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英語民間試験をめぐる「身の丈」発言はどう英訳されたか [ニュースと英語]

このブログを始めた頃、英語学習のヒントとして、「国内で話題になった発言がどう英訳されているかを英字新聞などで調べる」をあげたことがあった(→ こちら)。いま騒ぎになっているのが、英語にも関係がある萩生田文科相の「身の丈」発言だ。これについてちょっと調べてみた。

来年から大学入試共通テストには民間の英語試験が導入され、6つの団体の試験のいずれかを2回まで受けることができる。これについては、受験生の住む場所や家庭の経済状況によって不平等が生じる、という批判があり、中止の申し入れや抗議デモまで行われている。

こうした批判に対して萩生田文科相は、テレビ番組で次のように述べた。

- 「それ言ったら、『あいつ予備校通っていてズルいよな』と言うのと同じだと思うんですよね。だから、裕福な家庭の子が回数受けて、ウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれないけれど、そこは、自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば」

この発言には「不公平であることを容認するのか」と非難があがり、大臣は謝罪と撤回に追い込まれた。

ネットで調べると、上記の発言をまるまる英語にしていた記事がひとつ見つかった。

- On Oct. 24, a panelist on a Fuji Satellite Broadcasting Inc. television show asked Hagiuda, "Aren't students (taking the exams) who have been fortunate geographically or financially at an advantage?"

Hagiuda responded, "If you put it that way, then it's the same as calling your friend who goes to an exam preparation school a cheat for doing so. Children from wealthy households may be able to warm up for these tests by practicing multiple times, but people should choose to compete for university places in accordance with their standing and do both tests."
("Japan minister apologizes for comments downplaying inequality among university test takers" The Mainichi October 28, 2019)

standing には「立場」とか「身分」、「序列」という意味がある。「身の丈」という原語と、同じではないが何となく似た感じも与える単語でもある。なるほど、と思った。

これ以外の英訳を列挙しよう。

- Hagiuda said Thursday on a TV program that students should compete for university places "in accordance with their (financial) standing" when asked about private-sector English tests to be introduced as part of entrance exams.
(Kyodo Oct. 29, 2019)

- “I hope the students will do their best while selecting the two occasions that are most befitting their financial standing,” Hagiuda said.
(The Asahi Shimbun Oct. 29, 2019)

- Responding to criticisms that the system effectively condones socio-economic disparities, Hagiuda blurted out, "I hope the applicants will do their best under their given circumstances."
(The Asahi Shimbun Oct. 30, 2019)

- Hagiuda said on a TV program last week that students should compete for university enrollment "within their means." His remarks followed a suggestion that students from affluent families may be able to take practice tests.
(NHK World Oct. 30, 2019)

同じ媒体でも記事が別だと違う英語表現になっている例もあるのがおもしろい。ひとつの決まった英語である必然性はないので、いろいろな英訳を見比べるのは参考になると思う。

さて、民間試験の導入については、上記のような地域的・経済的な不平等性や、6団体の異なる試験を使って、どうして受験生を公正に評価できるのか、という指摘がされている。本質的に営利追及で成り立っている民間に国の試験を任せていいのか、というそもそも論もある。私もまったく同感で、なぜこうした単純な疑問に反するような政策が打ち出されたのか、不思議としか言いようがなかった。

英語民間試験に対しては、教師や大学教授など英語のプロも批判を続けているが、彼らの主張は、どうも「話すことを含めた4技能はこうしたテストで測れない」とか「英語教育は読むことに徹するべき」といった、専門的な面に最大の力点が置かれているとの印象がある。

本質に関わる重要な指摘ではあるが、それでも私はどこかズレたものを感じていた。そしてプロたちがいくらこうした主張をしても大衆に「ささった」ように見えなかったのは、やはりあくまで専門の範囲での論議に聞こえるからだろう、と思っていた。

一般レベルからいえば、「こうした試験の導入で、英語を話す力が本当に向上するのか?」ということもさることながら、「不公平ではないか?」などの疑問のほうが、よほど皮膚感覚になじむものだろう。

その点では、萩生田文科相の「身の丈に合わせた」というたったひと言の方が、英語のプロたちが重ねてきた声高な主張よりも、ずっと今回の試験の問題点をズバリと言い当てているように思えるのが、何とも皮肉である。


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タグ:日本の政治
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