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go up a notch on my belt はベルトを「締める」のか「緩める」のか [文法・語法]

ある英語参考書に go up a notch on one's belt という表現が載っていた。「ベルトの穴が一つ縮まる」という意味だとして実例をあげていたが、それを読んだら、むしろ「緩める」のように思えたので、少し調べてみた。

実例は TIME 誌の記事からで、ウェブにもあって読むことができたので、同じ部分を引用しよう。

- One morning in March, a couple of months into my nutraceutical regimen, I noticed that my jeans were tight. A week later, I went up a notch on my belt.
("Nutrition In a Pill?" TIME Sep.12, 2011)

参考書の著者は、notch は刻み目のことで、ここではベルトの穴を指す、と書いた上で、「食養生を数か月続けたところ、ジーンズのベルトの穴が一つ縮まった」という意味だと説明している。

私は昔よく聞いていた洋楽のヒットチャート番組で notch を覚えた。前週と比べたランキングの変動を言うのにDJが使っていたからだが、なるほど、ベルトの穴(の段階)にも使えるのか。

しかし改めて引用を読むと、前半は「数か月たったら、ジーンズがきつくなっていることに気づいた」という意味のはずだ。そのたった一週間後に「ベルトの穴が縮まる」なんてことはありうるのだろうか。逆にむしろ、「さらに一週間たったら、ベルトをひと穴分緩めざるを得なかった」と考えたほうが自然ではないだろうか。

そう思って引用されている文をネットで検索したところ、出典となっている「タイム」誌の記事全文を見つけたのだったが、読んでみると、引用部分のすぐあとに、記事の筆者は実は太ったということがはっきりと書かれていた。

- I was 170 lb. (77.1 kg) on Feb. 1, 175 lb. (79.4 kg) by late February and 180 lb. (81.6 kg) on March 30.
(ibid.)

そして記事の内容も、「サプリメントを使い続けたら気分が良くなった感じになり、食事の量も増えてしまった」というものだった。つまり、本にあった「食養生を続けたらベルトが締まった(つまり、やせた)」とは逆のことを指しているとしか思えないのだ。著者は記事の全文を読んだのだろうか。

・・・ということで本の記述に疑問が生まれたのだが、この表現がどのように使われているか、さらにネットで検索してみると、おもしろいことに、ベルトを「締める」と「緩める」双方の実例が複数見つかった。

つまり同じ表現なのに、人によって正反対の意味に使われていたのだ。そのいくつかを抜き書きしてみよう。

- I was surprised that more came off in the 2nd week as I assumed that the initial weight loss would be water, but 2 weeks in and my clothes are noticeably looser and I have had to go up a notch on my belt.

- I was able to go up a notch on my belt today (in the getting skinny direction) so our pedestrian, downtown lifestyle is paying off.

- I was dangerously close to having to go up a notch on my belt. Earlier this week, however, I noticed I am almost ready to go DOWN a notch, and the scale is showing approximately 3-4 pounds less than when this challenge started.

- I already noticed my tummy sticking out slightly and I'm uncomfortable. I haven't gained weight but I feel different like my tummy is always full I had to go up a notch on my belt.

前の2つが「胴回りが小さくなる」、後の2つが「大きくなる」である。やせたからベルトを締め「上げる」、太ったからベルトの段階がひとつ「上がる」、と考えれば、どちらに up が使われても理屈は通るように思う。といってもあくまで日本語にこじつけてのイメージだが。

では本来はどちらの意味で使うのが正しいのか、という疑問が当然のように浮かんだが、たとえ正解があったとしても、どちらにも使われている、という現実も重要ではないか、とも考えた。

ここまで極端な違いではないが、英語について同じ質問をしてもネイティブスピーカーによって違う答えが返ってきたことは、私も何度か経験している。日本語で考えてもわかるが、母語であっても、言葉の感覚や使い方は個人差がある。「正解」を使う人が少数派になることもありうる。

そう思いながら、さらに検索で見つかった記事を読んでいたら、「この表現は避けて、take in let out を使うべき」という記述が English Language & Usage というサイトにあった。

- “Go up (or down) a notch” is not the usual idiom. I would avoid it. It is idiomatic to say something like:
“I took my belt in a notch” (to indicate a smaller waist or a condition of extreme hunger)
“I let my belt out a notch” (to indicate a larger waist or a condition of extreme satiety)
https://english.stackexchange.com/questions/10598/up-or-down-a-notch

さらに、次のようなオンライン辞書の記述もあった。

- take one's belt in (a notch) and pull one's belt in (a notch)
Lit. to tighten one's belt a bit. (Probably because one has not eaten recently or because one has lost weight.)
He pulled his belt in a notch and smiled at his success at losing weight.
He took in his belt a notch and wished he had something to eat.
(McGraw-Hill Dictionary of American Idioms and Phrasal)

ということで、ちょっとした疑問からいろいろなことを知ることができた。

記述に疑問を呈してしまったが、今回読んだ本は、全体としては日本人学習者の盲点となる事項を多数あげていて、非常に参考になった(読んだのは「改訂増補版」だが、旧版が出た十数年前の時代状況や情報がそのまま残されているのは残念だったが)。今回の表現にあった up についていえば、「話し手から遠ざかる」という意味で up も down も同じように使われることがある、ということがこの本に書かれている。


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