inflection point 「転換点」(ウクライナが力を入れるFPVドローン兵器) [ニュースと英語]
ウクライナでの戦争を契機にドローン兵器が大きな変貌を遂げているという。英誌「エコノミスト」の最近の号が、巻頭の leader (イギリス英語、editorial のこと)と科学技術のページでこのテーマを取り上げていた。
人間は必要に迫られると能力や技術の向上を図ろうとする。生物としては弱い存在である人類が存続し文明を進展させてきたのもその力があってこそだろうが、お互いを殺し合う手段もそれに当てはまるのは残念なことだ。上記の書き出しも、ドローン兵器の「発展」「改良」「進化」などと書くのは自分としてはためらわれた。
それはともかく、今回読んだ英文で目にとまった inflection point を取り上げてみよう。
- December 2023 was an inflection point, says Mykhailo Fedorov, Ukraine's tech-savvy deputy prime minister, with “tens of thousands” of drones rolling off production lines -- twice the level of the entire previous year.
("How cheap drones are transforming warfare in Ukraine" The Economist, February 5, 2024)
文脈からも意味のあたりをつけることができそうだし、reflection や deflect といった共通点がありそうな単語も連想される。また綴りは違うが、「フレキシブル」と日本語になっている flexible もある。こうした単語はまさに「曲がる」という意味の共通した語源を持つので、実は不思議なことではない。
英和辞典で inflection を引くと「屈曲」「湾曲」「抑揚」とあり、これに point がついた場合は、数学用語や建築用語として「変曲点」「湾曲点」「反曲点」となる。
何やら難しそうだが、「リーダーズ英和辞典」には「転換点(期)」という訳語も載っていて、今回の実例は、専門用語ではないこちらの意味で考えればいいことになる。
英語圏の辞書の中には、むしろこちらの意味を先に、あるいはこちらに絞って記述しているものもあった。
- An inflection point is a time when something changes suddenly or in an important way.
We are at an inflection point in history, maybe the same as in the 1920s.
Inflection points are sometimes hard to identify.
(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)
- A moment of dramatic change, especially in the development of a company, industry, or market.
(American Heritage Dictionary of the English Language)
- a time of sudden, noticeable, or important change in an industry, company, market, etc.:
The invention (by Intel) of the microprocessor was an inflection point.
(Cambridge Business English Dictionary)
Dictionary. com は4年近く前に "Word of the Day" として取り上げ、専門用語についての記述の後に次のような情報を載せている。
- The second meaning of inflection point, “a critical point at which a major or decisive change takes place,” dates from about 2006 and appears to be the coinage of Andrew Grove (1936–2016), a Hungarian-born American businessman, engineer, and author, and a pioneer in the semiconductor industry (Time magazine named him Man of the Year in 1997).
Inflection is the usual American spelling, inflexion the usual British one.
The Latin noun is inflexiō (inflectional stem inflexiōn-) “bending, curving,” a derivative of the verb inflectere “to bend, curve inward.”
https://www.dictionary.com/e/word-of-the-day/inflection-point-2020-06-19/
なお「転換点」を表す英語といえば、ほかに turning point や tipping point が頭に浮かぶが、後者についてはずいぶん前に取り上げたことがある(→こちら)。
ところで The Economist 誌が今回の記事で取り上げているのは FPV (first-person view) drone と呼ばれるもので、ドローンに載せたカメラからの映像を操作者がゴーグルなどで見ながらドローンを操縦する。まさにビデオゲーム、コンピューターゲームの観がある。
小型だが安価で小回りが効くので、ウクライナが大々的に活用を図っている。苦しい立場にある側が、率先してこうした兵器に力を入れている、力を入れざるを得ないのが悲しい現実なのだろう。
なお first-person view については、Wikipedia に以下のような項目があり、その中の Military use という小見出しでドローンでの軍事利用についても書いているが、ごくごく短い記述にとどまっている。
https://en.wikipedia.org/wiki/First-person_view_(radio_control)
過去の参考記事:
・tipping point 「転換点」「元に戻れない点」
https://eigo-kobako.blog.ss-blog.jp/2012-10-29
にほんブログ村←参加中です
人間は必要に迫られると能力や技術の向上を図ろうとする。生物としては弱い存在である人類が存続し文明を進展させてきたのもその力があってこそだろうが、お互いを殺し合う手段もそれに当てはまるのは残念なことだ。上記の書き出しも、ドローン兵器の「発展」「改良」「進化」などと書くのは自分としてはためらわれた。
それはともかく、今回読んだ英文で目にとまった inflection point を取り上げてみよう。
- December 2023 was an inflection point, says Mykhailo Fedorov, Ukraine's tech-savvy deputy prime minister, with “tens of thousands” of drones rolling off production lines -- twice the level of the entire previous year.
("How cheap drones are transforming warfare in Ukraine" The Economist, February 5, 2024)
文脈からも意味のあたりをつけることができそうだし、reflection や deflect といった共通点がありそうな単語も連想される。また綴りは違うが、「フレキシブル」と日本語になっている flexible もある。こうした単語はまさに「曲がる」という意味の共通した語源を持つので、実は不思議なことではない。
英和辞典で inflection を引くと「屈曲」「湾曲」「抑揚」とあり、これに point がついた場合は、数学用語や建築用語として「変曲点」「湾曲点」「反曲点」となる。
何やら難しそうだが、「リーダーズ英和辞典」には「転換点(期)」という訳語も載っていて、今回の実例は、専門用語ではないこちらの意味で考えればいいことになる。
英語圏の辞書の中には、むしろこちらの意味を先に、あるいはこちらに絞って記述しているものもあった。
- An inflection point is a time when something changes suddenly or in an important way.
