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冨田勲さんを悼む (「月の光~ドビュッシーによるメルヘンの世界」) [ジャズ・クラシック]

「きょうの料理」「新日本紀行」のテーマ曲などで知られる冨田勲氏が死去した。日本の作曲家といえば武満徹氏が世界的に有名だろうが、私にとっては親しみのある数々の名曲を作った冨田氏の印象が強い。また「月の光」というアルバムはシンセサイザーを使った傑作で、今でもよく耳を傾けている。

月の光 - シンセサイザーによるメルヘンの世界(期間生産限定盤)

月の光 - シンセサイザーによるメルヘンの世界(期間生産限定盤)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2015/04/22
  • メディア: CD

私が「冨田勲」の名を知ったのは中学生の時、どちらが先だったかは覚えていないが、「月の光」と、その年に放送されていた大河ドラマ「勝海舟」のテーマ曲によってだった。

そして、ちょっとコミカルな「きょうの料理」、子供心にも「日本っていいなあ」と聞くたびに思わせてくれる「新日本紀行」、さらに「ジャングル大帝」「マイティジャック」などなど、幼い時からおなじみだった音楽を作ったのも冨田氏だと少し後に知って驚いた。

「勝海舟」のオープニングテーマは、開国して近代化の道を歩み始めた日本を描いたこのドラマのイメージにぴったりで、口ずさめるようなメロディはないにもかかわらず、一聴して強い印象を受けた。



ほぼ同じころ、シンセサイザーを駆使するアーティストという、冨田氏のもうひとつの顔に触れた。ドビュッシーのさまざまな名曲を氏が編曲した「月の光~ドビュッシーによるメルヘンの世界」が発表されて話題になったのである。私もラジオで聞いてすぐに虜になり、小遣いをはたいてレコードを買った。

シンセサイザーによる編曲ものといえば、アメリカ人が制作した "Switched-on Bach" というアルバムが当時有名で、私もその新奇な響きをおもしろく聞いていた(冨田氏がシンセサイザーを始めたきっかけも、この「スウィッチト・オン・バッハ」だったという)。

それでも、「月の光」を初めて聞いた時は驚いた。「~バッハ」がいかにも電子音楽らしい“ピコピコ”といった感じの比較的単純な音で綴られ、いってみれば線的な感じを受けたのに比べて、「月の光」は音の色彩感と厚みがぜんぜん違う。バッハとドビュッシーという原曲の特徴の違いもあるだろうが、二番煎じどころか冨田氏の圧勝だと思い、同じ日本人として嬉しくなった。

冨田氏はこの作品を日本のレコード会社に持ち込んだが断られ、アメリカに売り込んだところ大ヒットとなり、それを受けて日本に逆輸入されたという。日本の担当者が企画を蹴ったことが良い結果を生んだと言えそうなのが皮肉といえば皮肉だ。

収録曲のうち、アメリカでは1曲目の "Snowflakes are Dancing" (「雪は踊っている」)という曲がアルバム全体のタイトルとしても使われたが、最も美しく夢幻的な編曲といえそうな4曲目の「月の光」を日本盤のタイトルにしたのは良い判断だったと思う。



その後も冨田氏は、さまざまなクラシックの名曲をシンセサイザーで表現して話題を呼んだが、私にとって第1作の「月の光」はやはり別格の存在である。また、ドビュッシーという作曲家を知るきっかけにもなり、海が好きなこともあってその名を持つ作品を好んで聞くようになった(参考→ ドビュッシーの「海」)。

インターネットで調べたところ、今のところ冨田氏の逝去を伝えた海外の一般英文メディアはないようで、英語の記事は専門的なサイトや下記の「ジャパンタイムズ」紙くらいしか見当たらなかったのがちょっと残念である。
Isao Tomita, Japanese pioneer of synthesizer music, dies at 84 (The Japan Times May 8, 2016)

冨田氏はボーカロイドの初音ミクをフィーチャーした最新作に携わっておられたというので、最期までまさに pioneer であり続けたことになる。急死の報に接し、長きにわたって親しんできた「月の光」を聞きながら、個人的な思い出を少し綴ってみたしだいである。ご冥福をお祈りいたします。

タグ:訃報
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コメント 2

k

私も同じ気持ちです。私は涙を流しました。知っていたように感じたのです。このアルバムはインスパイアーされたものだと思います。このような世界が必ず存在していると信じています。原曲が白黒テレビならこれはカラーテレビに相当する、と言う点で単なる編曲ではなく新しい創造に近い。私はそのように確信しています。彼は天上の世界で今も音楽を学んでいると思います。
by k (2017-05-17 20:57) 

tempus fugit

kさん、コメントどうもありがとうございました。冨田氏にはもっともっと活躍していただきたかったと思います。
by tempus fugit (2017-05-18 00:45) 

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