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panopticon 「一元的な社会監視システム」 [辞書に載っていない表現]

潜在意識とは不思議なもので、英語に触れ続けていると、意図的に記憶はしていないのに「あれ?この単語、前にどこかで見たことがあるな」という経験をすることがある。そうした形で最近覚えた panopticon についてメモしておこう。

最初に目にしたのがそもそも最近のことだが、いつ何で読んだか具体的には覚えていない。辞書も引かなかったが、文脈でとらえて読み飛ばす一方で、無意識にであるが「おもしろい綴りだなあ」と感じていたのだろう。その後、何かで再び目にし、さらに先日ある記事で3度目の遭遇をしたので、今度は辞書を引いてみた。

その記事は、新型コロナウイルスと中国の対応について書いたものだったが、それまで2度お目にかかったのも、やはり中国やウイルスに関係するものだったような気がする。そうでなければ、これだけ短期間に何度も出会うことはないはずだ。

前置きが長くなったが、panopiticon /pæˈnɑptɪˌkɑn/ とは、「中央に監視塔があり、それを取りまくように独房を配した円形の刑務所」のことだと辞書にある。つまり、一か所からすべての独房と囚人を監視できるようなデザインになっているわけだ。

しかし私が読んだ記事では、実際の刑務所のことではなく、監視カメラやインターネットへの規制、また顔認証といったテクノロジーを利用して、中国当局が人々の言動に目を光らせているシステムについて比喩的に使われていた。そうした内容・文脈から、ほぼ読み飛ばしだったのに何となくわかった(つもりになった)のだろう。

英語圏の辞書を引いてみても、目にした範囲ではこうした意味を記載しているものは見当たらなかった。"A circular prison with cells arranged around a central well, from which prisoners could at all times be observed." (Oxford Dictionaries) などと、施設についての定義しかない。

だが、私が目にしたような比喩的な意味で使われている例は、ネットで調べるといくつも見つかった。いくつか抜き書きしよう(私が読んだ記事にあった部分は、まとまりがいまひとつなので引用は見合わせる)。

- As a work of architecture, the panopticon allows a watchman to observe occupants without the occupants knowing whether or not they are being watched. As a metaphor, the panopticon was commandeered in the latter half of the 20th century as a way to trace the surveillance tendencies of disciplinarian societies.
("What does the panopticon mean in the age of digital surveillance?" The Guardian July 23, 2015)

- