SSブログ

soul food は「ソウルフード」と同じなのか、それとも違うのか [注意したい単語・意外な意味]

「ソウルフード」というカタカナ語がある。先日ある会合に出たら、参加した英語のネイティブスピーカーに対して soul food を使った日本人がいて、そのやり取りをきっかけに考えたことがあるので、以下書いてみたい。

会合の雑談で食べ物が話題となり、その日本人は、「日本ではご飯とみそ汁が soul food のようなもので、各国に soul food があると思うが、あなたは日本の soul food をどう思うか」というような英語の質問をネイティブ(アメリカ人)にした。

「というような」と書いたのは、メモや録音をしていたわけではないので言葉遣いを再現できないこと、さらには、失礼ながらブロークン気味な英語だったこともある。

これに対してネイティブ氏は、「私は日本に来て日が浅いので、soul food を出す店があるのかどうか知らない。ただアフリカ系アメリカ人も多いので、私的な集まりで soul food を振る舞うことはあるのではないか」といった答えをしていた。

質問を受けた時、ネイティブ氏は少しとまどったように私には見えたのだが、この答えを聞いて、やはり意味がうまく伝わらなかったらしい、と思った。

その日本人が訊きたかったのは、「日本のご飯とみそ汁をどう思うか」、あるいは「日本のお国料理は何だと思うか、それをどう思うか」というようなことだったはずだ。

しかしネイティブ氏は、「日本におけるアメリカの soul food」について尋ねられたと思ったわけである。上に書いたように、質問の英語がどうだったか正確に覚えていないが、彼がそのように受け取ったのはまず間違いあるまい。

かみ合わない答えを聞きながら、私は「やっぱりそうか」と思った。つまり、soul food と「ソウルフード」は違うのである。

英語を学ぶための会合ではなかったし、シャイな私なのでその場でこれについて尋ねるのもはばかられ、家へ帰ってから辞書をのぞいてみた。

「ソウルフード」をひくと、「アメリカ南部の黒人の伝統的な料理」とあわせて、「その地域特有の料理、郷土料理」などと書かれている。そして多くの場合、この言葉は後者の意味で使われるのではないだろうか。

一方 soul food は、少なくとも私の持っている英語の辞書で見る限り、前者の意味しか載っていない。雑談でのネイティブ氏も、質問にとまどいながらも「アメリカ南部の伝統料理」と考えて、あのような答えをしたのだろう。

私はアメリカの黒人文化や南部には詳しくないが、soul という言葉がアフリカ系アメリカ人と深く関わっていることは聞き及んでいる。そして soul food もそれに沿っているはずだ。本来の意味とは違う使われ方をしていたとは、ネイティブ氏には思いつかなかったようである(なお彼はアメリカ南部の出身で、そのせいもあったかもしれない)。

ここまでなら、「ソウルフードと soul food が違うことなんて知ってらあ」「何をいまさら」という方がいるかもしれない。確かにそうなのだが、私の話には続きがある。

英語の辞書が soul food に「各国のお国料理」の意味を載せていないことを確かめたあと、ふと、「この言葉を日本人と同じように使っているケースはないだろうか?」という考えが浮かんだ。

そこで、いくつかの国の名前と "soul food" をかけあわせてウェブで検索したところ、おもしろいことに、かなり多くの例がヒットしたのである。つまり日本語の「ソウルフード」と同じように使われているようなのだ。

いくつか例をあげよう。

- Experience true “Gemuetlichkeit” with our traditional German Soul Food
http://www.cafeoldvienna.com

- Chinese soul food is classic comfort food you can’t resist, and in this cookbook you’ll find 80 recipes for favorites you can easily make any night of the week.
http://penguinrandomhouselibrary.com/2018/02/20/chinese-soul-food-for-chinese-new-year/

- ... we take the utmost pride in serving only the freshest ingredients available, while incorporating a variety of styles to deliver a nostalgic Italian soul-food experience. Our menu blends traditional Italian food with classic comfort dishes we are familiar with locally.
http://graziaitalian.com/

そして、「soul food は今やアメリカ南部の料理に限られるものではない」と高らか?に歌い上げている韓国料理のサイトもあった。

- Finding nostalgia and comfort in Korean soul food

The term “soul food” was coined in southern US states by African-Americans in the 1960s.

