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トランプに使う俗語 gaslight とバーグマンの名画「ガス燈」との意外な関係 [映画・ドラマと英語]

就任直後からトランプ大統領が矢継ぎ早に出している移民規制などの施策が混乱を招いている。マスメディアの批判記事のひとつで gaslight というスラングを知ったが、これがイングリッド・バーグマン主演の映画「ガス燈」に由来することがわかり、ちょっと驚いた。

読んだのはCNNに掲載された元フィラデルフィア市長の論評で、その中に gaslight が出てくる。トランプに呼びかけるスタイルを取っていて、下記の you とは大統領を指している。

- The lesson many people have drawn from your behavior is that you are employing the technique of gaslighting, defined as manipulating someone "by psychological means into doubting their own sanity."
("President Trump, we know what you're up to" by Michael A. Nutter
CNN January 30, 2017)

同じ記事にもう一か所、

- Your diehard followers still adore you, the election is over, you won and now it is your turn, whether some like it or not, to sit in the White House as the 45th President of the United States of America. It's now time for you to govern on behalf of the entire 325 million of us in America, and reassure the rest of the world that the gaslight period has ended.
The campaign is over. It's time to govern for ALL America.
(ibid.)

として出てくる。

最初の引用部分に意味が書かれているが、これを記載している辞書はあまりなく、私が使っている英和辞典ではひとつしかなかった。

- (米俗)~の気を狂わす;(人)を平然とだます
(ジーニアス英和大辞典)

- (slang) To manipulate someone psychologically such that they question their own sanity.
gas +‎ light. The verb sense derives from the 1938 stage play Gas Light, in which a husband attempts to convince his wife and others that she is insane by manipulating small elements of their environment.
(Wiktionary)

- gaslighted or gaslit, gaslighting.
4. to cause (a person) to doubt his or her sanity through the use of psychological manipulation:
How do you know if your partner is gaslighting you?
def 4 in reference to the 1944 movie Gaslight, in which an abusive husband secretly and repeatedly dims and brightens the gaslights in the house while accusing his wife of imagining the flickering
(Dictionary.com based on the Random House Dictionary)

- ‘Is this normal, or am I being gaslighted?
She gaslights her mother into a pitiable downfall.
She gaslights him into believing he is developing superpowers.
(Oxford Dictionaries)

英語圏の辞書にある定義から見ると、ひとつ目に引用した「ジーニアス」の語義は間違いではないものの今一歩と感じるが、それはともかく、「おっ」と思たのは、戯曲およびそれに基づいた映画の Gaslight に由来する、という記述だった。これはあの「ガス燈」のことではないか?

思わず「あの」と書いてしまった。私の両親は若いころ映画ファンだったので(田舎での数少ない娯楽が映画だったとのこと)、家には古い映画雑誌が結構あって、子どもの私はよくそれを眺めて育った。載っているのは当時すでに”往年の”と呼べるような白黒作品ばかりだったが、実際には観ていないのに題名やスター(「スタア」と書くべきか)、またあらすじを知った映画が結構あった。

大きくなってから、そうした作品のいくつかをテレビや名画座(これも昔の存在となってしまった)、あるいはビデオで観たが、「ガス燈」もそのひとつだった。

主演女優 Ingrid Bergman の美貌に見とれたはずだが、今では「観たことは覚えているが内容は覚えていない」作品となってしまっている。私にとってバーグマンは、やはり超名作「カサブランカ」 Casablanca の印象が強すぎるためだろうか。

「あの」と書いた理由の説明が長くなってしまったが、日本版「ウィキペディア」を見たら、この言葉がちゃんと載っていたのでまたまた驚いた。一部を引用しよう。

- この作品(特に1944年の米国版映画)の内容から、1970年代後半以降「ガスライティング」が心理的虐待を表す用語として使われるようになった。
(ウィキペディア 「ガス燈」

- ガスライティング(英: gaslighting)は心理的虐待の一種であり、被害者にわざと誤った情報を提示し、被害者が自身の記憶、知覚、正気を疑うよう仕向ける手法。(中略)

『ガス燈』という演劇(およびそれを映画化したもの)にちなんでいる。(中略) 妻が正気を失ったと当人および知人らに信じ込ませようと、夫が周囲の品々に小細工を施し、妻がそれらの変化を指摘すると、夫は彼女の勘違いか記憶違いだと主張してみせる。劇の題名は、夫が屋根裏で探し物をする時に使う、家の薄暗いガス燈に由来する。妻は明かりが薄暗いことにすぐ気付くのだが、夫は彼女の思い違いだと言い張るのだった。

相手の現実感覚を狂わせようとすることを「ガスライティング」と話し言葉で言うようになったのは、少なくとも1970年代後半以降である。
(ウィキペディア 「ガスライティング」)

ほぼ同内容の英語による説明が下記の Wikipedia で読める。
https://en.wikipedia.org/wiki/Gaslighting

筋金入りの名画ファンやバーグマンフリークだったら、CNNの引用部分を目にしただけでピンと来て、「意外な関係」でも何でもないのだろうが、私のレベルではそこまで行かず思わぬ”発見”となったので、ちょっと大げさなタイトルにした次第である。

今回トランプは一種のダシにすぎない扱いとなってしまったが、いかにも彼に似つかわしいと思って、ふと American Dialect Society の2016年版「今年の英単語」 "Word of the Year" の発表文を再見したら、なんとちゃんとこの gaslight が選考対象になっているではないか! 去年の傾向から見て、トランプについて gaslight が使われていたのは間違いあるまい。
http://www.americandialect.org/wp-content/uploads/2016-Word-of-the-Year-PRESS-RELEASE.pdf

さらに実例を探すとおもしろいだろうが、長くなるのでこのへんにしておこう。いずれにせよ、気づかなかった自分の実力不足が悲しくなる。

余談だが、Gaslight の邦題「ガス燈」を、いくつかの英和辞典は「ガス灯」と表記している。こうしたカルチャー系の記述ミスは詳しい人にとっては興ざめだ。また、複数の辞書がそろって同じ間違いをしているのを見ると、同じ典拠から孫引きしたのではないかと疑ってしまう。

ついでに、バーグマンはこの「ガス燈」でアカデミー主演女優賞を受賞したが、彼女の代表作といえば、やはり先に書いた「カサブランカ」だろう(少なくとも日本人にとっては)。この作品にある名セリフについて以前書いたことがあるので、参考までに記しておきたい(→ 実在しない名セリフ (映画「カサブランカ」など)


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