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菅首相の英語のツイートにイチャモンをつけた人たち [日本のニュース]

週末に最近のニュース記事をチェックしていたら、菅首相の英文ツイートが一部で物議を醸したことを知った。これをめぐって思わぬオチもついたようなので、取り上げてみたい。

新型コロナウイルスに感染したトランプ大統領へのお見舞いとして、菅氏が今月3日に発信したものだ。少し前なら公式発表という形を取っていたはずだが、今や個人でツイートしても何の不思議もない時代になってしまった。

- Dear President Trump,
I was very worried about you when I read your tweet saying that you and Madam First Lady tested positive for COVID-19. I sincerely pray for your early recovery and hope that you and Madam First Lady will return to normal life soon.
https://twitter.com/sugawitter/status/1312144029199417344

菅氏のツイートをフォローしているわけではないので、ニュース記事で取り上げられたのを読んで初めて知り、へえっと思った。

そしてその記事には、こんなことが書かれていた。

- (菅首相の)メッセージに対し、7日の自民党外交部会で「英文のレベルが低すぎる」と苦言が相次いだ。外務省の担当者は「サポート態勢を組んで対応する」と低姿勢だった。
(中略)
夫妻の感染を知り「心配した」とする英文が「I was worried」と過去形になっており、出席議員は「今は心配していない、という意味に受け取られる」と指摘した。「日本語を自動翻訳したような文章だ」との酷評も上がった。
菅首相のツイート、自民から苦言「英文のレベル低すぎる」
共同通信・Yahooニュース 2020年10月7日)

この記事を読んで、そんなにひどい英文なのか、と考えながら実際のツイートを探し、上記の英文を見つけた。菅氏本人がこれを書いたのか、誰かの助けを借りたのか、それとも機械翻訳なのかはわからないが、なんだ一応ちゃんとした英語になっているじゃないか、と感じた。

そして批判のもとになった "I was very worried about you when I read your tweet saying that you and Madam First Lady tested positive for COVID-19." については、「うーん、そんなに問題のある英文なのかなあ」と思った。

「感染したと知った時には大変心配しました」と言っているわけだが、英語的にそんなにヘンだろうか、記事にある "I was worried" の3語だけを切り取って「今は心配していないという意味だ」と批判したのだとしたら、それはちょっと行き過ぎだとはいえまいか。

一方で、批判が正しいとしたら、私も英語を基礎からやり直さなくていけないだろうか、と自分の英語力が不安になってきた。

そう思いつつ、次に上記の記事や菅氏のツイートについていた相当数のコメントに目を通してみた。

「菅氏の英語は恥ずかしい」「誰もアドバイスしなかったのか」「総理の海外発信のサポート体制を早急に強化すべきだ」・・・などなど、自民党外交部会のセンセイに賛同する声が目白押しだった。みな英語力に自信があるのだろうか。「トランプ大統領に謝罪すべきだ」と主張している人すらいる。

その一方で、「問題ない」というコメントもいくつか見つかった。その中にはネイティブスピーカーと思しき人による英文の書き込みもあった。

「大統領に対してはもっとフォーマルな方がいい」「"Madam First Lady" は使わない」といった指摘はあったものの、"I was worried" については、「今は心配していないことを意味するものではない」「自分も親族が病気になった時にはこう言った」など、いずれも批判はあたらないとしている。「英語がおかしいと言っている人こそ英語を勉強し直した方がいい」という辛口のコメントもあった。

さらにその後、デーブ・スペクター氏のコメントが記事になっているのを見つけた。

- 「英語的にまったく問題ないですね。間違いも1つもない」と、菅首相を擁護した。「僕も英検3級だから信じてもらえると思うんですけど、何でそこまで騒がれているのか分からない」と、ジョークをまじえつつ語った。

「I was-」の部分についても「皆さんが騒いでいるほど間違いとか、レベルが低いとかではない」と解説。ただ1カ所、メラニア夫人を「Madam First Lady」と表現したことについては「アメリカ国内ではマダムは使わない」と説明した。
(中略)
ジョーク大好きなデーブ氏は「まったくオチがないというか、ユーモアがない」と指摘。「最後は『近いうちにパンケーキ食べたいですね』とか『一緒にパンケーキを食べましょう』と言ってもいいと思うんですけどね」と“ジョーク指南”をしていた。
デーブ・スペクター氏 菅首相の英文ツイートは「問題ない」けど「オチがない」
スポニチ・Yahooニュース 2020年10月8日)

デーブ・スペクター氏とあって、もしかしたら多少甘めなのかもしれない。しかしネイティブを含むコメントを読んでいくと、やっぱり英語的に大きな問題があるとまでは言えないと思わざるを得なかった。

あわせて気になるのは、ネットを見ている限り、「おかしな英語だと苦言が出た」ことを伝える記事に比べて、「問題はないという指摘」を紹介する記事や続報がほとんどないように感じられたことだ。

批判が”誤解”だとしたら、それが解かれないままなのは、菅氏もさることながら、”日本人の英語”にとって残念なことだというのは大げさだろうか。

この他いくつか感じたことがあり、落穂拾い的に列挙していこう。

1)自民党外交部会で苦言が出たということは、党総裁であり総理である菅氏に「もの申す」という人がいた、ということであろう。英語にとどまらず、政策面についても言うべきと思った時は委縮せず直言してほしいものだ。

それにしても、さすが外交部会とあって自分の英語力に自信のあるセンセイがいらっしゃるのだな。菅首相の英語はレベルが低いというのなら、ぜひその面でのアドバイザーを買って出たらいかがであろうか。

2)最初に引用した記事に、「外務省の担当者はサポート態勢を組んで対応すると低姿勢だった」とあるが、外務省としては、ツイートの英語は不適切だったと思っているのだろうか。また、総理といえども勝手にこうしたツイートをされては困る、ということなのだろうか?

