続・「クジラの構文」の実例~007の原作より [文法・語法]
学校英語の悪例とされることがある no more ~ than ... をオバマ大統領が就任演説で使い、それが誤訳されたことを先日書いたが、やはり少し前に紹介した「007 ロシアより愛をこめて」の原作を読んでいたら、偶然にもこの構文が出てきた。
ソビエトの秘密機関が、殺し屋として養成したイギリスからの亡命者を使ってジェームズ・ボンドを亡きものにしようと計画を練っている場面。そんな男を使って大丈夫かという指摘に対して、責任者が次のように答える。
- "The man is in the position of a drug addict. He would no more abandon the Soviet Union than a drugger would abandon the source of this cocaine. He is my top executioner. There is no one better."
(Ian Fleming: From Russia with Love)
この小説は1957年に出版された古いものとはいえ、学術書でもなんでもない。大衆向けスパイ小説に出てくるふつうの会話文である。
先日のエントリでも書いたように、この構文はかつて、
- A whale is no more a fish than a horse is.
「クジラが魚だというのは、馬が魚だというのと同じことだ」「クジラが魚ではないのは、馬が魚でないのと同じだ」
という例文が「クジラの構文」「クジラの公式」と呼ばれて定番になっていた。
バカバカしい例文だという指摘が以前からあり、しかし個人的には、「クジラ」がかえって印象的で効果的だったことは先日触れたとおりだ。そこまで「目くじら」を立てることもないのでは、と思ったりもする。
あらためて私が持っている参考書を見たら、江川泰一郎「英文法解説」と、先年復刻された山崎貞「新々英文解釈研究」といった息の長い著作が、この定番の例文を採用している。マーク・ビーターセンの「表現のための実践ロイヤル英文法」は、「クジラ」ではない例文を載せている。
「クジラの構文」については、かつて受験英語の代表例のように扱われたためか、「例文の内容が役に立たない」という声と、「no more ... than という(わかりずらい)構文はふだんの生活で使うものではなく、無意味」という批判が、ごっちゃになってしまっている点もあるのではないかと思う。
この構文が現代の英語でも使われていることは、オバマ大統領の演説や007の例だけでなく、
- Robert Stavins, an economist at the John F. Kennedy School of Government at Harvard, said a surprise winter storm no more disproved climate change than a hot day in August proved it.
( http://www.nytimes.com/2011/10/31/nyregion/october-snowstorm-sows-havoc-on-northeastern-states.html?pagewanted=all )
- At last, our federal government understands: a chimpanzee should no more live in a laboratory than a human should live in a phone booth.
( http://www.nytimes.com/2013/01/23/science/nih-moves-to-retire-most-chimps-used-in-research.html?_r=0 )
といったメディアの記事からも明らかである。であるからには、自分から会話等で使わないとしても、学習のどこかの段階でしっかりと習得しておかなくてはならないのではないかと考える。
ネットで検索してみると、この例文をめぐるエントリがいくつか見つかり、今も議論の的になっているらしいことがうかがえる。例えば次のようなものだ。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1118535221
一方、この構文をやさしく教えようとした解説記事も山のように見つかる。いずれにせよ、日本人にとって難物で、かつ気になる構文であることに変わりはないようである。
関連記事:
・オバマ就任演説の誤訳~ no more A than B について
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-02-02
・山崎貞「新々英文解釈研究」が復刻
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2009-03-01
・「表現のための実践ロイヤル英文法」
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2006-06-10
From Russia with Love: James Bond 007 (Vintage)
- 作者: Ian Fleming
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 2012/08/02
- メディア: ペーパーバック
ソビエトの秘密機関が、殺し屋として養成したイギリスからの亡命者を使ってジェームズ・ボンドを亡きものにしようと計画を練っている場面。そんな男を使って大丈夫かという指摘に対して、責任者が次のように答える。
- "The man is in the position of a drug addict. He would no more abandon the Soviet Union than a drugger would abandon the source of this cocaine. He is my top executioner. There is no one better."
(Ian Fleming: From Russia with Love)
この小説は1957年に出版された古いものとはいえ、学術書でもなんでもない。大衆向けスパイ小説に出てくるふつうの会話文である。
先日のエントリでも書いたように、この構文はかつて、
- A whale is no more a fish than a horse is.
「クジラが魚だというのは、馬が魚だというのと同じことだ」「クジラが魚ではないのは、馬が魚でないのと同じだ」
という例文が「クジラの構文」「クジラの公式」と呼ばれて定番になっていた。
バカバカしい例文だという指摘が以前からあり、しかし個人的には、「クジラ」がかえって印象的で効果的だったことは先日触れたとおりだ。そこまで「目くじら」を立てることもないのでは、と思ったりもする。
あらためて私が持っている参考書を見たら、江川泰一郎「英文法解説」と、先年復刻された山崎貞「新々英文解釈研究」といった息の長い著作が、この定番の例文を採用している。マーク・ビーターセンの「表現のための実践ロイヤル英文法」は、「クジラ」ではない例文を載せている。
「クジラの構文」については、かつて受験英語の代表例のように扱われたためか、「例文の内容が役に立たない」という声と、「no more ... than という(わかりずらい)構文はふだんの生活で使うものではなく、無意味」という批判が、ごっちゃになってしまっている点もあるのではないかと思う。
この構文が現代の英語でも使われていることは、オバマ大統領の演説や007の例だけでなく、
- Robert Stavins, an economist at the John F. Kennedy School of Government at Harvard, said a surprise winter storm no more disproved climate change than a hot day in August proved it.
( http://www.nytimes.com/2011/10/31/nyregion/october-snowstorm-sows-havoc-on-northeastern-states.html?pagewanted=all )
- At last, our federal government understands: a chimpanzee should no more live in a laboratory than a human should live in a phone booth.
( http://www.nytimes.com/2013/01/23/science/nih-moves-to-retire-most-chimps-used-in-research.html?_r=0 )
といったメディアの記事からも明らかである。であるからには、自分から会話等で使わないとしても、学習のどこかの段階でしっかりと習得しておかなくてはならないのではないかと考える。
ネットで検索してみると、この例文をめぐるエントリがいくつか見つかり、今も議論の的になっているらしいことがうかがえる。例えば次のようなものだ。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1118535221
一方、この構文をやさしく教えようとした解説記事も山のように見つかる。いずれにせよ、日本人にとって難物で、かつ気になる構文であることに変わりはないようである。
関連記事:
・オバマ就任演説の誤訳~ no more A than B について
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-02-02
・山崎貞「新々英文解釈研究」が復刻
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2009-03-01
・「表現のための実践ロイヤル英文法」
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2006-06-10
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