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hug 「(モノが)ぴったりとくっつく」 [読書と英語]

「ハグ」としてもう日本語になっている hug は、相手が人やモノなら「抱く、抱きかかえる」、また対象が考えや信念なら「抱(いだ)く」という意味だが、いずれも主語は人ということになるだろう。では、モノがモノを hug するとしたら、どういうことだろうか。

私の愛読書で、これまで何度か取り上げているアイザック・アシモフの連作短編集「黒後家蜘蛛の会」の原書に、次のような一節があった。

- Avalon said, "Even though the windows are fake, you mentioned drapes. She might have been standing behind one of them."

"No," said Anderssen, "the drapes hug the wall. There would have been an obvious bump if she were behind one. What's more, they only came down to the bottom of the window and there are two feet of bare wall beneath them. She would have been visible to mid-thigh if she were standing behind one."
("The Redhead" in "Banquets of the Black Widowers" by Isaac Asimov)

この短編について補足すると、ある夫婦がホテルのレストランで食事をすることにした。ところが2人は入店前にロビーでケンカをしてしまい、怒った妻は外へ出ると見せかけて逆にレストランに駆け込んだ。夫は少し遅れて後を追って店に入ったが、店内をいくら探しても妻の姿はない。彼女はどこへ消えたのか?

上記の英文は、妻が店内のカーテン (drape) の後ろに隠れていたのではないかという問いに対する、夫の Anderssen の答えである。

カーテンは壁に hug していて、隠れていれば膨らみができてすぐにわかるはず。しかもカーテンは壁の窓(これは fake、つまり外界に開くのではない作り物)の下部までの長さしかなく、そこから床までの2フィートの部分は壁があらわになっていて、妻が隠れて立っていれば足が見えてしまう。

情景が目に浮かぶような描写で(さらには仮定法の勉強にもなる)、hug の意味も想像できるのはないかと思うが、「密着する」「ぴったりとくっつく」「へばりつく」ことを指している。

- [transitive] hug something to fit tightly around something, especially a person’s body
figure-hugging jeans
(Oxford Learner's Dictionaries)

この辞書の記述のように、身体にくっつく場合によく使われるようである。また用例にある figure-hugging は女性について使われ、「身体にぴったりフィットした」「身体の線が出る」ということになる。

なお以前、ぴっちりした細身のパンツ(ズボン)を指す stovepipe pants という語を取り上げたことがある(→こちら)。

今回の実例を拾った The Redhead (邦題「赤毛」)は、上記の補足説明からは謎めいた人間消失事件に聞こえるが、最後に明らかになる真相は、実はほとんどトンチに近いものである。

これまでも書いたように、短編推理小説シリーズの「ブラック・ウィドワーズ」は、本格的なトリックを使ったミステリというよりは、ちょっとした”ひねり”が真相となっている”なぞなぞ”的なお話がほとんどだ。

しかしどの短編も、難しいことを考えず手軽に読める愉しさが、シリーズ通しての独特の雰囲気とあいまって、私の愛読書となっているゆえんである。

過去の参考記事:
・stovepipe pants 「ぴっちりとしたズボン」
https://eigo-kobako.blog.ss-blog.jp/2015-03-20

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marimann

今回も hug という単語のイメージを修正するに至りました。日本語の"ハグする" だけでなく、”ぴったりと体にくっついている”という意味だと、汎用性が高くなりますね!因みに、stovepipeは初めて知りました。
ところで、ここにある The Readhead ですが、これは赤毛red head と "read head-読む頭"、もしくは、threads, などとの掛詞なのでしょうか? うーん、本日もとても楽しみました!
by marimann (2024-03-06 09:17) 

tempus_fugit

すみません、2回目に書いた原題の綴りは私のお恥ずかしい間違いで、1つ目の redhead が正しいです。訂正しました。いろいろ想像を強いてしまい、申しわけありませんでした。
by tempus_fugit (2024-03-08 08:04) 

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