SSブログ

rabbit warren 「迷路のように入り組んだ場所」 [読書と英語]

数十年前、日本についての報告書の中でヨーロッパ共同体(当時)が日本人の住居を「ウサギ小屋」と呼び、「失礼な言い方だ」「しかし的を射ている」などと話題となったことがあった。rabbit warren という表現をペーパーバックで拾って、そんな昔のことを思い出した。

英和辞書を見ると、「ウサギの繁殖地・飼育場」のほかに、「狭い通路が入り組んだ場所」「迷路のような建物・裏町」「ごみごみした街」といった訳語が載っている。

このところ再読して何度か取り上げている短編推理小説シリーズ「黒後家蜘蛛の会」(アイザック・アシモフ著)の原書、第2巻と第3巻に出てきたもので、いずれもニューヨーク市の街についての形容である。

- "He had lost himself, quite deliberately and successfully, in one of the rabbit warrens of the city, disguised himself more by a new way of life than by anything physical, lived on his savings and didn't touch his stealings, and waited patiently for times to bring him relative safety."
("No Smoking" in "More Tales of the Black Widowers" by Isaac Asimov)

- "Well, the poorer sections of New York are an incredible rabbit-warren that could swallow up an army of police searchers who would encounter frozen-faced inhabitants denying all knowledge of anything."
("Irrelevance!" in "Casebook of the Black Widowers" by Isaac Asimov)

ひとつ目は、ある人物が盗みを働いたあと、rabbit warren に潜んで身を隠し、盗品にも手をつけないようにしてほとぼりが冷めるのを待った、というような内容である。ふたつ目は、貧しい層が住む地域は、犯人を追って踏み込んだ警察の捜査班も途方に暮れるような場所で、住民たちも非協力的で何も聞き出せない、といった意味に取ればよさそうだ。

英語圏の辞書の定義や例文を引用しよう。

- 1 an area under the ground where a lot of wild rabbits live
2 a building with a lot of narrow passages, or a place with a lot of narrow streets, where you can easily get lost
(LDOCE)

- The Pentagon is a rabbit warren of corridors.
The organization's headquarters is a rabbit warren of small, cramped offices.
(Merriam-Webster.com)

そもそも warren があまりなじみのない単語といえると思うが、辞書を見ると、これ一語でほぼ rabbit warren と同じ意味を表すようだ。

イスラエルによる攻撃が続いているガザ地区は、ハマスが地下に迷路のようなトンネルを張り巡らせているという。それを warren を使って表現しているニュース記事があった。

- A central square in Gaza’s largest city that until October 7 was a humming center of Palestinian retail and commercial activity hid an extensive warren of Hamas tunnels used by the terror group’s top officials to hide from Israel, the military has revealed.
("Under the heart of Gaza City, IDF digs up a vast hive of lairs where Hamas’s elite hid" The Times of Israel, December 20, 2023)

- Beneath the warscape of Gaza City lies a vast network of tunnels built by the Palestinian militant group Hamas. Some entrance shafts are hidden among what remains of the city’s multi-storey buildings, ravaged by Israeli air strikes. Others are concealed in sandy dunes outside the city. Or tucked away in private homes. They lead to a warren of interconnecting passages that stretches below Gaza’s streets, extending for hundreds of miles into almost every area of the enclave.
("Inside the tunnels of Gaza" Reuters, Jan. 1, 2024)

なお「迷路」といえば、maze のほかにギリシャ神話やクレタ文明と関わりのある labyrinth があり、英語や欧米文化の理解のうえでもおさえておきたい単語だと思うが、長くなるのでここでは触れないことにする。

以下は冒頭に書いた「ウサギ小屋」についての余談だが、ネットなどで見つかる情報によると、ヨーロッパ共同体の報告書が日本人の住居を rabbit hutch と表現したものだそうで、狭い集合住宅を表すフランス語を英訳して使われたらしい。

その報告書の英語版は、さすがに古すぎるのか見つけることができなかったが、JETRO(日本貿易振興機構)の関連サイトに、

- A European Community leader once aptly commented that the average Japanese is "a workaholic who lives in a rabbit hutch."
https://d-arch.ide.go.jp/je_archive/english/society/book_jes2_d01_02.html

という引用符付きの英文があった。日本人であろう筆者が aptly と書いているのに、ちょっと複雑な印象も受けたが。

当時はちょうど日本経済が絶頂期を迎えようとしていて、日本への風当たり、あるいはやっかみも強まっていた時期だ。そんな状況も、あえて rabbit hutch という表現を使った背景にあったのではないかと邪推したくなる。

私は大学生になった頃だったが、住まいの状況はともかく、日本の国力については「今は昔」を感じざるを得ないのが残念ではある。

にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村←参加中です

黒後家蜘蛛の会2【新版】 (創元推理文庫)

