オバマ大統領が引用した「富士山に一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿」の英訳 [日本の文化]
オバマ大統領が新たに指名した政府高官を紹介する際、日本で仕事をした人物であることにちなんで、日本のことわざを引用して笑いを取ったというウェブの記事が目にとまった。
アメリカの大手家庭用品会社プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のCEOだったロバート・マクドナルド氏を次期退役軍人長官に指名した、というニュースである。
- オバマ氏はホワイトハウスでの発表に同席したマクドナルド氏について「富士山に1度も登らぬばか、2度登るばか」という言葉が口癖だと紹介。「(マクドナルド氏は)1度しか登っておらず、賢い男だ」と指摘し、笑いを誘った。
(共同通信)
さっそく検索してみると、オバマ氏の言葉をそのまま起こしたものが見つかったので引用しよう。マクドナルド氏はP&G時代に6年間日本で生活したという。
- He's no-nonsense. He's pragmatic. He does not seek the limelight. He repeats a Japanese saying ― he worked and lived in Japan for six years while at Procter & Gamble. The saying goes: "He who climbs Mount Fuji is a wise man; he who climbs it twice is a fool.” (Laughter.) Now, Bob actually climbed Mount Fuji ― once. (Laughter.) Bob is a wise man. (Laughter.)
この部分の前でオバマ氏は、退役軍人をめぐる施策についていろいろ述べているが、担当官庁は不祥事が政治問題になったことがあるそうだ。そこで、かたい話のあとには柔らかい話、というアクセントをつける狙いもあったのだろう。
アメリカ人はスピーチにジョークを入れるのが通例といわれるので、これがマクドナルド氏の口癖というのは本当だろうかとも思うが、直接日本と関係ない人事や会見で、こんな形であっても日本に言及があるのはうれしいことだ。
それはともかく、上記のように、オバマ氏が紹介したことわざの英語は、元の日本語と違って「馬鹿」を共通にはせず、前半を wise としている。日本語の「一度も」にあたる言葉もない。こうすることによって、何か違いが出るのだろうか。
先に once を言っておくと、聞く人は、次に twice を使って何か違うことが来るものと期待を高めるだろう。それもありだろうが、逆に言わないと、このことわざは何をいいたいのかと思わせておいて、直後に fool を出してストンと落とすことができる。さらにその後でマクドナルド氏にからめたうえで、付け加えるように初めて "― once." と出す。これも確かに効果的だろう。
そう思うと、意図的に前半から once を落として後で出すようにし、さらにマクドナルド氏の紹介に使うために、わざと fool で通さずに wise という言葉にしたのではないだろうか。
そして、仮にマクドナルド氏が本当にこのことわざを好んでいるとしても、それはもっと日本語に沿った直訳調のもので、オバマ氏があげた英語版は、今回の会見のために新たに「創作」されたものではないか。そんな想像もできそうだ。真相はもちろん知る由もないが。
ちなみに Wikipedia の "Mount Fuji" の項にもこのことわざが紹介されていたが、次のような直訳調の英語になっている。
- A well-known Japanese saying suggests that anybody would be a fool not to climb Mount Fuji once ― but a fool to do so twice.
また、日本人だったらこの言葉を聞いて、国のシンボルともいえる富士山に一度は登るべき、だけどしんどさは一度で十分、ということが頭に浮かぶだろうが、この言葉の直後に Laughter. とあるように笑いが起きたのは、そうした文化的背景知識がなくてもおもしろいと思ってもらえた、あるいは、そう思えるように表現されていた、ということにもなるだろう(実際には、これはジョークに違いないと場を読んで、本当は何だかわからなくてもとりあえず笑っておいた、という人もいたかもしれないが)。
ということで、何の変哲もないエピソードと簡単な英語をめぐって、いろいろな想像をめぐらせることができたニュースであった。
なお、アメリカの要人が引用した日本の言葉については、以前も取り上げたことがあるので、参考までにあげておきたい(→ケネディ新駐日大使が引用した「日本の格言」?)(→アメリカの大統領が引用した芭蕉の俳句)。
ところで体力と根性のない私は、車で近くまで行ったことはあるものの、富士山頂については「一度も登らぬ馬鹿」の方だ。「ウィキペディア」にあった下記の記述を読んだら、どうもこのままで一生を終えそうな気がした。
- 体力や休養、出発時間、気象などの条件に恵まれれば日帰り登山も不可能ではないが、途中で天候の急変、体調不良、小さな事故などのトラブルに逢って予定通りにいかない可能性が高い。持久力がなかったり高山病になりやすかったりすると時間をかけても登り続ける事ができず、途中で引き返す事も多い。江戸時代から「一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿」という言葉があり、疲労・寒さ・高山病・悪天候などの辛い経験をして「二度と登りたくない」と思う者も出る富士登山の厳しさを表している。
アメリカの大手家庭用品会社プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のCEOだったロバート・マクドナルド氏を次期退役軍人長官に指名した、というニュースである。
- オバマ氏はホワイトハウスでの発表に同席したマクドナルド氏について「富士山に1度も登らぬばか、2度登るばか」という言葉が口癖だと紹介。「(マクドナルド氏は)1度しか登っておらず、賢い男だ」と指摘し、笑いを誘った。
(共同通信)
さっそく検索してみると、オバマ氏の言葉をそのまま起こしたものが見つかったので引用しよう。マクドナルド氏はP&G時代に6年間日本で生活したという。
- He's no-nonsense. He's pragmatic. He does not seek the limelight. He repeats a Japanese saying ― he worked and lived in Japan for six years while at Procter & Gamble. The saying goes: "He who climbs Mount Fuji is a wise man; he who climbs it twice is a fool.” (Laughter.) Now, Bob actually climbed Mount Fuji ― once. (Laughter.) Bob is a wise man. (Laughter.)