Soul food reflected the sorrow and pain among slaves in the region who had to make do with the food they were given. These days, however, the meaning has somewhat changed to convey nostalgic dishes that give people comfort.

The English term is now also commonly used among South Koreans to describe dishes that are quite different to traditional meals that hark back to the Joseon era.
http://www.koreaherald.com/view.php?ud=20180202000703

こうした英文はネイティブが書いたものかどうかは確かめるすべがない。しかし、私が興味を持ったのはそういうことではない。

soul food はアメリカ南部の伝統料理である、という辞書の定義通りにこの言葉をとらえ、使っている人がいる。その一方で、辞書の記述を離れて、郷愁を誘うお国料理に使っている実例もある。

これはもしかしたら、英語の国際化、それに伴う英語の脱英米化のひとつの実例と言えるのかもしれない。

そして今後、こうした傾向が少しづつ進んでいくとしたら、英語の「規範」は一体どのように決められるのだろうか。そんなことを考えさせられた今回の体験だった。

最後に soul food の(本来の)定義を、アメリカとイギリスの辞書から一つずつ引用しておこう。

- Food, such as ham hocks and collard greens, traditionally eaten by southern African Americans.
(American Heritage Dictionary)

- uncountable noun
Soul food is used to refer to the kind of food, for example corn bread, ham, and greens, that was popular with black Americans in the southern United States and is considered typical of them.
Soul food is a varied cuisine: it includes spicy gumbos, black-eyed peas,and collard greens.
(COBUILD Advanced English Dictionary)


にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村

タグ:カタカナ語
nice!(4)  コメント(4) 
共通テーマ:資格・学び

nice! 4

コメント 4

MisTy

tempus fugitさんはじめまして。MisTyです。"Talking New York New Yorkでみつけた英語"で、New Yorkで見つけた面白い表現や、それにまつわる記事などを載せています。英語教員をしていたので、どうしても受験英語目線になってしまうのですが、英語を通して知らなかったことを知るという喜びを感じてブログを書いています。英語に初めて接してから40年以上とお書きになっているので、多分同世代だなと思っております。これからも読ませていただきます。よろしくお願いいたします。
by MisTy (2018-11-04 07:47) 

tempus fugit

MisTyさん、はじめまして(スタンダードナンバーにかけたお名前でしょうか?)。ブログ拝見しました。現地におられると日本在住者には知りようがない事象や言葉に毎日出会っておられることと思います。今後も拝見させていただきます。私も十代の頃はビートルズやS&Gを聞きまくり、学校では主に国際関係を学んだので、世代というだけでなく共通点があるようです(卒業後はずっと日本企業のサラリーマンで、関わった外国も非英語圏の国ばかりですが・・・)。どうぞよろしくお願いいたします。
by tempus fugit (2018-11-04 09:14) 

英語学習者

今年になって英会話教室に週一度通っています。1対1で個人授業です。先生はテキサス出身、大学はハワイ、在日25年以上、日本人の妻と家族を営む50歳代の男性です。
たまたま前回食物のことが話題になりました。地元の観光客誘致の一端で「〇〇は我が街のソウルフードだ」というようなキャッチフレーズがありましたので、それを直訳しつつsoul foodという言い方を、その地域独特の食べ物で云々・・・という意味で使うか、と尋ねたところ、彼はそもそもsoul foodという表現自体を知らないと言いました。その音で思いつくのはsole foodという表現だ(Hamburgers are his sole food.・・・ばかり食べている)と。南部出身で大卒という教養レベルの人ですが、こんな人もたまたまいました、というだけの話です。
私もsoul foodの意味は知りませんでしたので、いつものことながら、勉強になりました。
by 英語学習者 (2019-03-18 10:04) 

tempus fugit

ネイティブだから英語について何でも知っているわけではない、というのは、私も実際に体験して「そりゃそうだよなあ、日本人と日本語だってそうだし」とあらためて思ったものでした。

特に個々の単語や文法レベルの話だと、こちらの方がネイティブよりよく知っていたりすることもありますね。もちろん語感とか文化などに関わることなどは、非ネイティブは逆立ちしてもかなわないのですが。

by tempus fugit (2019-03-20 00:08) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
にほんブログ村 英語ブログへ
にほんブログ村← 参加中です
Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...