SSブログ

オバマ宣誓と分離不定詞と「スター・トレック」 [文法・語法]

宣誓ミスの話を続ける。最高裁長官が faithfully の場所を間違えたことで思い出したのは、ネイティブの間でも話題になる、to 不定詞と副詞の位置についての問題である。

少し文法の話になるが、不定詞では to と動詞はつながっていなくてはいけない、その間に副詞を入れてはいけない、というのが規範だそうだ。しかし実際には、to と動詞の間に副詞がはさまっている例が見られる。これは「分離不定詞」とか「分割不定詞」 split infinitive と呼ばれている。

合衆国憲法が定める大統領の宣誓では、"...that I will faithfully execute..." となっている。ここでは to は使われていないので、分離不定詞とはいえないのだろう。だとすれば誤っているわけでもあるまい(何せ合衆国憲法である)。しかし、この語順は何となく分離不定詞を連想させると思うが、どうだろうか。

そこで、宣誓の時に最高裁長官の頭を分離不定詞のことがよぎったということはなかっただろうか、と考えた。言葉にうるさくなくてはならない立場の人である。意識的あるいは無意識的に、動詞の前に副詞を置くのを嫌う心理が働き、思わぬミスにつながった、ということがなかっただろうか。確かめる術はないし、また本人も今回の件について口を開くことはないだろうけど。

ここで脱線だが、私が分離不定詞のことを初めて意識したのは、前回も触れたSFテレビドラマ「スター・トレック」 Star Trek によってだった。毎回冒頭で「これは宇宙の調査飛行を行う宇宙船の物語である」といった内容のナレーションが流れるのだが、その一部は、

- ...Its five-year mission: to explore strange new worlds, to seek out new life and new civilizations, to boldly go where no man has gone before.

となっている。

私がこの原文を知ったのは高校生の時だったが、"to boldly go..." という語順が何となくひっかかった。その時は「こんな風にもいうんだ」と漠然と考えただけだったが、その後分離不定詞を知った時は「何だ、Star Trek のオープニングのことじゃないか」と思ったものだ。

Oxford Dictionary of Catchphrases という、トイレで読むのにうってつけの辞書を持っているが、"to boldly go..." のくだりを見出しとして収録したうえ、分離不定詞とからめて記述している。一部を引用しよう。

- This, like other catchphrases from the series, became so popular (中略) that the split infinitive which at first offended many purists is now taken for granted. In fact, the idea of changing the word order of the phrase would undoubtedly destroy the emphasis (後略)

このドラマのおかげで分離不定詞が受け入れられるようになった、とは半分以上は冗談だろうが、それもありかもしれないと思うと楽しい。

余談だが、この口上で man が使われているのは、いかにも politically correctness が今より問題にされていなかった1960年代の作品らしい。1980年代に新しいシリーズが制作された際には、"where no one..." と変更された。

さて話を戻すと、今回の宣誓ミスと分離不定詞をめぐっては、英語ネイティブが書いているサイト等でも結構取り上げられていることがネットを眺めていてわかった。「これは分離不定詞なのか」と質問したり、「間違った文ではないが良い文とも言えない」と由緒ある宣誓文に意見したりと、興味深いものがいろいろある。個人のブログが多かったので引用は避けるが、そのうちにもっとじっくり検索して読んでみたい。

Star Trek についての Oxford Dictionary of Catchphrases の記述もあり、最後に、私が持っている英文法の本が分離不定詞をどう記述しているか調べてみた。

「英文法解説」(改訂三版1991年)は、「できるだけ避けるのがよい」としたあと、「英米の文法書にはこの分割不定詞の問題がよく扱われているが、われわれ日本人には関係が薄い」と書いている。

出版がずっと古い「英文法精解」(改訂版1967年)は、「副詞が不定詞を修飾していることを明確に示すため」と説明しているが、避けるべきかどうかには触れていない。

「ロイヤル英文法」(改訂新版2000年)は、「この場合の副詞には、程度・様態・時などを表すものが多い」と説明した後、「文法上なるべく避けた方がよいとされてきたが、実際には意味を明確にしたり、文の自然のリズムを保つたりするためによく見られる形であり、最近は容認されてきている」としている。

また「精解」と「ロイヤル」は、分離不定詞にした方が意味が明確になる(しないとあいまいになる)ことを例文をあげて示している。「ロイヤル」の姉妹書「表現のためのロイヤル英文法」の記述は簡単ではあるが、やはり同じことを例文つきで説明している。

「英文法解説」は定評ある文法書として知られるが、分離不定詞の記述はちょっと寂しい、というのが率直な感想であった。

なお、私も文法の理解については自信がないので、今回の内容に誤りがあったらご指摘いただけたら幸いである。


The Oxford Dictionary Of Catchphrases (Oxford Paperback Reference)

The Oxford Dictionary Of Catchphrases (Oxford Paperback Reference)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr
  • 発売日: 2007/01/08
  • メディア: ペーパーバック


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:資格・学び

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村← 参加中です
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...