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lion's mane jellyfish 「幽霊クラゲ」「ライオンのたてがみクラゲ」 [シャーロック・ホームズ]

前回、Portuguese man-of-war (ポルトガルの軍艦)とは電気クラゲのことだと007の原作から引用して書いたが、英語の小説に出てきたクラゲということで私が連想するのが、シャーロック・ホームズの短編「ライオンのたてがみ」である。

死者が遺した「ライオンのたてがみ」 the lion's mane というダイイング・メッセージの謎をホームズが解き明かす、というものだ。

原作者コナン・ドイルが功成り名を遂げた晩年期に書いた作品のためか、出来ばえは正直言って"ホームズもの"の中では底辺のランクと感じる。しかし、引退した初老のホームズが手がけ、彼自身が語り手という設定、また霧深いロンドンではなく風光明媚な南イングランドの海岸地帯が舞台のためか、妙に印象に残っている。

エントリのタイトルからネタバレも同然なので書いてしまうと、この言葉は大型のクラゲを指すものだった、というストーリーだ。死ぬ間際の人間が、クラゲを「ライオンのたてがみ」と表現することなどあるものか、と思うが、調べたら lion's mane jellyfish と呼ばれるクラゲがちゃんと存在していた。

だったらダイイング・メッセージにはならないではないか、とも思うが、前回の Portuguese man-of-war と違って、ミステリの素材に使えるくらい知られていないということなのか、私の使っている辞書でこの言葉が載っているものは皆無だった。

こうした時にインターネットは便利だ。Wikipedia には、

- The lion's mane jellyfish (Cyanea capillata), also known as hair jelly, is the largest known species of jellyfish.
( http://en.wikipedia.org/wiki/Lion%27s_mane_jellyfish )

とあった。"ライオンのたてがみ"に見たてるのもおもしろいが、hair jelly という言い方はもっと直截的だ。日本では、ユウレイクラゲ科の「キタユウレイクラゲ」というそうで、ライオンではなく幽霊になってしまう。確かに写真を見ると不気味な姿である。

Wikipedia には、ホームズの短編にも言及があった。そこで、ホームズが"犯人"を見つけた時の場面を引用しよう。

- "Cyanea!" I cried. "Cyanea! Behold the Lion's Mane!" The strange object at which I pointed did indeed look like a tangled mass torn from the mane of a lion.
(The Adventure of the Lion's Mane by Sir Arthur Conan Doyle)

ホームズは捜査の過程で、真犯人の当たりをつけて本で調べていた。それが正しいことを知ったのでクラゲの名前を叫んだ、というわけである(それにしてはまずラテン語の学名を言うのがホームズらしい)。

ところで、私がホームズの翻訳で最もよく手に取る「詳注版全集」の「ライオンのたてがみ」をあらためて見たら、編者の「注」の欄に、前回取り上げた Portuguese man-of-war が出てきたので、おっと思った。

一部引用してみよう。文中の「フィザリア」とは学名の Physalia physalis のことである。

- しかし、「シャーロック・ホームズ展覧会カタログ」の編者たちは、「ライオンのたてがみ」のクラゲが本当にサイアネア・カピラータだったのかと疑問を投げかけた。彼らはそれは「ポルトガルの軍艦」と呼ばれるフィザリアではないかと示唆している。
(ベアリング=グールド編「詳注版シャーロック・ホームズ全集10」 筑摩書房)

フィクションなのだから、そもそも正解などない。なのに、こうしたところまで徹底的な考察を加えてしまうのが、Sherlockian, Holmesian (熱狂的ホームズファン)の凄い(かつ手に負えない)ところである。

とはいえ、「ライオンのたてがみ」クラゲはネットの写真を見る限り、「ポルトガルの軍艦」とはかなり違う姿だし、大きさも異なるようだ。

クラゲの被害にあった人が発した言葉が辞書にも載っている Portuguese man-of-war だったら犯人がバレバレだから、このクラゲをヒントに、語り手のホームズ(=原作者ドイル)が、知名度が低く謎めいた響きのある lion's mane に変えてミステリに仕立てあげたのではないか、と私もシャーロッキアン風の遊びで想像してみた。

過去の参考記事:
さよなら小泉さん (lionを含む表現いろいろ)

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