小泉進次郎環境相の「セクシー」発言が波紋 [日本のニュース]
ニューヨークの国連本部を訪れた小泉進次郎環境相が、地球温暖化への取り組みについて英語で語った際に sexy という言葉を使ったことが反響を呼んでいる。
国連で行った演説に先立つ記者会見での発言だが、その報道に最初に触れた時は、「気候変動政策を色っぽく、か。ウケ狙いの発言かな」とは思ったものの、特に問題発言というようには考えなかった。
sexy は性的な内容を離れて interesting や exciting の意味でも使われている。確かに政治でひんぱんに耳にする言葉ではないかもしれないが、今回の発言は国連の場とはいえ環境関連のイベントでのこじんまりした感じの会見ということもあってか、それほど変だとは思わなかったのである。
ところが、否定的な反応が結構出ているのを後で知り、ちょっと意外な気がした。そこで英文を含む関連記事を読み、実際の発言を動画で見てみた。
「セクシー」発言の部分を、ある英文記事から転記しよう。
- In politics there are so many issues, sometimes boring. On tackling such a big-scale issue like climate change, it's got to be fun. It's got to be cool. It's got to be sexy, too.
なお音声と比べると、記事は進次郎氏のオリジナルの英語に少し修正を加えて引用しているようだ。発音の面では、"it's got to be ..." のところで /ts/ 音が抜けたようになっているし、 got to も実際には gotta という感じで発音している。下記の動画は前半が演説、後半に sexy 発言のあった会見が収められている。
さらに関連記事を見つけて読んでいくと、小泉氏の言葉は、国連気候変動枠組み条約を担当していた Christina Figuerres 前事務局長の発言を受けたものであることがわかった。つまり、最初に sexy と言ったのは進次郎氏ではなかったのだ。
上記の引用に先立つ発言の部分(下記参照)に接すると、それがはっきりする。会見で小泉氏はフィゲレス前事務局長の隣りに座っていて、下記の ...she added "also sexy" のくだりでは、she 本人である隣りのフィゲレス氏が笑い声をあげていることが動画からわかる。また小泉氏は "It's got to be sexy." と言う際にも彼女の方を向いている。
- It was an exciting meeting and I like the last comment made by one person from a private company, industrial company. He said on tackling on this issue, everything's got to be fun. And she added “also sexy.” (注:ここでフィゲレス氏の笑い)All right. I totally agree with that.
さらに、小泉環境相は次のように続けている。若者に対する呼びかけとして、いま風に言えば「刺さる」言葉であろう fun, cool, sexy を強調したのだろうか。
- As I said, the young generation is the key. For mobilizing them and empowering them it's got to be fun. How to make the way of resolving this issue cool and happy and sexy, I think young people know how to make it cool and fun.
最初に引用した部分だけを活字で読むと、なるほど fun, cool, sexy というのは、一国の環境大臣の言葉としては軽いようにも感じる。
しかし、全体の流れを見ると、それほど批判を集める発言なのかな、とますます思えてくる。突っ込むとすれば、「じゃあ、その fun で cool で sexy な取り組みとは何なのか?そのために何をするのか?」 という点ではないだろうか(動画を見ると会見でもこの点を尋ねられており、「具体的な政策については言及がなかった」と書いている記事もある)。
また、取り組むべき政治課題について政治家自身が boring と形容しているのも個人的には気になった。たぶん、小泉氏本人がそう思っているのではなく「そう思っている人がいる(のが残念だ)」という意味で言ったのではないかと考えたが、そうだとすれば、ちょっと舌足らずな言い方のようにも思う。
いずれにせよ、こうした前後関係や全体の文脈に触れたうえで「セクシー」発言を伝えていた記事は、私が見た限りでは、外国メディアも含めて少数派のように感じた。
もちろん、全体の流れを知ったとしても「セクシーという言葉を使うなんて」と思う人がいても、それは個人の考えだから構わない。
ただ、発言の一部だけを切り取って伝えると、そうした印象がより強まるおそれがある、ということは否定できないだろうし、そうしたことを知っておいても損はないだろう。さらに、日本のメディアが訳として使った「クールでセクシー」というカタカナの日本語が与える印象も、それに追い打ちをかけるように思う。
父親の小泉純一郎首相は、「ワンフレーズ政治」のうまさが(良くも悪くも)際立っていた。そして進次郎氏もその点では「親譲り」のように言われている。
しかし英語で行った今回の発言は、そうした「ワンフレーズ」を意図したのであれば、結果的には「すべって」しまったようにも感じるし、意図していなかったのであれば、マスコミはしばしば発言を切り取って伝えるものだというリスク、そして日本国内で「セクシー」というカタカナ語で伝えられることの危うさについて、ちょっと認識が甘かったとは言えるのではないか。
"It's got to be fun. It's got to be cool. It's got to be sexy." というのは、なるほどワンフレーズとして決まっているように見える。しかし、フィゲレス元事務局長の発言を踏まえないと真意が伝わらないなど、内容面では字面ほど単純なものとはいえまい。
そうでなくても気候変動対策は、理念はともかく実行可能性の点では全地球的な難題だ。純一郎首相が手がけた国内問題の郵政民営化などに比べると、「ワンフレーズ」にするには難度が高いのではないだろうか。
なおコロンビア大学大学院で学んだという進次郎氏は、今回の演説や会見を英語で立派にこなしていて頼もしいが、それでも今度の内閣改造で外相から防衛相になった河野太郎氏の方が英語面ではもっとうわ手だと感じる。河野氏は外相の時に受けたCNNやBBCなどのインタビューを私も聞いたが、見事なものである。もちろん英語力で政治家を評価するのは意味がなく愚かなことであるが、英語についてのブログなので、正直な印象を記してみた。
過去の参考記事:
・大坂なおみ選手の「ごめんなさい」は本当に誤訳なのか?
