the best of both worlds 「いいとこ取り」 (ドラマ「新スタートレック」) [スター・トレック]
これまで何回も書いたように、映画のタイトルやドラマのエピソードにつけられた題名は英語や文化的背景を学ぶうえで役に立つ。以前 the best of both worlds という表現にちょっとだけ触れたことがあるが(→海外テレビドラマのタイトルに学ぶ英語)、いま読んでいるペーパーバックにこれが出てきた。
この言い回しは、SFテレビドラマ「新スタートレック」 Star Trek The Next Generation の中でも評価が高い同名のエピソードで知った。人間とロボットが融合した生命体が現われ、人類に対して敵対行動を取る、というストーリーだ。個体としては人間をはるかに上回る強さを持つ、Borg と名乗るこの生命体の集団は、その後もシリーズを通じて人類最大の脅威となる。
このエピソードを知った時、何とも魅力的な原題だと思い(逆に邦題は何とも情けない)、ためしに辞書を引いてみたら載っていて、まとまった言い回しであることがわかった。「両方の世界の最上のもの」と訳すと何のことかよくわからないが、「2つの異なる存在の良い所をあわせ持ったもの・状況」ということである。
このエピソードでは、人間と機械の能力を兼ね備えた「ボーグ」のことを指していると取れるし、シリーズの主人公がこの生命体に拉致されて「ボーグ」に改造されるというストーリーなので、彼を意味しているとも思える。
ちなみにこのエピソードについては、Wikipedia に次のような記述があり、このシリーズとして見た場合に限らず、広く名作との呼び声が高いことがわかる。
- The storyline appeared in TV Guide's "100 Most Memorable Moments in TV History" (July 1, 1996), ranked number 50. The episode was also ranked #70 on the 100 Greatest TV Episodes of All Time.
( ttp://en.wikipedia.org/wiki/The_Best_of_Both_Worlds_%28Star_Trek:_The_Next_Generation%29 )
ドラマについてはこれくらいにして、今回見つけた実例である。クラシック音楽のレコード・CD業界の盛衰を描いたノンフィクションにあったものだ。
- Conductors aimed to synthesize Furtwängler's cerebral instinctuality on record with the metronomic exactitude of Toscanini. The resultant mongrel, known as 'Toscwänglerism', delighted the record industry, which thought it had achieved the best of both worlds.
(Norman Lebrecht: The Life and Death of Classical Music)
補足すると、Furtwängler と Toscanini は、どちらも20世紀前半を代表する大指揮者で、その芸風は対照的である。ドイツ人のフルトヴェングラーは、ある意味で元の作品を超えてしまうような緩急自在な独自の解釈が魅力で、イタリア人のトスカニーニは、あくまで楽譜に忠実で明晰・精確な表現を押し出しているのが特徴だ。
そこでこの部分は、「レコード時代の到来で、指揮者はこの両者の特徴を兼ね備えた演奏を目指すようになった」というような意味だろう。Toscwängerism という造語はそうした現象を表している。
この部分に目がとまったのは、関連語といえる synthesize や mongrel 「雑種」「混血児、ハーフ」があったこともある。後者は offensive と辞書にあるので、あまり良い意味で使う言葉ではないらしいことがうかがえる。連想した表現に a cross between がある。さらに連想で、以前 cross-pollination という単語を取り上げたことがある(→cross-pollination 「相互交流」)。
もうひとつ、You can't have your cake and eat it. という言い回しもある。「一度にふたついい思いはできない」「どちらかひとつに決めなくてはならない」というような意味になる。
最後に英語圏のオンライン辞書から、定義や例文を引用しておこう。「両方の悪いところばかり」と逆にしたい場合は worst に入れ替えればいいこともわかる。
- (idiomatic, singular only) A combination of two seemingly contradictory benefits.
That movie was both hilarious and touching; it was the best of both worlds.
Antonyms worst of both worlds
(Wiktionary)
- a situation wherein one can enjoy two different opportunities.
(Typically: enjoy ~; have ~; live in ~.)
When Don was a fellow at the university, he had the privileges of a professor and the freedom of a student. He had the best of both worlds.
Donna hated to have to choose between retirement and continuing working. She wanted to do both so she could live in the best of both worlds.
(McGraw-Hill Dictionary of American Idioms and Phrasal Verbs)
- if you get the best of both worlds, you get the advantages of two different things at the same time
She works in the city and lives in the country, so she gets the best of both worlds.
With these delicious but healthy recipes you can have the best of both worlds.
