまった。知識としては持っていたが、実際に触れたのは初めてではないかと思う。

magnolia は花の「モクレン」のことだが、植物にうとい私なので、自分のボキャブラリーに入ることは本来ならありえない。

そんな私なのにこの言葉を知ったのは大学生の時、英語通訳界の草分けである國弘正雄先生のおかげだった。國弘先生については、9年前に亡くなられた時に個人的な思い出をこのブログに書いたことがある(→こちら)。

先生の講演あるいはラジオ講座だったか、著書でだったかは忘れたが、「特にアメリカ南部の、しとやかさと芯の強さを合わせ持った女性」を指すと教えられた。辞書にも載っておらず、該博な知識と豊富な実務経験を持つ國弘先生ならではの情報だった。

ちなみに magnolia はミシシッピ州とルイジアナ州の州花であり、アメリカ南部を想起させる事物になっているという。

言葉の響きや意味が印象深かったうえ、私も若かったのですぐに覚えた。ただその後も含めてアメリカ南部やその女性と個人的な縁はなく、知識にとどまっているにすぎない。

そんな steel magnolia の実例にようやく触れることになった今回のCNNの記事だったが、引用としては、よりわかりやすそうなものをロザリン夫人の他の訃報記事から拾ってみた。

- Her willpower and outwardly shy demeanor, and a soft Southern accent, inspired Washington reporters to call her “the Steel Magnolia."
("Rosalynn Carter, US first lady known as ‘Steel Magnolia', dies at 96" Mint November 20 2023)

- A New York Times profile during the 1976 presidential campaign said (Rosalynn) Carter’s tireless campaigning “evokes the image of a steel magnolia blossom.” The nickname “Steel Magnolia” stuck. So did the president’s description of his wife as “an almost equal extension of myself.”
("Rosalynn Carter, US First Lady called ‘Steel Magnolia,’ dies" Bloomberg carried by CNBCTV18.com November 20, 2023)

- The Washington chattering class, often unsure what to make of outsiders, dubbed Rosalynn Carter the “Steel Magnolia” when she arrived as first lady.

A devout Baptist and mother of four, she was diminutive and outwardly shy, with a soft smile and softer Southern accent. That was the “magnolia”. She also was a force behind Jimmy Carter’s rise from peanut farmer to winner of the 1976 presidential election. That was the “steel”.
("Rosalynn Carter: Advocate for Jimmy Carter and many others, always leveraging her love of politics" Associated Press November 19, 2023)

steel magnolia をさらにネットで見てみると、ロザリン夫人の伝記本のタイトルになっているほか、演劇や映画、音楽グループの名前にも使われていることがわかった。一方で、見出し語に立てている辞書はあまりないようだが、それでも次のような記述が見つかった。

- (chiefly Southern US) A woman who exemplifies both traditional femininity and an uncommon fortitude.
Ms. Deen is an irresistible example of that extraordinary phenomenon of Southern womanhood, the steel magnolia. She is always appealing and gracious but possessed of an unfailing survival instinct — a necessary character trait for a Southern cook to make it.
(Wiktionary)

- colloquial A woman who at once exhibits traditionally feminine qualities as well as indefatigable strength, determination, and resolve. Primarily heard in US.
My grandma was a real steel magnolia, let me tell ya. She was a lady through and through, but when she set her mind to doing something, nothing on God's green earth would stop her.
(Farlex Dictionary of Idioms)

ただ由来などについての情報は見つからず、カーター夫人につけられたニックネームが広まって一般名詞化した(小文字表記にもなった)のか、それともそれ以前からあった表現なのかはわからない。

南部の女性、というと頭に浮かぶのが「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラだ。そこで "Scarlett O'Hara" と "steel magnolia" でネット検索したら、確かにヒットが相当数あった。

しかし上位に表示されるのはみな近年の記事で、ヒット結果を遡っていつ書かれたものかを仔細に調べる時間もなく、これだけではずっと前からある表現かどうか明確なことは言えまい。

