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bunkum 「ナンセンス」「人気目当てのスピーチ」 (「007 カジノ・ロワイヤル」) [007 ジェームズ・ボンド]

先日も取り上げた007の原作「カジノ・ロワイヤル」に、bunkum という単語が出てきた。何となくおもしろい響きがあるが、いったいどういう意味だろうか。

事件が一件落着し、ジェームズ・ボンドが仲間の諜報部員ヴェスパー・リンドを載せて車を運転していると、後ろから追い抜いた車があった。運転している男に目をやったヴェスパーが不安を抱く。

Casino Royale

Casino Royale

  • 作者: Ian Fleming
  • 出版社/メーカー: Penguin Books
  • 発売日: 2002/08/27
  • メディア: ペーパーバック

- 'He looked at us,' she said. 'I told you so. I knew we were being followed. Now they know where we are.'
Bond could not contain his impatience. 'Bunkum,' he said. 'He was looking at that sign.' He pointed it out to Vesper.
(Ian Fleming: Casino Royale)

辞書を見ると、

- 1(主に米)(政治家が選挙区民の機嫌を取ろうとするだけの)人気取り演説
2 誠意のない話;ごまかし、たわ言
a lot of bunkum はったりずくめ
talk bunkum 出任せを言う
(ランダムハウス英和大辞典)

- bunkum or buncombe
1. empty talk; nonsense
2. (mainly US) empty or insincere speechmaking by a politician to please voters or gain publicity
(Collins English Dictionary)

とある。ボンドは「ばかばかしい」「くだらない」と、ヴェスパーの不安を打ち消そうとしているのだろう。もう一方の選挙がらみの意味は、参議院選挙を前にした今の時期に使えそうでもある。

また「ジーニアス英和大辞典」には、「bunk と同じ」という内容の記述があり、そちらを見ると

- でたらめ、たわごと(nonsense) (間投詞的にも用いる;bunkum ともいう)

とある。ボンドの bunkum も間投詞的に使っているといえそうだ。

bunk について「ジーニアス」は説明を加えてはいないが、他の辞書には「bunkum に由来する」という記述があった。これで、bunkum, buncombe, bunk が同じ意味を持つわけがわかる。

2つ目の buncombe がすべての由来のようだ。辞書には次のような記述がある。

- 1828 米国 North Carolina 州 Buncombe 地区選出の代議士 F. Walker が第16国会(1818-21)で選挙区民のご機嫌取りの演説をしたことにちなむ
(ランダムハウス)

- ETYMOLOGY:
After Buncombe, a county of western North Carolina, from a remark made around 1820 by its congressman, who felt obligated to give a dull speech "for Buncombe"
(American Heritage Dictionary)

- A representative at Washington being asked why he made such a flowery and angry speech, so wholly uncalled for, made answer, “I was not speaking to the House, but to Buncombe,” which he represented (North Carolina).
(Dictionary of Phrase and Fable)

なるほど。こうしたエピソードでは、言葉を口にした人物の名前がのちのちまで残ることが多いのではないかと思うが、今回の場合は地名が由来となったわけである。言葉の響きがおもしろいのが理由ではないかと勝手に想像するが、真相はわからない。

Wiktionary にはさらに詳しい記述があったが、長文なのでURLだけをあげておく。
http://en.wiktionary.org/wiki/bunkum?rdfrom=Bunkum

なお関連語として、debunk (~のうそを暴く、正体を暴露する、仮面をはぐ)、hokum (たわごと;観客のうけをあてこんだしぐさやセリフ、お涙頂戴の手)をあげている辞書があった。

それぞれ、de+bunk、 hocus-pocus (まじない;ごまかし) + bunkum から来ているということだが、言葉とはおもしろいものだなあとつくづく思う。特に hokum は実例などを詳しく調べてみたいと思ったが、今は余裕がないので、後日の宿題としたい。

余談だが、「カジノ・ロワイヤル」に登場するヴェスパー・リンド Vesper Lynd は、ダニエル・クレイグの007初出演作でこの役を演じたエヴァ・グリーン Eva Green が良かったが、原作も印象的に描かれている。vesper は「夕暮れ」という意味だが、まさにこれにちなんでつけられた名前だとヴェスパーがボンドに説明する場面が小説に出てくる。

ついでに Vespers はキリスト教の「晩課、晩祷」で、クラシックに Vespro della Beata Vergine という名曲がある。「聖母マリアの晩課」のほか「聖母マリアの夕べの祈り」という邦題でも知られていて、こちらの方が受けがよさそうだ。もっともクラシックおたくの間では、「ヴェスプロ」と呼ぶのが「通」のならわしである。

ボンドが結婚も考えた数少ない女性であるヴェスパーに、原作者フレミングは聖母のイメージを重ねようとしたのだろうか。そう考えると作品の最後で描かれる悲劇がより際立つようにも思えてくるが、ネタバレになるのでラストの場面については書かないことにする。

なおこの「カジノ・ロワイヤル」からは、彼女にちなんだ「ヴェスパー」という本物のカクテルが生まれている(→007の決めゼリフ "Shaken, not stirred." 酒を「ステア」する


モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り(Monteverdi: Vespro Della beata Vergine)

モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り(Monteverdi: Vespro Della beata Vergine)

  • アーティスト: モンテヴェルディ,ディエゴ・ファソリス,コンチェルトパラティーノ
  • 出版社/メーカー: Brilliant Classics
  • 発売日: 2011/12/13
  • メディア: CD


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