(Cambridge Idioms Dictionary, 2nd ed.)
この言い回しは、SFテレビドラマ「新スタートレック」 Star Trek The Next Generation の中でも評価が高い同名のエピソードで知った。人間とロボットが融合した生命体が現われ、人類に対して敵対行動を取る、というストーリーだ。個体としては人間をはるかに上回る強さを持つ、Borg と名乗るこの生命体の集団は、その後もシリーズを通じて人類最大の脅威となる。
新スター・トレック ベストエピソード 浮遊機械都市ボーグ [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
- メディア: Blu-ray
このエピソードを知った時、何とも魅力的な原題だと思い(逆に邦題は何とも情けない)、ためしに辞書を引いてみたら載っていて、まとまった言い回しであることがわかった。「両方の世界の最上のもの」と訳すと何のことかよくわからないが、「2つの異なる存在の良い所をあわせ持ったもの・状況」ということである。
このエピソードでは、人間と機械の能力を兼ね備えた「ボーグ」のことを指していると取れるし、シリーズの主人公がこの生命体に拉致されて「ボーグ」に改造されるというストーリーなので、彼を意味しているとも思える。
ちなみにこのエピソードについては、Wikipedia に次のような記述があり、このシリーズとして見た場合に限らず、広く名作との呼び声が高いことがわかる。
- The storyline appeared in TV Guide's "100 Most Memorable Moments in TV History" (July 1, 1996), ranked number 50. The episode was also ranked #70 on the 100 Greatest TV Episodes of All Time.
( ttp://en.wikipedia.org/wiki/The_Best_of_Both_Worlds_%28Star_Trek:_The_Next_Generation%29 )
ドラマについてはこれくらいにして、今回見つけた実例である。クラシック音楽のレコード・CD業界の盛衰を描いたノンフィクションにあったものだ。
The Life and Death of Classical Music: Featuring the 100 Best and 20 Worst Recordings Ever Made
- 作者: Norman Lebrecht
- 出版社/メーカー: Anchor
- 発売日: 2007/04/10
- メディア: ペーパーバック
- Conductors aimed to synthesize Furtwängler's cerebral instinctuality on record with the metronomic exactitude of Toscanini. The resultant mongrel, known as 'Toscwänglerism', delighted the record industry, which thought it had achieved the best of both worlds.
(Norman Lebrecht: The Life and Death of Classical Music)
補足すると、Furtwängler と Toscanini は、どちらも20世紀前半を代表する大指揮者で、その芸風は対照的である。ドイツ人のフルトヴェングラーは、ある意味で元の作品を超えてしまうような緩急自在な独自の解釈が魅力で、イタリア人のトスカニーニは、あくまで楽譜に忠実で明晰・精確な表現を押し出しているのが特徴だ。
そこでこの部分は、「レコード時代の到来で、指揮者はこの両者の特徴を兼ね備えた演奏を目指すようになった」というような意味だろう。Toscwängerism という造語はそうした現象を表している。
この部分に目がとまったのは、関連語といえる synthesize や mongrel 「雑種」「混血児、ハーフ」があったこともある。後者は offensive と辞書にあるので、あまり良い意味で使う言葉ではないらしいことがうかがえる。連想した表現に a cross between がある。さらに連想で、以前 cross-pollination という単語を取り上げたことがある(→cross-pollination 「相互交流」)。
もうひとつ、You can't have your cake and eat it. という言い回しもある。「一度にふたついい思いはできない」「どちらかひとつに決めなくてはならない」というような意味になる。
最後に英語圏のオンライン辞書から、定義や例文を引用しておこう。「両方の悪いところばかり」と逆にしたい場合は worst に入れ替えればいいこともわかる。
- (idiomatic, singular only) A combination of two seemingly contradictory benefits.
That movie was both hilarious and touching; it was the best of both worlds.
Antonyms worst of both worlds
(Wiktionary)
- a situation wherein one can enjoy two different opportunities.
(Typically: enjoy ~; have ~; live in ~.)
When Don was a fellow at the university, he had the privileges of a professor and the freedom of a student. He had the best of both worlds.
Donna hated to have to choose between retirement and continuing working. She wanted to do both so she could live in the best of both worlds.
(McGraw-Hill Dictionary of American Idioms and Phrasal Verbs)
- if you get the best of both worlds, you get the advantages of two different things at the same time
She works in the city and lives in the country, so she gets the best of both worlds.
With these delicious but healthy recipes you can have the best of both worlds.
(Cambridge Idioms Dictionary, 2nd ed.)
タグ:クラシック
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