SSブログ

dredge 「どぶさらい」と drudgery 「苦行」の不思議な縁 [アメリカ政治]

前回は、アメリカの選挙戦に「どぶ板選挙」という日本的な言葉を使っていた日本マスメディアの記事について取り上げたが、それにからんで箸休め的なことを書いてみたい。

英誌「エコノミスト」の最近の号に、アメリカ大統領選挙の予備選を取り上げた記事があったが、そこで前回書いた barnstorm を含む次のような一節を見つけた。

- It was not just a demographic dividend that Ms Haley had hoped to cash in. She won the endorsement of Chris Sununu, New Hampshire’s popular Republican governor, who barnstormed the state with her. She and her allies heavily outspent Mr Trump, splashing out $31m versus his $15.7m. She spent months traipsing around the state’s breweries and diners, while Mr Trump eschewed such drudgery.
("After winning New Hampshire, Trump is cruising to the nomination" The Economist, January 24, 2024)

traipse は私には見慣れない単語で、文脈からなんとなく想像はついたが、辞書を引くと「重い足取りで歩く」「だらだら歩く」「うろつく」などとある。なかなか覚えられそうにない。

それよりも、文の最後にある drudgery を目にした時、前回取り上げた、日本マスコミの記事の「ヘイリー氏がどぶ板選挙」が頭にあったためか、一瞬 dredge と書いてあるように感じてしまった。

これは「浚渫する」「水底をさらう」ということで、いってみれば「どぶさらい」だ。一方 drudgery は「単調で骨の折れる仕事」という意味である。

まったく違う単語だが、dredge や drudgery を知らなかった人も、この2つを結びつけて「どぶさらいはたいへん」と覚えれば一石二鳥・・・とつまらないことを考えたりした。

といっても、前回書いたように「どぶ」自体が身近なものでなくなっているのが今の日本。子供の頃に親や近所の人と普通に「どぶさらい」をしていた私の時代遅れの感覚を押しつけても、しゃれにすらならない、と反省した。

そう思いつつも、なにげなく dredge と drudgery を一緒にネットで検索してみたら、なんと! この単語を組み合わせた例がいくつかあるではないか。

やはり響きが似通った単語と感じて一緒に使いたくなった人もいる、ということだろうか。

- "Dredge to shed its Drudgery"
(見出し、Chicago Tribune, May 2, 1985)

- "The Drudgery of Dredging" (見出し)
Turtles returned to Green Lake, but residents have not
(Shakerite, October 30, 2019)

さらには、"Dredgin' Is My Drudgery" という題のフォークソングまであることを知った。



なお「どぶさらい」といえば、トランプ氏が大統領に当選した時、「ワシントンのどぶさらいをする」とぶちあげたと日本でも報じられた。既得権益まみれの政治やしがらみを一掃する、ということだが、原語は dredge ではなく、drain 「排水する」「水を抜く」を使った Drain the swamp. だった。「どぶ」でもなく「湿地、沼」ということになる。

そしてこの表現を使ったのはトランプ氏が最初ではなく、以前からあったものであることが下記の Wikipedia の項目からわかる。

"Drain the swamp"
https://en.wikipedia.org/wiki/Drain_the_swamp#

ところで私が読むことを心がけている The Economist 誌は、少し前までは、トランプ氏の対抗馬であるデサンティス氏やヘイリー氏について、「厳しい闘いだが、まったく芽がないわけではない」というような記事も載せていた。

しかし最近は、「ヘイリー氏は今後予備選が行われる州で、トランプ氏にいっそう遅れを取っている」として、もうヘイリー氏の挽回はない、共和党はトランプで事実上決まり、というようなトーンに変わってきたようだ。さらに民主党バイデン氏についても、このままでは本選挙の勝利は厳しい、といった記事を載せるようになってきている。

いわゆる「岩盤支持層」にとどまらず、若い年齢層や非白人にもトランプ氏は支持を広げており、逆にバイデン氏はそうした支持を失っているという。現状ではトランプ氏の再選は現実味を帯びる一方のようだ。

にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村←参加中です

nice!(2)  コメント(2) 
共通テーマ:資格・学び

nice! 2

コメント 2

TM

先日来、米大統領選に関わる表現いろいろ勉強させてもらっています。dredgeとdrudgery、似たような単語で、紛らわしいです。Dredging is drudgeryとは秀逸な覚え方。長年勤めたエネルギー業界では、大きなタンカーの喫水を確保するために浅い航路や港湾を浚渫するのは大きなコストアップ要因で、さぞdrudgeryと関係者は思っていたことでしょう。また脱線しました。トランプ氏については、日本の報道でも「もしトラ」から「ほぼトラ」と確度が上がってきました。ただ、この人は口汚い罵り言葉が多く、日本語にするのもはばかられます。birdbrainなどと人に対して言うことなど普通の選挙戦では考えられません。こういう表現を使うほど支持者に受けるというのがトランプ支持者の特徴か。次のprimaryはSouth Carolinaが注目されていますが、今後の展開が注目されますね。
by TM (2024-02-10 18:18) 

tempus_fugit

 私はアメリカ・ウォッチャーや専門家ではないのであくまで報道などからの印象ですが、トランプ氏への支持は一部の「岩盤支持者」を超えた広がりを見せているようで、対するバイデン氏が大衆的な魅力やアピール力に欠けていることなどからも、トランプ氏の返り咲きの可能性は高まる一方のように見受けられますね。
 チャーチルの名言 "Democracy is the worst form of government–except for all the others that have been tried." が通用しなくなる動きが、それを実践してきたはずの陣営から出てきているのを見ると、危機感を抱かずにはいられません。
by tempus_fugit (2024-02-11 23:48) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村← 参加中です
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...