We are at an inflection point in history, maybe the same as in the 1920s.
Inflection points are sometimes hard to identify.
(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)
- A moment of dramatic change, especially in the development of a company, industry, or market.
(American Heritage Dictionary of the English Language)
- a time of sudden, noticeable, or important change in an industry, company, market, etc.:
The invention (by Intel) of the microprocessor was an inflection point.
(Cambridge Business English Dictionary)
Dictionary. com は4年近く前に "Word of the Day" として取り上げ、専門用語についての記述の後に次のような情報を載せている。
- The second meaning of inflection point, “a critical point at which a major or decisive change takes place,” dates from about 2006 and appears to be the coinage of Andrew Grove (1936–2016), a Hungarian-born American businessman, engineer, and author, and a pioneer in the semiconductor industry (Time magazine named him Man of the Year in 1997).
Inflection is the usual American spelling, inflexion the usual British one.
The Latin noun is inflexiō (inflectional stem inflexiōn-) “bending, curving,” a derivative of the verb inflectere “to bend, curve inward.”
https://www.dictionary.com/e/word-of-the-day/inflection-point-2020-06-19/
なお「転換点」を表す英語といえば、ほかに turning point や tipping point が頭に浮かぶが、後者についてはずいぶん前に取り上げたことがある(→こちら)。
ところで The Economist 誌が今回の記事で取り上げているのは FPV (first-person view) drone と呼ばれるもので、ドローンに載せたカメラからの映像を操作者がゴーグルなどで見ながらドローンを操縦する。まさにビデオゲーム、コンピューターゲームの観がある。
小型だが安価で小回りが効くので、ウクライナが大々的に活用を図っている。苦しい立場にある側が、率先してこうした兵器に力を入れている、力を入れざるを得ないのが悲しい現実なのだろう。
なお first-person view については、Wikipedia に以下のような項目があり、その中の Military use という小見出しでドローンでの軍事利用についても書いているが、ごくごく短い記述にとどまっている。
https://en.wikipedia.org/wiki/First-person_view_(radio_control)
過去の参考記事:
・tipping point 「転換点」「元に戻れない点」
https://eigo-kobako.blog.ss-blog.jp/2012-10-29
にほんブログ村←参加中です
にほんブログ村← 参加中です
かつて仕事で、グラフなどの屈曲点・屈折点という意味でkink pointと言ってましたが、辞書にkinkの変な意味もあるようなので、inflection pointのほうが良いようですね。転換点という意味で使うのは最近の用法でしょうか。tipping pointは頻繁に見かける表現です。また、ドローン技術については、今日のBSニュースで、DDD (drone detective & disabilitating system)というのが紹介されてました。日本企業が開発したもので、1.5圏内のドローンを無力化できるものだそうです。略語が多い世界で、難しいです。ウクライナが関心を示しているようで、ドローン戦のinflection pointになるかも。
by TM (2024-02-19 22:54)
kinky と「近畿」は音が似ているためか、この日本語を聞くと英語の「変な意味」を連想して笑ってしまう英語ネイティブもいるようです。
私は関西に住んでいた時あるネイティブから KinKi Kids についてこれを言われたことがあるほか、近畿大学は英語の正式な名称を Kindai University としていますね。
名詞の kink を私は The Kinks というグループ名から覚えましたが、kink point は知らない言葉だったので、DDD とあわせて勉強になりました。ありがとうございました。
by tempus_fugit (2024-02-23 09:31)
DDDの無力化圏は1.5㎞です。単位が抜けてました。また、K大学の英語名はKindai Uとなったのはここ10年くらいのように思います。昔はそのままローマ字表記でした。日本語でも近畿は使う機会が少なくなり、関西のほうが多いようです。近畿は畿内ともいうようで、京都周辺の国々とのことなので、由緒ある単語ですね。ちょっと毛色は違いますが、かつての会社の略語がOGで、日本語的に発音するとorgyに聞こえると勝手に心配して、会社の連中に気を付けるべしと言ってました。でも英語的アクセントではこの変な単語とは明確に違うので、大丈夫だろうと後になってから思ったのでした。考えすぎでしたね。またまたの脱線でした。
by TM (2024-02-23 18:08)
なるほど orgy と OG ですか。後者は OB に対しての和製英語にもなっていて、使ってしまう日本人もいそうですが、さらに orgy のように発話すると困ったことになりますね。
by tempus_fugit (2024-03-03 21:54)
inflextion pointは「二階の導関数の符号が変化する点」という数学の定義そのままで、傾きや方向が変わる(転換する)ことに着目するのではなく、「その勢いが変化すること」に注目した表現だと思います。Wikipediaの「変曲点」の説明のy=x^3のグラフのように、連続増加関数だけどx=0の左と右では勢いが違っているように、「ドローンの使用がそれまでと比べて格段に増加した」(それまでも増加していたが勢いが違っている)ということかと。
kink pointというのは滑らかでなく、とんがった折れ曲がったということでこちらは方向転換の意味を含めた「屈」の字が訳語にはふさわしいように思えます。
by かつての数学徒 (2024-03-28 13:29)
専門的な視点からの解説ありがとうございました。文系人間の私は恥ずかしながら数学については理解できないのですが、ニュアンスをより適切に把握できたように思います。感謝いたします。
by tempus_fugit (2024-03-30 20:10)