スカーレット・オハラで頭に浮かぶ、「アメリカ南部の女性」を指す別の言葉に Southern Belle がある。これも國弘先生に教わったような記憶があるが不確かだ。家柄やしつけの良い女性を指すようだが、これを調べて書いていくと切りがないので今回は見送りたい。

ところで今回のエントリを「アメリカ版やまとなでしこ」と題したのは、タイトルとしてのお遊びもあるが、私は”大和撫子”とは内面の強さを持った女性を指すと考えているので、何となく steel magnolia 共通点があるのではとも思ったからだ。

ただ、”大和撫子”をもっぱらしとやかさの面でとらえる日本男児もいるだろう。それだと Southern belle のイメージや語感の方がより近いかもしれない。

また本場の steel magnolia は、私のような昭和世代からすれば steel の側面がずっと強く感じられるかもしれないと想像したりもする。このへんはあくまで知識にとどまっていることの悲しさである。

さて余談だが、ジミー・カーターが大統領になった時、私はまだ高校生レベルの英語を学んでいる最中だったこともあろうが、ジョージア州出身の彼が話す南部なまりの英語はわかりにくく感じた。

後に同じく南部アーカンソー出身のビル・クリントンが大統領になったが、彼が公の場で話す英語はそこまできつい南部言葉とは思わなかったものの、早口に感じられたのが難物だったことは以前ちょっと触れたことがある(→ こちら)。

本当に手強かったのは、むかしアメリカ南部を旅行した時に現地で聞いた英語だった。南部英語の特徴である "Southern drawl" を実際に耳にしてみると、話し方自体はのんびりしているはずなのに、母音の独特のクセなどで何を言っているのか皆目わからないことがよくあった。

その一方で、米語や英語の dialect の違いを味わえるようになったら面白だろうな、と思ったが、その後、私が仕事などで関わった外国は途上国が中心でアメリカとはほとんど縁がなく、そうした経験も積む機会がないまま今に至っている。

余談ついでに、Arkansas は州名としては /ˈɑː.kən.sɔː/「アーカンソー」だが、この州を流れる同名の川は /ɑːˈkænzəs/「アーカンザス、アーキャンザス」のように発音されることがあり、母音や強勢の位置が違う。

私はその昔ある世界地図を見ていて「アーカンザス川」と書かれているのを見つけ、「こんなマチガイをしている!」と思ったが、何となく気になったので調べてみたら、間違っているのは自分の方であることを知った。

そうしないまま他人に得意顔で話していたら、とんだ恥をかいたかもしれない。やはり確かめないまま知ったかぶりをするのはやめておくべきだと思わされた経験だった。

過去の参考記事:
同時通訳の草分け 國弘正雄先生逝く
クリントンの「不適切な関係」の表現について

にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村←参加中です

nice!(3)  コメント(2) 
共通テーマ:資格・学び

nice! 3

コメント 2

TM

Wikipediaでsteel magnoliaを引いてみると、まず、映画にもなった戯曲と出てきました。なくなられたカーター夫人がこう呼ばれていたとは知りませんでした。あの方のイメージは芯のある、おしとやかな女性でした。Southern belleでもあったと言えるかもしれません。こちらは大和撫子とつながるところもあるようですが、辞書には南部美人という定義と上流階級のお嬢さんという解説もあり(LDCE)、スカーレット・オハラみたいなと書いてありました。古い南部女性のステレオタイプかも知れません。そして皆に共通しているのがsouthern drawlです。ちょっと間延びした感じの話しぶりが、なんともチャーミングですね。
by TM (2023-11-24 09:45) 

tempus_fugit

 スカーレット・オハラはやはり southern belle という方がイメージにあうのでしょうね。southern drawl は確かにチャーミングに響きますが、何を言っているのか理解できなかった時は焦りました。
 おもしろいことに、ドイツ語ではバイエルン地方の言葉が柔らかい響きを持つと感じるので、(北半球での)南の地域に何か共通したものがあるのでしょうか。そういえば京都のことばも柔らかいですね。こうした点について音声学的な研究があるのかなと思ったりもしました。
by tempus_fugit (2023-11-27 23:45) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村← 参加中です
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...