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「緋色の研究」の新訳 (「シャーロック・ホームズ全集」) [シャーロック・ホームズ]

私がシャーロック・ホームズの作品を愛好していることはこれまで何回か書いてきた。数年前には、新しい翻訳による全集が完結したことを取り上げたが、去年、また別の新訳全集の刊行が始まった。100年以上も前に書かれた「ホームズ譚」の人気は今もって衰えていないようだ。

緋色の研究【新訳版】 (創元推理文庫)

緋色の研究【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: アーサー・コナン・ドイル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/11/27
  • メディア: 文庫

今回の創元推理文庫の新訳は、海外ミステリの翻訳ではおなじみの深町眞理子氏による。第1短編集の「シャーロック・ホームズの冒険」をはじめ、すでに何点か出版されているが、各巻の解題・解説が充実していることもあって出るたびに購入しており、持っている翻訳がまた増えている。

大家による翻訳とあって安心して読めるが、ちょっと違和感を抱くところもあった。細かいことだが、いわゆる「い抜き言葉」が目立つように思えるのである。この連休に「緋色の研究」(ホームズが初登場する長編)を再び読み返したので、そこから例をいくつか引用してみよう。

- 「日焼けしてるじゃないですか」
- 「相手を探してるんなら」
- 「ある種の科学に熱中してるというか」
- 「事件に対する見方はもうすっかりかたまってるんだが」
- 「そう自負してるくらいさ」

原作が19世紀末の作品だからといって、別に古めかしい言葉遣いで訳す必要はないが、「い抜き言葉」まで使ってくだけた調子を出す必然性もないのでは、と思ってしまうのは、私がトシを取ったせいか。

同じ文庫の「緋色の研究」の旧訳については、知り合ったばかりのホームズと友人ワトソンの距離感を表す翻訳上の「工夫」について以前取り上げたことがあるが、新訳も、旧訳ほど顕著ではないが同様の「工夫」をしている。旧訳にならったものかどうかはわからないが。

ついでに書くと、「緋色の研究」の最終章はラテン語の引用で終わるが、今回の新訳は原文と同様にその部分が最後になるように訳している。以前、「不思議の国のアリス」の新訳を取り上げた時に、原文の最後にある目的格の言葉を、翻訳でも締めの部分になるようにしていて印象的だった、と書いたことがある。何が何でも原文の言葉の順序通りに訳すべきだ、というわけではないが、作品や内容によっては効果があると思う。

なお、この作品の原題 A Study in Scarlet の study をどう解釈するかについては論議があることを以前取り上げたことがあるが、訳者の深町氏は「研究」としたうえで、「習作」とすべきだという説があることを脚注で触れている。巻末の解題を書いている別の人は、「習作」説に傾いた内容を書いている。

タグ:翻訳・誤訳
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