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audacity と「オバマ演説集」への疑問 [翻訳・誤訳]

前回は chutzpah について英英辞典の記述をいくつか引用したが、その中に audacity を使った定義があった。昨今ブームとなっている「オバマ演説で英語学習」を実践していながら、この単語にピンと来なかったとしたら、あなたはオバマ・ファンとしても英語の面でもまだまだである。

…というのは半分冗談、半分本気だが、それはともかく、オバマの名前を一躍有名にしたのが、2004年の民主党大会で彼が行った "The Audacity of Hope" と呼ばれる基調演説だった。かくいう私も、去年の大統領選挙の後に初めてこの演説をネットで聞いたので、実は偉そうなことはいえないのだが。

audacity が出てくる部分を引用してみよう。

Hope -- Hope in the face of difficulty. Hope in the face of uncertainty. The audacity of hope!

In the end, that is God's greatest gift to us, the bedrock of this nation. A belief in things not seen. A belief that there are better days ahead.

( http://www.americanrhetoric.com/speeches/convention2004/barackobama2004dnc.htm )

辞書を見ると、audacity は次のように説明されている。

- 1 [通例 the~](~する)大胆さ、ずぶとさ (boldness);ずうすうしさ、厚かましさ [to do]
2 [通例~ies] 大胆な行為[発言]
(ジーニアス英和大辞典)

- 1 [U][悪い意味で] 大胆不敵、ずうずうしさ、無礼、傍若無人
She had the audacity to deny the fact.
2 [U][よい意味で] 大胆、豪放
アンカーコズミカ英和辞典

- 1 the willingness to take bold risks
2 rude or disrespectful behavior; imprudence
(The New Oxford American Dictionary)

最後にあげた NOAD には「temerity の注を見よ」という但し書きがあって、この単語を引くと、"excessive confidence or boldness; audacity" という定義のあと、audacity, effrontery, foolhardiness, gall, impetuosity, rashness, temerity と関連語をあげて、かなり長い説明を加えている。この辞書(を収録している電子辞書)をお持ちの方は参考にしていただければと思う。

さて "the audacity of hope" という言い回しは、実はオバマではなく、彼の宗教上の師である Jeremiah Wright 牧師が最初に使ったものだそうで、ネットでその説教を読むこともできる。ちなみに去年の選挙戦でオバマは、過激発言を繰り返すライト牧師と距離を置くようになっていった。

http://www.preachingtoday.com/sermons/sermons/audacityofhope.html

個人的な印象だが、audacity と hope という組み合わせはちょっと意表をつくもので、多分にキャッチフレーズ的な側面を狙ったものではないだろうか(ライト牧師がそこまで考えなかったとしても、オバマは「これはいける」と思ったのではないか)。日本語にしようとするとどうもうまくいかないのはそのせいもあるかもしれない、と実力不足を棚にあげて自己弁護したくなる。

オバマの演説では、希望が持てないような逆境の中で希望を持つことの果敢さ、あるいはそうした希望が生み出す大胆さ、というようなことをいいたいのではないかと思うが、こうした説明的な訳だとキャッチフレーズ的には使えない。

その点では、オバマの著書(同じく "The Audacity of Hope")の邦題に使われた「大いなる希望」は、案外うまいといえるかもしれない。また総理就任前に麻生太郎氏が書いた「とてつもない日本」からの連想で「とてつもない希望」とすると、ちょっとそぐわないか。

何点か出版されている「オバマ演説集」はここをどう訳しているのだろうか。書店に寄ってみたら、この演説を収録している本が少なくともひとつあったが、訳を見ると「大いなる希望」となっていた。オバマの著書の邦題をそのまま使ったのだろうか、ちょっと気が抜けた。

さらに続きを読むと、上にも引用した "In the end, that is God's greatest gift to us,..." のところが次のようになっていて、あれっと思った。

最後に述べたいこと、それは神からの最高の贈り物である、この国の基盤のことです―すなわち、目に見えない信頼、前途によりよい日々が待っているという信念のことです。

「オバマ演説集」のこの翻訳は正しいのだろうか、ちょっと誤訳くさい気がする。この訳だと、その前の "the audacity of hope" の部分から離れて、何か新しいことについて話し始めたような印象を与える。しかし、ここは直前の部分を受けて、「つまるところ、それこそが神が私たちに授けた最大の贈り物であり、この国の基盤でもあるのです…」というようなことをいいたいのではないかと思うが、どうだろうか。

とはいえ、私の方こそ間違った解釈をしているかもしれない。その場合は指摘していただければ幸いである。

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