「夏草や兵どもが夢のあと」 (雑草と weed と grass の違い) [日本の文化]
前回紹介した、オリンピックの東京開催決定をめぐるAP通信の記事からもうひとつ表現を取り上げよう。アテネ五輪で使われた会場は、いま多くが荒れ果てているというくだりがあり、そこで weed-infested という言葉が使われていた。
- In Athens, many of the venues from the 2004 Olympics are desolate and weed-infested, and the Greek economy is in crisis.
http://mainichi.jp/english/english/newsselect/news/20130909p2g00m0dm003000c.html
weed は基礎レベルの単語で、「雑草」と訳せるが、この日本語は、次に引用する通り、
- たくましい生命力のたとえに使うことがある
(広辞苑)
しかし weed は、
- a wild plant growing where it is not wanted that prevents crops or garden flowers from growing properly
(LDOCE)
と定義されていて、あくまで「邪魔な存在」という感じである。日本語の持つイメージと同じに考えるのはまずいようだ。
もう一方の infest だが、
- 1(しばしば受身)(強盗団・野獣・害虫群などが)…に出没(横行)する、はびこる;(人が)…群がる、大挙して押しかける
a rat-infested warehouse ネズミがはびこる倉庫
The fields were infested with an army of locusts. 畑はイナゴの大群に荒らされた
The sea was infested by [with] pirates. その海域には海賊が跳梁していた
2(比喩的)(厄介なことが)…に(次々と)見舞う、集中する
the cares that infest the day その日に集中する心配事
(ランダムハウス英和大辞典)
アテネにはその昔、五輪開催よりずっと前に数日間滞在したことがある。仕事の合間に遺跡などをちょっと見て回ったが、古代ギリシャの時代に使われていた公共施設の跡が一面雑草に覆われていたのを目にして、何となく寂しい気持ちになった。
地中海地域の明るい陽光が降り注いでいたのと対照的で、季節は春だったが、「夏草や 兵どもが 夢の跡」という芭蕉の句が頭に浮かんだ。この句が詠まれた平泉を私が訪れたのはそのあと何年も経ってからである。
そして今回の記事を見ると、現代のギリシャに造られた五輪施設は、10年足らずで weed-infested となり、見る影もない 「夢の跡」になってしまったという。
こうした一連の連想から、「夏草や」の句を英語で表現する際にこの weed が使えるような気もしたが、よくよく考えたら、「夏草」はネガティブなイメージを引き立てるために詠み込まれたわけではないだろう。
では grass はどうか、と思って辞書を引いたら、
- 草、牧草、芝(謙虚・はかなさを象徴し、weed のような悪いイメージはない)
(ジーニアス英和大辞典)
とあり、むしろこちらの方がふさわしいように感じる。
そこで、「夏草や」がどう英語に翻訳されているか、家にある「奥の細道」の英訳をひっぱりだし、またネットでも探してみた。
- The summer grasses--
Of brave soldiers' dreams
The aftermath.
(Donald Keene 訳)
- Summer grass: where the warriors used to dream
(Hiroaki Sato 訳)
- A thicket of summer grass
Is all that remains
Of the dreams and ambitions
Of ancient warriors.
(Nobuyuki Yuasa 訳)
http://terebess.hu/english/haiku/basho2.html
「奥の細道」は他にも英訳が出ていて、すべてを確かめることはできないが、少なくともこの3つはどれも grass を使っている。やはりこちらが weed よりも芭蕉の句のイメージに近いといえそうだ。
参考記事:
・東京五輪は日本のカンフル剤になるか (a shot in the arm)
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-09-10
・英訳「奥の細道」を読む~月日は百代の過客
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2008-07-31
・「ジャパン」と「ニッポン」(exonym)
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2008-06-01
- In Athens, many of the venues from the 2004 Olympics are desolate and weed-infested, and the Greek economy is in crisis.
http://mainichi.jp/english/english/newsselect/news/20130909p2g00m0dm003000c.html
weed は基礎レベルの単語で、「雑草」と訳せるが、この日本語は、次に引用する通り、
- たくましい生命力のたとえに使うことがある
(広辞苑)
しかし weed は、
- a wild plant growing where it is not wanted that prevents crops or garden flowers from growing properly
(LDOCE)
と定義されていて、あくまで「邪魔な存在」という感じである。日本語の持つイメージと同じに考えるのはまずいようだ。
もう一方の infest だが、
- 1(しばしば受身)(強盗団・野獣・害虫群などが)…に出没(横行)する、はびこる;(人が)…群がる、大挙して押しかける
a rat-infested warehouse ネズミがはびこる倉庫
The fields were infested with an army of locusts. 畑はイナゴの大群に荒らされた
The sea was infested by [with] pirates. その海域には海賊が跳梁していた
2(比喩的)(厄介なことが)…に(次々と)見舞う、集中する
the cares that infest the day その日に集中する心配事
(ランダムハウス英和大辞典)
アテネにはその昔、五輪開催よりずっと前に数日間滞在したことがある。仕事の合間に遺跡などをちょっと見て回ったが、古代ギリシャの時代に使われていた公共施設の跡が一面雑草に覆われていたのを目にして、何となく寂しい気持ちになった。
地中海地域の明るい陽光が降り注いでいたのと対照的で、季節は春だったが、「夏草や 兵どもが 夢の跡」という芭蕉の句が頭に浮かんだ。この句が詠まれた平泉を私が訪れたのはそのあと何年も経ってからである。
そして今回の記事を見ると、現代のギリシャに造られた五輪施設は、10年足らずで weed-infested となり、見る影もない 「夢の跡」になってしまったという。
こうした一連の連想から、「夏草や」の句を英語で表現する際にこの weed が使えるような気もしたが、よくよく考えたら、「夏草」はネガティブなイメージを引き立てるために詠み込まれたわけではないだろう。
では grass はどうか、と思って辞書を引いたら、
- 草、牧草、芝(謙虚・はかなさを象徴し、weed のような悪いイメージはない)
(ジーニアス英和大辞典)
とあり、むしろこちらの方がふさわしいように感じる。
そこで、「夏草や」がどう英語に翻訳されているか、家にある「奥の細道」の英訳をひっぱりだし、またネットでも探してみた。
- The summer grasses--
Of brave soldiers' dreams
The aftermath.
(Donald Keene 訳)
- Summer grass: where the warriors used to dream
(Hiroaki Sato 訳)
- A thicket of summer grass
Is all that remains
Of the dreams and ambitions
Of ancient warriors.
(Nobuyuki Yuasa 訳)
http://terebess.hu/english/haiku/basho2.html
「奥の細道」は他にも英訳が出ていて、すべてを確かめることはできないが、少なくともこの3つはどれも grass を使っている。やはりこちらが weed よりも芭蕉の句のイメージに近いといえそうだ。
参考記事:
・東京五輪は日本のカンフル剤になるか (a shot in the arm)
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2013-09-10
・英訳「奥の細道」を読む~月日は百代の過客
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2008-07-31
・「ジャパン」と「ニッポン」(exonym)
http://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2008-06-01
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