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「ヒヤリ・ハット」とその英訳 [和英表現]

先日取り上げた、Hear ! Hear! に由来する日本語「ヒヤ、ヒヤ」とはまったく関係ないが、音のつながりで「ヒヤリ・ハット」という言葉が頭に浮かんだので、少し書いてみたい。

いつ、何でこの言葉を最初に見たのか忘れてしまったが、すぐには意味がわからず、「ヒヤリ」とする帽子とは何のことだろう、と一瞬不思議に思ったことを覚えている。なので、文の中で出てきたのではなく、題名や見出しだったかもしれない。

この言葉が使われ始めたのは医療の分野だそうだ。医療過誤には至らなかったものの、「ヒヤリ」としたり、「ハッと」したりした事例のことをこう呼ぶのだという。最近は医療以外にも使われている。

それにしても、「ヒヤリ・ハット」とは、うまいと言っていいのか、それともまずいというべきか、何とも迷う命名だと個人的には思う。

擬態語というのだろう、生き生きとした日常の言葉を使っていて、いったん意味を知れば「なるほど」と納得する。しかし、予備知識もなく「ヒヤリ・ハット」と言われたら、私のように「何のことだ」と思う人が結構いるのではないだろうか。

何よりもひっかかりを感じるのは「ハッと」が「ハット」になる表記である。誰がどのように考え出したのか具体的なことは知らないが、ひらがなで「ひやり・はっと」、あるいは「ヒヤリ・はっと」とする考えはなかったのだろうか。まあ、私と違って違和感を持たない人もいるかもしれないが。

さてネットを眺めていると、この言葉の英訳として medical incident があげられていた。医療用語としてはこれでいいのかもしれないが、専門知識を持たない私には、それこそ「ヒヤリ・ハット」感が伝わってこない。

また、次のような説明もあった。最初と最後にあるカタカナ表記の「インシデント」は、英単語の incident のことであろう。

米国においては、「インシデント」は「出来事」を意味し、患者に傷害を及ぼした事例と患者に傷害を及ぼさなかった事例も含む。日本においては「インシデント」と「アクシデント」を区別して扱うことが多く便宜的に両者を区別して定義されている。

米国での海外文献における「インシデントレポート」は日本における「ヒヤリ・ハット報告書」とは異なるものであるという理解が必要。
( http://homepage2.nifty.com/megurin/sakusaku/2_1.htm )

さらに、労働関係の「ヒヤリ・ハット」に関連して、「ハインリヒの法則」 Heinrich's Law という研究があることを知った。労働災害について80年前にアメリカで行われた統計学的分析で、1件の重大な労災事故の背後には29件の軽傷の労災、さらに300件の傷害に至らない事故があることがわかった、というものだ。

この300件の労災を「ヒヤリ・ハット」と表現している記述がいくつかあった。このところが英語でどう表現されているかを調べれば参考になりそうだ。

Heinrich's Law は Murphy's Law などと違って知名度が格段に低いのかヒット数が非常に少なかったが、次のような記述が見つかった。

- Herbert William Heinrich analyzed 550.000 occupational accidents and noticed that there is a constant ratio between fatal, light and near-accident of 1:29:300. In conclusion it is useful to analyze the frequent near-accidents to detect organization problems and intervene before a fatal accident happens.
( http://en.wikipedia.org/wiki/Heinrich's_law )

- In 1931, H. W. Heinrich surveyed approximate five hundred and fifty thousand accidents and found that, for one fatal or serious accident, there were 29 accidents, and 300 potential incidents containing high possibility to cause injuries.
( http://sciencelinks.jp/j-east/article/199924/000019992499A0499901.php )

さらに、下記の e-news さんという方のブログによると、二か国語ニュースで「ヒヤリ・ハット」が "potentially serious medical errors" と訳されていたという。説明的ではあるが、そもそも「ヒヤリ・ハット」をぴたりと一語で表すのは無理があるだろうし、この表現だといろいろな場面で応用ができそうだ。
http://ameblo.jp/e-news/entry-10009911290.html

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コメント 5

Hirosuke

土木や建設の業界では「ヒヤリ・ハット」はお馴染みですね。

同じく「KY」もよく使われます。
今は一般に「空気読めない」ですが、本来は「危険予知」の略です。

英語とは関係ありませんでしたね。(笑)
by Hirosuke (2009-03-29 05:37) 

子守男

元祖「KY」は「危険予知」なのですね。勉強になりました。ありがとうございました。
by 子守男 (2009-03-31 08:41) 

ぬるぽん

はじめまして。
ITや機械業界でも作業ミス、設定ミス、作業ミス等は
重大事故や社会基盤に大混乱を及ぼしかねないので
中災防の KY 研修, ISMS絡みのヒヤリハット対策等
馴染み深いものがあります。
現在従事している IT関連の書類翻訳にて参考になりました。
ありがとうございます。
by ぬるぽん (2018-01-10 21:29) 

tempus fugit

ぬるぽんさん、以前の記事に目を留めていただいてありがとうございます。参考になりましたらうれしいです。
by tempus fugit (2018-01-11 21:22) 

mm

初めて書き込みます。語学関係(欧米語ではない)の仕事をしています。

そもそも「ヒヤリハット」という造語を誰が作ったのか全然わからず、ネットで調べてみたところ、私が探せた一番古い事例は1999年1月の文書(以下リンク)でした。経営コンサルタントが今週のキーワードとして紹介しており、この頃はまだ一部業界やコンサル業で使われていたが社会に広まっていないという感じを受けます。また、これを読む限り、医療現場より建設業界の方で作られたと考える方が自然な気がします。
https://www.knowsi-land.co.jp/data/shagai/580.pdf
by mm (2018-01-17 11:13) 

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