キム・カーダシアンの「キモノ」騒動~逆のようで実は似ている appropriate と misappropriate [注意したい単語・意外な意味]
アメリカのタレント、キム・カーダシアンが補正下着の自主ブランドを「キモノ」 Kimono と名づけ、商標登録まで行ったことが物議を醸している。日本人あるいは日系と思われる人たちによる英文の抗議ツイートが多数発せられ、英語圏および日本のマスメディアでも取り上げられている。
日本の伝統文化といえる「着物」の名前を個人のブランドの商標に(しかも本来とは似ても似つかない下着の呼称として)使おうというのは「文化の盗用」、異文化軽視もはななだしい、という批判だ。このままだと kimono は日本の服ではなく下着の意味になってしまうのでは、という懸念の声もある。
(※追記ーこのエントリをアップした当日、キム・カーダシアンは「Kimono の使用を取りやめる」と発表した。なのでニュース的な意味ではあっという間に古いものになってしまったが、以下、書きかえずにそのままにしておく。)
そうした英語の記事を読んでいて目についたのが appropriation だ。動詞形は appropriate で、形容詞としては「適切な」「ふさわしい」だが、こちらは「盗用する」「私物化する」という意味になる。
実例をいくつか引用しよう。二つ目にある the line between cultural appropriation and appreciation なんて、うまい表現である。
- She was lambasted on social media following the launch earlier this week, with some people tweeting using the hashtag #KimOhNo.
Many said associating kimonos with underwear constituted cultural appropriation and undermined the Japanese garment, which is the opposite of shapewear.
("Kim Kardashian West denies cultural appropriation in kimono row" msn.com)
- Kardashian West’s appropriation of the word “kimono” for a line of products that have nothing to do with kimonos is problematic because it completely removes the word from any cultural or historical contexts.(中略)
Of course, Kardashian West is not the first person to misuse the word “kimono” or misfire when it comes to Asian culture.
The fashion world has long struggled with the line between cultural appropriation and appreciation.
("Yes, Kim Kardashian’s ‘Kimono’ is cultural appropriation. And she’s not alone" Los Angeles Times, June 26, 2019)
私は最初に覚えたのが形容詞の方なので、appropriate を見るとどうしても「適切な」の方を先に考えるが、動詞としてピンとくるのはむしろ misappropriate(名詞形は misappropriation)という単語である。
mis- をつけると「誤った」という意味になったり、時には否定を表したりするが、こちらは「着服する」「横領する」ということで、何となく似たような行為を表すのがおもしろい。というか、まぎらわしい。
それどころか、辞書であらためて appropriate を引くと、こちらにも「着服する」という訳語が載っているし、正当な目的でカネを「割り当てる」「計上する」という場合にも使える。ますますめんどうである。
これは英語圏の辞書を見たほうがよさそうだ、ということで Longman Dictionary of Contemporary English の記述を比べてみよう。
- appropriate
1. to take something for yourself when you do not have the right to do this
syn steal
He is suspected of appropriating government funds.
2. to take something, especially money, to use for a particular purpose
Congress appropriated $5 million for International Women's Year.
- misappropriate
to dishonestly take something that someone has trusted you with, especially money or goods that belong to your employer
He claimed the finance manager had misappropriated company funds.
確かにどちらも似てはいるものの、後者は something that someone has trusted you with というところがポイントだろう。つまり同じネコババではあるが、misappropriate の方は「信頼されて託されていたのを裏切った」ということになる。
私が使っている電子辞書の英和辞典でこれについて多少なりとも書いていたのは、「ランダムハウス」の
-(委託された金などを)使い込む、横領する、不正流用する、着服する
だけであった。
ついでに注意したいのは、appropriate は品詞によって発音が違うことだ。おなじみの形容詞は /əpróupriət/ だが、動詞だと /əpróuprièit/ で、最後の母音が「エイ」のようになる。
形容詞はあいまい母音だが、動詞と同じように発音している人も結構いるのではないだろうか。まあ強勢の位置はどちらも第2音節なので、それを外さなければ実際にそれほど問題にはならないかもしれない。
キム・カーダシアンの「キモノ」騒動は、個人的にはやはり残念な思いがする。また、ツイッターで日本の名前の人たちが(日本人だけでなく、中には日系人がいるのかもしれないが)英語で積極的に意見を発信しているのを読んで頼もしく思った、ということを付記しておきたい。
なお以前、kimono が本来の「着物」から離れて使われ始めているらしい例について取り上げたことがあるので、参考記事としてあげておきたい。
過去の参考記事:
・open (the) kimono 「キモノを開く」って何だ?