黒後家蜘蛛の会2【新版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/06/11
  • メディア: 文庫


黒後家蜘蛛の会3【新版】 (創元推理文庫)

黒後家蜘蛛の会3【新版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/08/10
  • メディア: 文庫


nice!(2)  コメント(4) 
共通テーマ:資格・学び

nice! 2

コメント 4

TM

warrenといえば、Watership Down(邦訳:ウォーターシップダウンのうさぎたち)を大昔に読んでいた時に見つけた単語と記憶しています。もう50年近く前にベストセラーになったという小説で、入手して読み始めたものの、児童文学というわりにえらく難しい小説でした。途中で投げ出しましたが、ウサギの生息地には迷路のような巣穴があるようで、そういう丘陵地、草原地をイギリスではdownというらしい。すいません、脱線しました。rabbit hutchもかつて日本人が自虐的に好んで使ってました。日本語のウサギ小屋とぴったりですが、仰せのように、ユニットを積み上げたような集合住宅のイメージですね。日本では昔の団地、ホテルでいえばカプセルホテルみたいなものかも。なつかしいものを思い起こさせてもらいました。
by TM (2024-01-16 23:06) 

tempus_fugit

TMさん、今回も博識に富んだコメントのフォローアップ、どうもありがとうございました。「ウォーターシップダウン」は名作としてタイトルは聞き知っているものの、読んだことはありません。難しい内容なのですね。
私も若い頃(まで)には児童文学をそれなりに読みまして、「モモ」や「飛ぶ教室」など、強い印象を受けた作品をいまでも覚えていますが、ある程度の年齢を超えたら感性がすり減ってしまったのか、名作といわれていても児童文学には手が伸びなくなってしまいました。

英語の専門家の中は、英語学習として児童文学を読むように勧める人もいますが、日本語だろうが英語だろうが、読書は自分が興味を持った内容・分野を自律的に読むからこそ面白いし続けられると思っているので、「英語力をつけるために◯◯を読め」というのは本末転倒だと思っています(もちろん児童文学を読むのは意味がない、といいたいのではありません)。つい本筋と関係ない脱線になってしまい申し訳ありません。
by tempus_fugit (2024-01-21 00:20) 

TM

英文を読むことについて、まったく同感です。読めと言われて(薦められて)読んだ本はあまりないのと同じですね。児童文学もそうで、いくら英語の勉強になるといっても興味・関心のないものは読まないし、読めないです。読書は読者の知的レベルにあったものでないと、苦痛でしかない。その段では、高校生の頃、幼稚な英語レベルで読んだ本(自分で見つけたもの)は面白かった(そして、勉強になった!と思っていた)。背伸びして頑張った本はそれなりでしたが、面白かった、勉強になったと自己満足しているだけでした。大学の頃はクリスティの推理小説を結構英語で読みましたが、単にストーリー展開を追っていただけだったかもしれません。大昔、最所フミという英語の達人が、推理小説は読んでもためにならないときつい調子で書いておられて、ショックを受けましたが、今になって、正論だと納得しています。楽しめたのだから良いではないかといえばそれまでですが。年寄りになると、ようやく純粋に好きなものを好きなだけ読むことができるようになったように思います。それでも、楽しみ優先で読み飛ばすことはできず、気になった単語やフレーズはどうしても辞書を引いてしまいますね。辞書を引けば、またこの単語かと落胆することも多く、何が楽しみやねんと思うこと多し。それでもいい加減に読み続けるという老人の日々であります。つまらんことをくだくだと失礼しました。
by TM (2024-01-23 23:17) 

tempus_fugit

最所フミ氏は、國弘正雄氏と同様、現代アメリカ英語についての本や連載を多く書かれていて私もよく読みましたが、そうですか、推理小説についてそうしたことを書いておられたのですか。

推理小説の原書を内容も英語面でも面白いと思って読む人もいるはずですし、何より私がホームズものや「黒後家蜘蛛」シリーズのファンで、また(推理小説ではありませんが)SFの原書に鍛えられたと思っているので、ちょっと残念な発言ではあります。

英文ライターである最所氏は確か、ジャーナリズムの英文こそ現代英語の規範だと書いていたような記憶もありますが、必ずしも優れたとはいえない英文記事だってあるはずでしょうね。

私も学生時代、TIME誌を読むことが一時ブームになったことからずいぶん背伸びをして挑戦しましたが、実際には英語そのものを追っかけようとして結局は英語には逃げられてしまい身につかず、という感じでした。分野が何であれ、本当に内容に興味を持った記事なり本なりが最終的には英語の面でもプラスになったように思います。・・・などと書いているうちにまとまりがなくなってきましてすみません。
by tempus_fugit (2024-01-25 00:48) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村← 参加中です
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...