そうではなく、あるいは直接のコメントを避けるため、お役所的に「サポート態勢を組みたい」とマスコミに言っただけ、ということもありうると思うが、本当に外務省の担当者は「低姿勢」だったのか。記事の書き手は、議員の批判が妥当かどうか確かめないまま、主観で書いたということはないか。

3)「自動翻訳みたいな文章だという酷評もあった」ということだが、自動翻訳でここまでできるのだったら、むしろ立派なもので、十分実用になるのではないか。精度は常に向上していくはずだから、英語の学習者はうかうかできない。

というより今後は、英語はもう機械翻訳に任せてしまえという人と、AIでは対応できない複雑な内容や自分の思い、心の”ひだ”を的確に表現したいと高度な語学力の習得を目指す人と、英語に対する姿勢は二分化していくのかもしれない。

過去の参考記事:
・大坂なおみ選手の「ごめんなさい」は本当に誤訳なのか?
https://eigo-kobako.blog.ss-blog.jp/2018-09-18


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ハイパーおけけ丸ふひ

こんにちは。私もこの英文は間違ってはいないと思って、同じ意見の人はいないかと探してみたらこの記事にたどり着きました。

ところで、高校の英語の授業で「時制の一致」というようなことで、I think that he is wrong. とか I thought that he was wrong. とか、that節と文全体で時制を一致させなければならない、何があっても絶対に一致させなければならない、と言われてそれを頑なに守っていたところ、大学院の英語の授業でアメリカ人から I think that he was wrong. というべき、もし「あのとき彼が言っていたことは誤りだと思う。(今でも、あるいは今にして思えば)」ということを言いたいのなら、と指摘されて、まあそのルールの方が合理的であるな、と思い直して以後そのルールに従っているんですが、結局どっちが正しいとかあるんですかね。この簡単な例の場合、How do you think about his presentation? Well, I thought he was wrong. といっても、「あいつの発表を聞きながらこれは間違いだなと思っていた」ということに加えて「今でも私は、彼は間違っている、と思っている」という意味も暗示していると思うので、件のアメリカ人教師のルールに従ってI think he was wrong. としなくても良い気がするのですが。さらに、I think he is wrong. でも良いと思いますし。菅氏は時制の一致派、文句を言った人はここで言うアメリカ人教師派ということですかね。

それにつけても、言葉の間違いを批判するというのは、確実に間違っていると断定しにくいという点で、まったくおそろしい行為ですね。とくに、頼まれてもおらず、他の人のいる前でするとなると。自分の方が間違っていたと逆に批判されかねないのに、よくそのようなことができるものです。
by ハイパーおけけ丸ふひ (2020-10-19 20:06) 

tempus_fugit

時制の一致が起きていない例は、現実にはいくらでもありますよね。「絶対に一致させる」と教えている先生がいるとしたら、学校教育あるいは受験ではその方が何かと都合がいいということなのでしょうか。

私は英語の専門家ではありませんし、具体的なことはわからないのですが、厳密さが求められる場合を除けば、使う方も受け取る方も、「常識」や「状況」「前後関係」で判断している要素がかなりあるのではないかと想像しています。

菅総理の英文も、仮に違和感を覚える人がいたとしても、「今は心配していないと言いたいのだな。ひどいことだ」と本気で考える人が果たしているものでしょうか。

その一方で、言った側の意図と受け手の解釈ですれ違いや誤解が起きる、ということもありうると思います。微妙な内容なのであれば、誤解を生まないような表現をするといった配慮や手間も発信側には必要になるのでしょうね。

なお時制の一致の問題については、私が持っている参考書の中では、安藤貞雄「現代英文法講義」が「時制の照応」という章を設けて、時制の「不」一致を含めてかなり詳しく書かれていました。私も理解できたわけではありませんが、参考までに紹介させていただきます。

by tempus_fugit (2020-10-24 15:27) 

リンコ


こういうイチャモン、本当に日本人の悪い癖だと思います。
私はアメリカに住んでいて、スポーツ観戦オタクしているのですが、
日本人選手ぐらいなんですよね、英語のインタビューを自分で答えないのは。(メディアと関係ないところでは、選手達と英語で話している人が)
こういったイチャモン文化が、喋れなくしているところもあると思うのです。
菅首相のツイートも、
トランプ大統領には十分言いたいことが伝わってるし、そこが重要だと思います。
アメリカ人の主人も、伝えようとする意思を重視して、外国人と仕事しています。
そんなところを日本人は突っ込むんだと、残念すぎてコメントしちゃいました。



by リンコ (2020-11-02 11:44) 

tempus_fugit

確かに、多少(あるいは、自称?)英語ができる人の中には、ひとさまの英語をあげつらう人が時おりいるようですね。微妙なニュアンスを含む重要な交渉ごとならともかく、今回の菅総理のような場場面では、「伝えようとする意思」を示すことが何より大切だと思います。

by tempus_fugit (2020-11-03 00:52) 

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