SSブログ

Bronx cheer ってどんな歓声? [英語文化のトリビア]

このところニューヨークに関わる言葉を取り上げている流れでもうひとつ。NY市といえばマンハッタンに焦点が当たりがちだが、最北端にある borough (区)の名前を冠した Bronx cheer という言葉がある。いったい何を指すのだろうか。

これはアメリカ英語での呼び方で、他の英語圏では果実の「ラズベリー」 raspberry と呼ぶそうだ。

こう書くとますます想像がつかなくなるだろうから、ここは実際の映像と音を見ていただくのが手っ取り早いだろう。

Wikipediaでは Bronx cheer ではなく、Blowing a raspberry を見出し語にしている。その動画を見れば、「あ、これのことか」とわかっていただけると思う。あざけりや不平不満を表す時に使われる。
https://en.wikipedia.org/wiki/Blowing_a_raspberry

私の英語学習ノートには、大谷翔平選手についての2年前の記事で拾った実例がメモしてあった。なおタイトルにある Ruthian とは「ベーブ・ルースのようにすごい」という意味の形容詞だ。

- Taking the mound below Yankee Stadium’s famous facade, Ohtani failed miserably but spectacularly. He allowed a career-worst seven runs and got just two outs.
(中略)
A curious crowd of 30,713, the largest since before the pandemic, greeted him with Bronx cheers instead of the usual jeers. Ohtani, sweating profusely, lasted all of nine batters and 41 pitches.
“I was yanking the balls,” he said through a translator. “I wasn’t able to get used to the mound.”
("Sho time in Bronx far from Ruthian: Ohtani lasts 2 outs" AP News, July 1, 2021)

Bronx cheers を usual jeers と対比して並べて使っているのがうまい。ついでに、通訳ではあるが yanking という言葉を使ったのも the Yankees にひっかけたものだろうか、これまたうまい。

さて英語圏の辞書で Bronx cheer を見ると、

- mainly US
a loud noise, imitating a fart, made with the lips and tongue and expressing derision or contempt; raspberry
(Collins English Dictionary)

という記述があり、imitating a fart、つまり「おならのような音」というわけだ。

そして raspberry を引くと、果実の「ラズベリー」以外の意味として、上記と同様の定義があげられており、あわせて

- from raspberry tart, rhyming slang for 'fart'
(Concise Oxford Dictionary)

とあった。さらに raspberry tart を引いてみると、押韻の俗語で heart(心臓)や fart(おなら)を意味するとある。

韻を踏んだ別の単語を利用して言い換えをするイギリス・コックニー英語の押韻スラングについては、かつて何かで説明を読んだことがあるが、私にはほとんど理解不能だった。韻を踏んでいるとはいえ、fart を「ラズベリーのタルト」で表すとは…。そうした発想はなんとも突飛ですごいと思ってしまう。

ということで raspberry のいわれについては何となくわかったが、同じものをアメリカ英語ではなぜ Bronx cheer と呼ぶのか。ブロンクスといえば上記の実例にも出てきたヤンキー・スタジアムがあり、野球などスポーツで観客が飛ばしたヤジが特徴的だったのだろうか。

しかし辞書を見てもはっきりした記述はまったくといっていいほど見当たらなかった。上記の Wikipedia も由来についてはまともに触れていない。私の使っている電子辞書では、唯一「研究社英和大辞典」が

- 1929 ← The Bronx (この土地にある the National Theater の観衆が始めた)

と書いていたが、あるウェブの記事には、これとは違うことが書いてあった。

- The term was first used in 1921 in the Bridgeport Telegram newspaper by Damon Runyon to describe the reaction of a crowd at a football game between Princeton and Stagg’s universities:
“…if Chicago lose the east will grin and give western football the jolly old Bronx cheer.”
「中略)
The Bronx cheer means the same thing but originated in early 20th-century America with New York sports fans. It became a popular reference in the local newspapers and is still commonly used throughout the New England states.
(Blowing a Raspberry or Bronx Cheer – Origin & Meaning)

この”1921年の新聞記事”という情報は他のサイトでも見ることができる。ただ、それぞれが別個に検証して同じ結果に到達したのだろうか。

上記を含めてどれも似たような書き方になっている感じなのも気になる。引き写しによって同じ情報が回っているということもありえるし、由来についてはどうもすっきりしない。

ということで、ブロンクスにまつわることを書いてみたが、私はニューヨーク市は短期の滞在しかしたことがなく、ブロンクスの名物であるヤンキー・スタジアムや動物園に行ってみたかったものの、どの訪問時もその機会が持てなかった。残念である。

ついでだが、私は Bronx cheer, raspberry をすることができない。自分ではこれをやるようなことはないだろうから気にはならないが、口や舌まわりの運動神経(?)というか柔軟性が欠けているのかと思うと、やっぱり残念である。

余談ついでに、大谷翔平選手を獲得するかどうかが話題になるニューヨーク・ヤンキースだが、 英語は語尾の-s が濁って /jæŋkiz/ となるので、細かいことだが発音する時には注意したい。最近は日本語でも原音ふうにヤンキー「ズ」という人が増えているようにも思う。

にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村←参加中です

nice!(3)  コメント(4) 

nice! 3

コメント 4

marimann

blow a raspberry という表現は、状況を想像してみるとなるほどと思いました。また、raspberry tart が fart の お笑形 になるとは、英語の文化探求は尽きることありませんね。さておき、大谷選手がどこのチームに入るか楽しみです。
by marimann (2023-11-22 10:59) 

tempus_fugit

大谷翔平選手にヤンキーズが触手を伸ばすか、ということにも触れられるかなと思いつつ今回を書き始めたのですが、どうやらそれはなさそうですね。コメントどうもありがとうございました。

by tempus_fugit (2023-11-23 22:17) 

TM

Bronxとraspberryの面白いつながりですね。なぜraspberryなのかは分かりませんが、tartとつながって初めて意味があるのですね。tart, fartはdamn, darnと同じようなものと思います。後者はdamnのeuphemismでsoft swear wordと解説されています。コックニーなまりにも似た言葉遊びの世界でしょうか。
by TM (2023-11-24 09:21) 

tempus_fugit

こうした言葉遊びは、一般の非ネイティブには本当に手の届かない領域だと思います。それを追求するような時間とエネルギーは私は持ち合わせていませんが、言葉というものが持つ奥深さを垣間見るような気がします。
by tempus_fugit (2023-11-27 23:04) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村← 参加中です
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...