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corps は「コープ(ス)」ではない (ビートルズ「アビイ・ロード」50周年記念盤) [発音]

ビートルズのアルバム「アビイ・ロード」の発売50周年記念エディションが近く発売される。日本のレコード会社による宣伝を見ていたら、英語に関連してひっかかったことがあったので、少し書いてみたい。知っている人にとっては基本レベルだが、誤解している人も結構いるのではないか、という内容である。

レコード会社の公式サイトに載っていた「プレス・リリース翻訳」というただし書きがついた部分である。

- 1969年9月26日に発売された『アビイ・ロード』は、『レット・イット・ビー』が1970年に発売されたことから、ザ・ビートルズの最後のアルバムではない。しかしながらこれは、ジョン、ポール、ジョージ、そしてリンゴがバンドとして共にレコーディングした最後のアルバムである。ザ・ビートルズはこの『アビイ・ロード』の記念日を祝い、アップル・コープ/キャピトル/ユニバーサル・エンタープライズから9月27日に世界に向けて美しいパッケージの記念盤をリリースする。
https://www.universal-music.co.jp/the-beatles/news/2019-08-08-release/

ビートルズが設立した会社が Apple Corps だが、この「アップル・コープ」という表記がひっかかった点だ。

corps 「軍団」「団体」の発音は /kɔːr/ である。corporation の略称なら確かに corp. で「コープ」のように発音されるが、それではないし、-s もついている。もちろん「生協」の co-op ではない。いずれにせよ日本の発売元が「コープ」と表記しているの見て、ちょっと残念に思った。

また、corps を /kɔːrps/「コープス」と発音すると、corpse 「死体」という違う単語になってしまう。私が高校生だった数十年前は、押さえておきたい発音として載せている参考書や問題集が結構あったはずだが、それでも当時から「ひっかけ問題の定番」というほどではなかったと記憶している。そんなこともあり、corps の発音を間違ってとらえている人は、今もかなりいるのではないかと想像している。

ビートルズについて書かれた日本のブログ等を読むと、「アップル・コープスと書かれているのを見たが、アップル・コーズです」という書き込みも見つかった。corps の複数形は綴りが同じで発音は確かに /kɔːrz/ となるのだが、ここは単数であり、誤りを指摘しながら同時に誤った内容になっている。

ネイティブが話しているのを聞けば、「コープ」でも「コープス」でも「コーズ」でもないことは明白だ。ついでだがその昔、イギリス人とビートルズについて話した際、彼が「アップル・コー」のように言うのを耳にして、「なるほどイギリス英語だ」と思ったものだった。イギリス標準発音は語尾の/r/音を響かせないので当然といえば当然なのだが、私はアメリカ式の「アップル・コア」が頭にあったので、妙に感心してしまったのだった。

英語版 Wikipedia の記述によると、当初は Apple Core つまり「リンゴの芯」という社名にしたかった、とのこと。アナログ時代、ビートルズのレコードはA面レーベルのデザインが皮のついたリンゴで、B面にひっくり返すと半分に割って芯が見えるリンゴの絵がレーベルになっていた。LPだからできるおもしろい趣向だったわけで、CDでは2枚組アルバムの2枚目に使うしかない。

- Its name (pronounced "apple core") is a pun. (中略)
The Beatles' publicist, Derek Taylor, remembered that Paul McCartney had the name for the new company when he visited Taylor's company flat in London: "We're starting a brand new form of business. So, what is the first thing that a child is taught when he begins to grow up? A is for Apple". McCartney then suggested the addition of Apple Core, but they could not register the name, so they used "Corps" (having the same pronunciation).
https://en.wikipedia.org/wiki/Apple_Corps

なお corps と corpse は、実は同じラテン語の corpus に由来するというのが面白い。「身体」という意味で、つまりは body ということになる(この英語が「団体」「死体」両方に使えるのはご存知の通りである)。また corpus は同じ綴りで英単語になっており、「文書の集大成」「全集」などを表すが、実際に使われた言葉を集めた資料である「コーパス」として日本語にもなっている。

さらに余談だが、その昔、アメリカの大衆小説の翻訳を読んでいたら、「ビートルズの『アベイ・ロード』」と書かれているのを見つけ、「翻訳者、さらに編集者もビートルズのことを知らず、調べもしなかったらしい」と、ちょっと呆れたものだった。

ついでに書くと、ビートルズの Abbey Road は、レコーディングが行われたロンドンのスタジオ近くにある通りの名前にちなんだものだが(いつか行ってみたいものだ)、アルバムの邦題としては「アビイ・ロード」であり、「アビー・ロード」ではない。

何と細かいことを、というかもしれないが、実務では、商品名が「アビイ~」なのであればその通りに表記し、「アビー」などと変えないのがあるべき形だ、と気をつけて仕事をしているつもりだ。

外国語のプロの方々の中には、こうした固有名詞について「原音通りの表記」にこだわり、決まった表記や広く慣用で使われている表記があっても(専門書ならまだしも、一般向けの文章でも)無視する人がいて、不思議に思うことがある(そもそもカタカナで原音を正確に表すことは不可能のはずだが、その点にはここでは立ち入らない)。

しかし、かくいう私も「アップル・コープ(ス)」はおかしいと書いたばかり。それに気づいて、「目くそ鼻くそを笑う」だろうか、と苦笑してしまった。さらに厳密にいえば、定冠詞があるので「ザ・ビートルズ」としなくてはならないのだ。最初にあげたレコード会社の宣伝文はちゃんとそうなっている。

ビートルズのアルバムは、ここ数年「50周年記念盤」の発売が続いている。私も、未発表のテイクを多数含んだ「ホワイト・アルバム」の”豪華版”を買ってしまったが、こうした商法につきあっているとキリがないので、今度の「アビイ・ロード」はパスすると思う。

その次の対象になるのではないかと思う「レット・イット・ビー」は、セッションや編集に複雑ないきさつがある”いわくつき”?の作品だが、こちらはそのへんの紆余曲折が楽しめるような予感がして、誘惑に抗えないかもしれず、今から心配である。


ABBEY ROAD

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  • 出版社/メーカー: EMI
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タグ:ビートルズ
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