https://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2018-09-18
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国連で行った演説に先立つ記者会見での発言だが、その報道に最初に触れた時は、「気候変動政策を色っぽく、か。ウケ狙いの発言かな」とは思ったものの、特に問題発言というようには考えなかった。
sexy は性的な内容を離れて interesting や exciting の意味でも使われている。確かに政治でひんぱんに耳にする言葉ではないかもしれないが、今回の発言は国連の場とはいえ環境関連のイベントでのこじんまりした感じの会見ということもあってか、それほど変だとは思わなかったのである。
ところが、否定的な反応が結構出ているのを後で知り、ちょっと意外な気がした。そこで英文を含む関連記事を読み、実際の発言を動画で見てみた。
「セクシー」発言の部分を、ある英文記事から転記しよう。
- In politics there are so many issues, sometimes boring. On tackling such a big-scale issue like climate change, it's got to be fun. It's got to be cool. It's got to be sexy, too.
なお音声と比べると、記事は進次郎氏のオリジナルの英語に少し修正を加えて引用しているようだ。発音の面では、"it's got to be ..." のところで /ts/ 音が抜けたようになっているし、 got to も実際には gotta という感じで発音している。下記の動画は前半が演説、後半に sexy 発言のあった会見が収められている。
さらに関連記事を見つけて読んでいくと、小泉氏の言葉は、国連気候変動枠組み条約を担当していた Christina Figuerres 前事務局長の発言を受けたものであることがわかった。つまり、最初に sexy と言ったのは進次郎氏ではなかったのだ。
上記の引用に先立つ発言の部分(下記参照)に接すると、それがはっきりする。会見で小泉氏はフィゲレス前事務局長の隣りに座っていて、下記の ...she added "also sexy" のくだりでは、she 本人である隣りのフィゲレス氏が笑い声をあげていることが動画からわかる。また小泉氏は "It's got to be sexy." と言う際にも彼女の方を向いている。
- It was an exciting meeting and I like the last comment made by one person from a private company, industrial company. He said on tackling on this issue, everything's got to be fun. And she added “also sexy.” (注:ここでフィゲレス氏の笑い)All right. I totally agree with that.
さらに、小泉環境相は次のように続けている。若者に対する呼びかけとして、いま風に言えば「刺さる」言葉であろう fun, cool, sexy を強調したのだろうか。
- As I said, the young generation is the key. For mobilizing them and empowering them it's got to be fun. How to make the way of resolving this issue cool and happy and sexy, I think young people know how to make it cool and fun.
最初に引用した部分だけを活字で読むと、なるほど fun, cool, sexy というのは、一国の環境大臣の言葉としては軽いようにも感じる。
しかし、全体の流れを見ると、それほど批判を集める発言なのかな、とますます思えてくる。突っ込むとすれば、「じゃあ、その fun で cool で sexy な取り組みとは何なのか?そのために何をするのか?」 という点ではないだろうか(動画を見ると会見でもこの点を尋ねられており、「具体的な政策については言及がなかった」と書いている記事もある)。
また、取り組むべき政治課題について政治家自身が boring と形容しているのも個人的には気になった。たぶん、小泉氏本人がそう思っているのではなく「そう思っている人がいる(のが残念だ)」という意味で言ったのではないかと考えたが、そうだとすれば、ちょっと舌足らずな言い方のようにも思う。
いずれにせよ、こうした前後関係や全体の文脈に触れたうえで「セクシー」発言を伝えていた記事は、私が見た限りでは、外国メディアも含めて少数派のように感じた。
もちろん、全体の流れを知ったとしても「セクシーという言葉を使うなんて」と思う人がいても、それは個人の考えだから構わない。
ただ、発言の一部だけを切り取って伝えると、そうした印象がより強まるおそれがある、ということは否定できないだろうし、そうしたことを知っておいても損はないだろう。さらに、日本のメディアが訳として使った「クールでセクシー」というカタカナの日本語が与える印象も、それに追い打ちをかけるように思う。
父親の小泉純一郎首相は、「ワンフレーズ政治」のうまさが(良くも悪くも)際立っていた。そして進次郎氏もその点では「親譲り」のように言われている。
しかし英語で行った今回の発言は、そうした「ワンフレーズ」を意図したのであれば、結果的には「すべって」しまったようにも感じるし、意図していなかったのであれば、マスコミはしばしば発言を切り取って伝えるものだというリスク、そして日本国内で「セクシー」というカタカナ語で伝えられることの危うさについて、ちょっと認識が甘かったとは言えるのではないか。
"It's got to be fun. It's got to be cool. It's got to be sexy." というのは、なるほどワンフレーズとして決まっているように見える。しかし、フィゲレス元事務局長の発言を踏まえないと真意が伝わらないなど、内容面では字面ほど単純なものとはいえまい。
そうでなくても気候変動対策は、理念はともかく実行可能性の点では全地球的な難題だ。純一郎首相が手がけた国内問題の郵政民営化などに比べると、「ワンフレーズ」にするには難度が高いのではないだろうか。
なおコロンビア大学大学院で学んだという進次郎氏は、今回の演説や会見を英語で立派にこなしていて頼もしいが、それでも今度の内閣改造で外相から防衛相になった河野太郎氏の方が英語面ではもっとうわ手だと感じる。河野氏は外相の時に受けたCNNやBBCなどのインタビューを私も聞いたが、見事なものである。もちろん英語力で政治家を評価するのは意味がなく愚かなことであるが、英語についてのブログなので、正直な印象を記してみた。
過去の参考記事:
・大坂なおみ選手の「ごめんなさい」は本当に誤訳なのか?
https://eigo-kobako.blog.so-net.ne.jp/2018-09-18
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