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lieutenant のイギリス風発音と訳語のことなど (「刑事コロンボ」「謎の円盤UFO」) [英語のトリビア]

前回触れたTVドラマ「刑事コロンボ」のエピソード「歌声の消えた海」 Columbo: Troubled Waters では、豪華客船のクルーがコロンボ警部の肩書 lieutenant を「レフテナント」のように発音しており、アメリカ人乗客の「ルテナント」とおもしろい対照を見せている。

lieutenant (Lt.などと略記される)はアメリカでは警察の「分署の次長、署長補佐」(captain の下、sergeant の上)、軍隊の「中尉」「大尉」などを指すが、イギリス英語の発音は/lu:ten-/ではなく/leften-/と、最初の母音が違うだけでなく/f/という子音が入る。

私がこの発音に気づいたのは、ちょっとオタク的・サブカル的になるが、以前触れたことがあるイギリスのSFテレビドラマ UFO (邦題「謎の円盤UFO」)を初めて原語で観た時であった。

この作品に、エリス中尉 Lt. Ellis という凄い美人キャラクターが出てくるが、どう聞いても「レフテナント」と同僚から呼ばれているので調べてみたら、イギリス英語では綴りからは想像できない発音であることがわかった。

イギリス英語ではどうしてこうなるのだろうか。オンラインの辞書を見ると、

- In the normal British pronunciation of lieutenant, the first syllable sounds like lef. In the standard US pronunciation, the first syllable, in contrast, sounds like loo. It is difficult to explain where the f in the British pronunciation comes from. Probably, at some point before the 19th century, the u at the end of Old French lieu was read and pronounced as a v, and the v later became an f.
(Oxford Dictionaries)

とあり、u が/v/のように発音されたことに由来する可能性がある、ということになる。

これに対し、Online Etymology Dictionary は、

- Pronunciation with lef- is common in Britain, and spellings to reflect it date back to 14c., but the origin of this is a mystery (OED rejects suggestion that it comes from old confusion of -u- and -v-)

つまり、OED(泣く子も黙る?世界最大の英語辞典 Oxford English Dictionary 「オックスフォード英語辞典」)は u と v の混同説を否定している、という記述である。

先のオンライン版 Oxford Dictionaries は「混同」と明確に書いているわけではないが、そうした説とも読めそうで、そうだとすると、同じオックスフォードの辞書なのに相反する説明のような印象も受ける。具体的にはどういうことなのか、OED の原文に当たれないのでわからないのが残念だ。

いずれにせよ、なぜ/f/が入るのかは謎、ということになりそうだ。

余談だが、アルファベットの歴史について書かれたものを読めばわかるように、U という文字は V から来ている。高級ブランドの「ブルガリ」のロゴが BVLGARI となっているのはこれにちなんだものだろう。また J という文字も最初からあったものではなく、I から作られたものである。

もうひとつ lieutenant について書くと、私の持っている英和辞典は、どれも警察の階級としては「警部補」としている。出版が一番新しいと思われる「ジーニアス英和辞典第5版」が店頭に並んでいたので引いてみたが、やはりこの訳語だった。

しかし、ウェブで見つかる情報にもあるように、日本の警察組織で警部補が就くのは課長補佐や係長であり、警察署の次長を務めるのはさらに階級が上の警視や警部であるという。アメリカには警察の中央組織がないこともあって、職務と階級は全国的に統一されてはいないというが、lieutenant が日本の「警部補」よりは責任が大きいことは確かなようだ。

だとすれば、どの辞書も実態を反映したものではないということになる。以前本か何かで、「コロンボ警部は実際は警部補なので警部ほど偉くはなく、そんな点も彼のキャラクターにふさわしい」と書かれているのを読んだことがあるが、これは誤解に基づく感想といえるかもしれない。

もうひとつ、英語とは関係のない脱線すると、「謎の円盤UFO」にはレイク大佐 Colonel Lake という人物が登場するが、エリス中尉と並ぶこの美人キャラクターを演じたワンダ・ベンサム Wanda Ventham は、Sherlock 「シャーロック」などで人気のベネディクト・カンバーバッチの実の母親である。

そういえば、sergeant も colonel も、lieutenant と同様、スペリングから思い浮かびそうな発音と実際は違っているので、自信のない人は確認していただくのが良いかと思う。

OED関連の過去の記事:
The Professor and the Madman (Simon Winchester)


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コメント 3

Kawada

tempus fugit様
UG先生のブログではいつもお世話になっております。
「刑事コロンボ」シリーズは、わたしがいつか見たい作品でもあります。
lieutenantの発音についての記事は参考になりました。
映画「サウンド・オブ・ミュージック」の最後の方にも出てきますね。
発音も合わせて比較してみてはいかがでしょうか。
私の浅墓な意見をお読みいただき、誠にありがとうございました。
by Kawada (2015-01-10 23:14) 

tempus fugit

Kawada様、コメントありがとうございます。
コロンボは携帯もネットもなかった時代の作品ですが、いまでもアメリカの歴代ミステリドラマの投票で上位にランクされるのが納得できる秀作です。置いているレンタル店もあると思いますので、ためしに特に評判のいいエピソードを探してご覧になってはいかがでしょうか。イタリア系の俳優マーク・ラファロを起用して再度映像化するという話も(どこまで本格的なものかわかりませんが)あるようです。

映画「サウンド・オブ・ミュージック」は名作だけに私も何回か観たことがありますが、lieutenantの発音がそうなっていたとは気づきませんでした。教えていただきありがとうございました。そのうちまた鑑賞してみます。

by tempus fugit (2015-01-11 12:32) 

Kawada

tempus fugit様
すみません、伝え方が悪かったです。
確か、「サウンド・オブ・ミュージック」で発音されたlieutenantは確かアメリカ英語の発音だったと思います。
by Kawada (2015-01-11 17:06) 

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