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「タイム」の誤報? ジェームズ・ボンドと芭蕉(「007は二度死ぬ」) [007 ジェームズ・ボンド]

007映画の50周年にあわせて、雑誌 TIME がこのシリーズのトリビアを集めたオンライン記事を載せている。このうち、日本が舞台の「007は二度死ぬ」 You Only Live Twice について、誤りではと思われる記述があった。

記事の全体のタイトルは James Bond, Declassified: 50 Things You Didn’t Know About 007 というもので、その20番目の The 300-Year-Old Title: “You Only Live Twice” という項目は、次のように始まっている。

You only live twice;
Once when you’re born,
And once when you look death in the face.

The 17th century Japanese poet Matsuo Basho wrote those words more than 300 years before Ian Fleming was inspired by them ― and used them as the title of his 12th novel. (Fleming also used the verse in a haiku Bond writes to his friend Tiger Tanaka in the novel.)

( http://entertainment.time.com/2012/10/04/james-bond-declassified-50-things-you-didnt-know-about-007/#you-only-live-twice )

原作のタイトルは松尾芭蕉の俳句に作者のイアン・フレミングがインスパイアされたもの、と読める。「へえ、そうなんだ」とちょっと驚いた。以前書いたことがあるが、古文が苦手だった私も「奥の細道」には惹かれるものを感じている。

さっそく、買ってはいたもののずっと積ん読状態のままの You Only Live Twice を本棚から探し出した。You only live once. 「人生は一度きり、一度しかない人生」をもじった原題、そして「二度死ぬ」とした邦題、どちらも名タイトルだと思う。

ページをめくってみると、最初にいきなりこの「俳句」が掲げられていた。だが句の後に After Basho とも書かれている。after は「~の流儀で、~にちなんで」ということだから、芭蕉の俳句そのものではないことになる。

Wikipedia を見たら、in the style of という表現を使って、

- Benson finds the transformation of Bond's character to be the most important theme in the novel: that of rebirth. This is suggested in Bond's failed attempt at a haiku, written in the style of Japanese poet Matsuo Basho-:

You only live twice:
Once when you are born
And once when you look death in the face
―Ian Fleming, You Only Live Twice, Chapter 11

( http://en.wikipedia.org/wiki/You_Only_Live_Twice_%28novel%29 )

と書かれている。第11章とは、「タイム」の記事にあった、ボンドが日本人のタイガー田中に俳句を詠む場面のことだろうか、ペーパーバックを見ると、確かに再度この俳句が出てきた。

さらに日本語の「ウィキペディア」には、

- 原題はフレミングが来日した際に「松尾芭蕉の俳句にならって」詠んでみたという英文俳句「人は二度しか生きることがない、この世に生を受けた時、そして死に臨む時」に由来する。
( http://ja.wikipedia.org/wiki/007%E3%81%AF%E4%BA%8C%E5%BA%A6%E6%AD%BB%E3%81%AC )

という記述があった。

この英文俳句には季語らしき言葉がないのも創作だと思われる点だが、もしかしたら芭蕉は似たような内容の句を詠んでいたかもしれない。そう思って本棚からもう一冊、「芭蕉全発句」(講談社学術文庫)を取り出してみた。

といっても全作品から探すのは無理だが、ありがたいことにこの本は索引が充実している。それであたりをつけてみると、

命二ツの中に活(いき)たる桜哉(かな)

という句があった。桜の季節に旧友と久しぶりに再会したことを詠んだ作品だという。この「命二ツ」とは「二人」(芭蕉と友人)ということで、「二度生きる」という意味ではないが、これが一番それっぽい。この句が誤訳されてフレミングに伝わり、"You only live twice" につながった可能性もあるかもしれない。

原作を読んでみれば何かヒントがあるのかもしれないが、いずれにせよ今の段階では、芭蕉はフレミング/ジェームズ・ボンドが詠んだような俳句はつくっていないように思われる。その通りだとしたら、「タイム」の記事は誤報ということになりそうである。

さらに細かいことを書くと、この英文俳句の一行目の最後は、TIME の記事ではセミコロンになっている。ところが原作を見ると(上記 Wikipedia の引用にもあるように)実はコロンが正しい。

いま行われているアメリカ大統領選挙では、民間団体などの「ファクトチェッカー」が盛んに活動しているようだが、「タイム」の fact-checking はちょっとお寒いように感じた。

余談だが、上に引用した Wikipedia の文章に出てくる Benson とは Raymond Benson という作家で、You Only Live Twice の続編として、やはり日本を舞台にした007の小説 The Man With the Red Tattoo (邦題「赤い刺青の男」)を書いている。

こちらは読んだことがあるが、映画に比べればかなりまっとうに日本が描写されているなと思っていたら、突然、「それはないだろう」と言いたくなるシーンが出てくることもあったと記憶している。ペーパーバックはすでに処分してしまい、手元にはない。

「007は二度死ぬ」の「俳句」をめぐってはもう少し書きたいことがあるが、長くなってきたので次回に続ける。

過去の参考記事:
英訳「奥の細道」
英訳「奥の細道」を読む~月日は百代の過客


You Only Live Twice (James Bond)

You Only Live Twice (James Bond)

  • 作者: Ian Fleming
  • 出版社/メーカー: PENGUIN 007
  • 発売日: 2008/05/29
  • メディア: ハードカバー


芭蕉全発句 (講談社学術文庫)

芭蕉全発句 (講談社学術文庫)

  • 作者: 山本 健吉
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/02/10
  • メディア: 文庫


The Man with the Red Tattoo (James Bond)

The Man with the Red Tattoo (James Bond)

  • 作者: Raymond Benson
  • 出版社/メーカー: Hodder & Stoughton Ltd
  • 発売日: 2002/05/02
  • メディア: ハードカバー

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