https://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2014-11-07
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日本の伝統文化といえる「着物」の名前を個人のブランドの商標に(しかも本来とは似ても似つかない下着の呼称として)使おうというのは「文化の盗用」、異文化軽視もはななだしい、という批判だ。このままだと kimono は日本の服ではなく下着の意味になってしまうのでは、という懸念の声もある。
(※追記ーこのエントリをアップした当日、キム・カーダシアンは「Kimono の使用を取りやめる」と発表した。なのでニュース的な意味ではあっという間に古いものになってしまったが、以下、書きかえずにそのままにしておく。)
そうした英語の記事を読んでいて目についたのが appropriation だ。動詞形は appropriate で、形容詞としては「適切な」「ふさわしい」だが、こちらは「盗用する」「私物化する」という意味になる。
実例をいくつか引用しよう。二つ目にある the line between cultural appropriation and appreciation なんて、うまい表現である。
- She was lambasted on social media following the launch earlier this week, with some people tweeting using the hashtag #KimOhNo.
Many said associating kimonos with underwear constituted cultural appropriation and undermined the Japanese garment, which is the opposite of shapewear.
("Kim Kardashian West denies cultural appropriation in kimono row" msn.com)
- Kardashian West’s appropriation of the word “kimono” for a line of products that have nothing to do with kimonos is problematic because it completely removes the word from any cultural or historical contexts.(中略)
Of course, Kardashian West is not the first person to misuse the word “kimono” or misfire when it comes to Asian culture.
The fashion world has long struggled with the line between cultural appropriation and appreciation.
("Yes, Kim Kardashian’s ‘Kimono’ is cultural appropriation. And she’s not alone" Los Angeles Times, June 26, 2019)
私は最初に覚えたのが形容詞の方なので、appropriate を見るとどうしても「適切な」の方を先に考えるが、動詞としてピンとくるのはむしろ misappropriate(名詞形は misappropriation)という単語である。
mis- をつけると「誤った」という意味になったり、時には否定を表したりするが、こちらは「着服する」「横領する」ということで、何となく似たような行為を表すのがおもしろい。というか、まぎらわしい。
それどころか、辞書であらためて appropriate を引くと、こちらにも「着服する」という訳語が載っているし、正当な目的でカネを「割り当てる」「計上する」という場合にも使える。ますますめんどうである。
これは英語圏の辞書を見たほうがよさそうだ、ということで Longman Dictionary of Contemporary English の記述を比べてみよう。
- appropriate
1. to take something for yourself when you do not have the right to do this
syn steal
He is suspected of appropriating government funds.
2. to take something, especially money, to use for a particular purpose
Congress appropriated $5 million for International Women's Year.
- misappropriate
to dishonestly take something that someone has trusted you with, especially money or goods that belong to your employer
He claimed the finance manager had misappropriated company funds.
確かにどちらも似てはいるものの、後者は something that someone has trusted you with というところがポイントだろう。つまり同じネコババではあるが、misappropriate の方は「信頼されて託されていたのを裏切った」ということになる。
私が使っている電子辞書の英和辞典でこれについて多少なりとも書いていたのは、「ランダムハウス」の
-(委託された金などを)使い込む、横領する、不正流用する、着服する
だけであった。
ついでに注意したいのは、appropriate は品詞によって発音が違うことだ。おなじみの形容詞は /əpróupriət/ だが、動詞だと /əpróuprièit/ で、最後の母音が「エイ」のようになる。
形容詞はあいまい母音だが、動詞と同じように発音している人も結構いるのではないだろうか。まあ強勢の位置はどちらも第2音節なので、それを外さなければ実際にそれほど問題にはならないかもしれない。
キム・カーダシアンの「キモノ」騒動は、個人的にはやはり残念な思いがする。また、ツイッターで日本の名前の人たちが(日本人だけでなく、中には日系人がいるのかもしれないが)英語で積極的に意見を発信しているのを読んで頼もしく思った、ということを付記しておきたい。
なお以前、kimono が本来の「着物」から離れて使われ始めているらしい例について取り上げたことがあるので、参考記事としてあげておきたい。
過去の参考記事:
・open (the) kimono 「キモノを開く」って何だ?
https://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2014-11-07
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タグ:日本文化
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