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surtitle 「(舞台の上方に映す)セリフの翻訳字幕」 [音楽と英語]

前回取り上げた exurb は suburb の sub- が ex- に入れ替わった形となっているが、連想で surtitle という単語を短く取り上げておきたい。

「サブタイトル」と日本語になっている subtitle には、「字幕」という意味もある(この場合は複数形になることが多い)。

sub- は「副~」や「下の」などを表すが、反対の「上に」あるいは「超えて」を表す接頭辞として sur- がある。そして、ここが入れ替わったように見えるのが、subtitle ほどなじみはないだろうだが、surtitle(s) という単語だ。

- (通例-s)舞台字幕(オペラ・演劇でせりふの翻訳を舞台上方のスクリーンに映すもの;(米)では supertitle ともいう)
(ジーニアス英和大辞典)

接頭辞 sur- は古フランス語から来ているそうで、super- と同義である。日本語で「字幕スーパー」ということもあり、surtitle よりも supertitle のほうがなじめるかもしれない。ただこの場合の「スーパー」は、この単語ではなく superimpose から来ている。

英語圏の辞書から引用しよう。

- (pl.) words that appear on a screen above or beside the stage to show or translate into a different language what is being sung in an opera, or spoken in a play in the theatre
(OALD)

- (US usually supertitle)
a written form in the listener's own language of the words that are being sung in an opera, shown above the stage during a performance
The correct alignment of surtitles and scenery must have taken a great deal of careful adjustment.
(Cambridge Dictionary)

- Because it performs operas in their original language, it uses surtitles to translate the libretti into English.
It is only slightly frustrating occasionally that one is forced to read the surtitles and miss some of the subtler action but that is a minor scruple.
(Oxford Sentence Dictionary)

映画やビデオで目にする画面下部の字幕はおなじみだが、私が本格的な surtitles/supertitles に接したのは、忘れもしないベルリン・ドイツ・オペラの1993年来日公演だった。もう30年前のことになったのが信じられない。

当時独身だった私にとっても目が飛び出るようなチケット代に最初は迷ったが、「何のために働いているんだ」と自分に言い聞かせて大枚をはたいて購入し、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」(NHKホール)と「ニュルンベルクのマイスタージンガー」(東京文化会館)を観た。どちらも素晴らしい公演だった(この来日公演の「トリスタン」はDVD化された)。

ただ、舞台上方に映し出される歌詞の翻訳字幕を読もうとすると、どうしても舞台がおろそかになるのにすぐに気づいた。恋愛悲劇の「トリスタン」は音楽自体がすばらしく蠱惑的なうえ夢幻的な舞台演出、字幕に目をやると気が削がれる。また喜劇の「マイスタージンガー」は舞台の人物たちの動きがおもしろく、「トリスタン」とは違う意味で字幕のために目を離すのがもったいなく感じた。

ドイツ語は理解できない私だが、どちらも話の筋はほぼわかっている作品ということも幸いし、結局あまり字幕に頼らずに音楽と舞台に集中した(といってもまったく無視はできず、ちらちら見ることもあったが)。まさに上記OSDの例文にある通りだが、さらには「マイスタージンガー」では、「ケンブリッジ」辞典の上記例文ではないが、けっこう長く字幕が出ない時があり、そんなミスが気になってしまったことも覚えている。

余談が長くなったついでにもうひとつ、super- から連想する「スーパーマン」、つまり superman を直訳すれば、ニーチェの思想などで知られる「超人」となる。

これはドイツ語で Übermensch といい、この über (最初の母音は「ウ」と「ユ」の中間のような音)は英語の over にあたるが、綴りを uber にして名づけられたのが、かの「ウーバー」「ウーバーイーツ」である。

昔ちょっとドイツ語をかじったものの今やすっかり忘れてしまったが、Übermensch はまだ頭の片隅に残っていたので、「ウーバー」を初めて聞き知ったときには、ニーチェとの落差に思わず笑いたくなってしまった。

かくいう私は高校時代、哲学を扱う教科「倫理社会」では5段階評価で3を取ったので、何も偉そうなことは言えないが。

今回は半分が雑談・無駄話のエントリになってしまったが、たまにはこういうのも許していただきたい。

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コメント 2

TM

surtitle, subtitleともに位置関係からくる単語なのですね。恥ずかしながら今まで知りませんでした。確かにオペラではステージの上部に、映画ではスクリーンの下部か右端にありますね。その昔、subtitleという単語を知らず、アメリカ人にsuperimposed translationと言うと、すかさずsubtitleという言葉が返ってきて、納得したものでした。あるとき、オペラをヨーロッパのどこかで見たときはsurtitleが英語で出てきて(その時はこの単語を知らなかった)、これは助かると思ったものの、英語訳の理解とステージを見るのとどっちつかずでフラストレーションがたまったことを覚えています。もっとも、すぐに眠りに落ちて目が覚める頃には終わりという、なんとももったいないことをしました。今思えば、10回近く見させてもらったものの、一回として全体の半分はおろか三分の一も見たことはありませんでした。もう時効でしょうから、お咎めはないと思います。今回もよい記事をありがとうございました。
by TM (2024-01-25 17:23) 

tempus_fugit

 ヨーロッパで10回近くもオペラを(寝落ち?もあったとはいえ)観た経験をお持ちとは、羨ましいかぎりです。私の海外経験は途上国が中心で、それはそれでいろいろ貴重な見聞や体験を持てましたが、聴く音楽は日本の曲以外は子供の時から洋モノ志向だったのは変えようがないので、ちょっとつらかったです。それでもサズやウードの独特の響きは楽しめるものでした。
 surtitles は、劇場では舞台との距離がかなりあるため視線の移動もどうしても大きくなるのがつらいところですね。そのうえ母語でないとなるとさらに条件が厳しくなりますね。
 スクリーンや画面の下部(それも内側)につく subtitles はそのへんの負担は小さいですし、英語の作品であれば、字幕を無視してリスニングの鍛錬、英語のキャプションならそれを追って速読の訓練、と学習に利用することもできますね。
by tempus_fugit (2024-01-25 23:41) 

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