この部分の前でオバマ氏は、退役軍人をめぐる施策についていろいろ述べているが、担当官庁は不祥事が政治問題になったことがあるそうだ。そこで、かたい話のあとには柔らかい話、というアクセントをつける狙いもあったのだろう。
アメリカ人はスピーチにジョークを入れるのが通例といわれるので、これがマクドナルド氏の口癖というのは本当だろうかとも思うが、直接日本と関係ない人事や会見で、こんな形であっても日本に言及があるのはうれしいことだ。
それはともかく、上記のように、オバマ氏が紹介したことわざの英語は、元の日本語と違って「馬鹿」を共通にはせず、前半を wise としている。日本語の「一度も」にあたる言葉もない。こうすることによって、何か違いが出るのだろうか。
先に once を言っておくと、聞く人は、次に twice を使って何か違うことが来るものと期待を高めるだろう。それもありだろうが、逆に言わないと、このことわざは何をいいたいのかと思わせておいて、直後に fool を出してストンと落とすことができる。さらにその後でマクドナルド氏にからめたうえで、付け加えるように初めて "― once." と出す。これも確かに効果的だろう。
そう思うと、意図的に前半から once を落として後で出すようにし、さらにマクドナルド氏の紹介に使うために、わざと fool で通さずに wise という言葉にしたのではないだろうか。
そして、仮にマクドナルド氏が本当にこのことわざを好んでいるとしても、それはもっと日本語に沿った直訳調のもので、オバマ氏があげた英語版は、今回の会見のために新たに「創作」されたものではないか。そんな想像もできそうだ。真相はもちろん知る由もないが。
ちなみに Wikipedia の "Mount Fuji" の項にもこのことわざが紹介されていたが、次のような直訳調の英語になっている。
- A well-known Japanese saying suggests that anybody would be a fool not to climb Mount Fuji once ― but a fool to do so twice.
また、日本人だったらこの言葉を聞いて、国のシンボルともいえる富士山に一度は登るべき、だけどしんどさは一度で十分、ということが頭に浮かぶだろうが、この言葉の直後に Laughter. とあるように笑いが起きたのは、そうした文化的背景知識がなくてもおもしろいと思ってもらえた、あるいは、そう思えるように表現されていた、ということにもなるだろう(実際には、これはジョークに違いないと場を読んで、本当は何だかわからなくてもとりあえず笑っておいた、という人もいたかもしれないが)。
ということで、何の変哲もないエピソードと簡単な英語をめぐって、いろいろな想像をめぐらせることができたニュースであった。
なお、アメリカの要人が引用した日本の言葉については、以前も取り上げたことがあるので、参考までにあげておきたい(→ケネディ新駐日大使が引用した「日本の格言」?)(→アメリカの大統領が引用した芭蕉の俳句)。
ところで体力と根性のない私は、車で近くまで行ったことはあるものの、富士山頂については「一度も登らぬ馬鹿」の方だ。「ウィキペディア」にあった下記の記述を読んだら、どうもこのままで一生を終えそうな気がした。
- 体力や休養、出発時間、気象などの条件に恵まれれば日帰り登山も不可能ではないが、途中で天候の急変、体調不良、小さな事故などのトラブルに逢って予定通りにいかない可能性が高い。持久力がなかったり高山病になりやすかったりすると時間をかけても登り続ける事ができず、途中で引き返す事も多い。江戸時代から「一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿」という言葉があり、疲労・寒さ・高山病・悪天候などの辛い経験をして「二度と登りたくない」と思う者も出る富士登山の厳しさを表している。
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