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「胴体着陸」は belly-landing か [和英表現]

高知空港で起きたボンバルディア社製の航空機事故を報じる日英のニュース記事を読み比べていたら、日本語と英語の表現について、ちょっと面白いことに気づいた。

この事故は、前輪 (英文記事では front wheels, front landing gear, nose gear など) が降りなかったので (failed to lower..., to descend..., to deploy..., to extend... など) 、後輪 (rear wheels, main gear など) だけで緊急着陸したというものだ。

日本の新聞の多くは、この航空機が「胴体着陸」したと書いていた。そして、日本のある英字新聞も、その英語にあたる belly-land, belly-landing を使っていた。

- Passengers arriving at Kochi Airport, which was reopened Wednesday morning after it was closed Tuesday following the belly-landing of an All Nippon Airways (ANA) plane, ...

- ... cabin attendants must calm down passengers and tell them how to prepare for a belly landing ...

ところが、さらに海外のメディアに載っている記事を読んだら、この belly-land が見当たらないのに気づいた。代わりに、次のような表現が使われている。

- An All Nippon Airways passenger plane with 60 people aboard made a successful emergency landing Tuesday after circling an airport in western Japan for nearly two hours when its front landing gear failed to descend. No one was injured when the Bombardier DHC-8 turboprop made a controlled landing on its rear wheels and then carefully touched its nose to the runway.

- Japanese plane forced to make emergency landing on nose (見出し)

- Sparks fly as plane lands on nose (見出し)

気になったので、英英辞典で belly-land, belly-landing を調べてみた。

- to land on the underside without the landing gear

- to land (an aircraft) directly on the fuselage, as because of defective landing gear

- landing of aircraft with wheels up: an emergency landing of an aircraft with the wheels not extended

英英辞典の定義を読むと、belly-land とは、車輪を出さずに着陸することを指すようにみえる。日本語でも、今回の全日空機は「胴体着陸」したと呼べるか議論できると思うが(この言葉を使っていないメディアもあった)、それはともかくとして、英語では belly-landing なのか、それとも違うのか。

ちょうどネイティブスピーカーと話す機会があったので、この点について尋ねてみた。今回の事故を知っていることを確かめたうえで、先入観を与えないように私の疑問は説明せずに、これを belly-landing というかどうか、端的に訊いてみた。

返ってきた答えは、ノーだった。彼の英語による説明はうまく再現できないが、後輪を使って着陸していること、また、接地したのは機首の部分だけであり、belly とは言いがたいこと、をあげていた。今回のような着陸を belly-landing とは言わない人がいたわけで、私の疑問が、とりあえずは裏付けられた形だ。

もちろん、ひとりの意見だけで、「今回のような着陸を belly-land というのは誤り」と決めつけるつもりはない。論より証拠、このネイティブの話を聞いた後、自宅に帰ってこの事故についてさらにいくつかの英文記事を読んでいたら、こんな文章を見つけた。

- "I would also like to confirm that this is the first time ever that a Q400 lands on the belly like that without the front landing gear open."

この発言をしたのは、誰あろう、航空機を製造したボンバルディア社のスポークスマン。業界の人みずから、今回の事故に belly を使っているわけである。

いろいろ調べてみて、結局「こうだ」という唯一の答えにたどりついたというわけではなかったが、ネイティブといっても、人によってことばの使い方、もののとらえ方には差があるのだ、という当たり前のことに改めて気づかされた。また、訳語ではなく、具体的に何を意味するのかという定義にさかのぼることも時には意味があると考えた。

何ともしんどいことではあるが、外国語を学ぶとは、そうやって一つ一つ地道にベールをはがしていくことに他ならないのだろう。

追記(2007年7月):skidoo という単語について調べていたら、ボンバルディア社が作ったスノーモービルにこの名前があることがわかったので、こちらに書いた。
続・skidooって何だ?

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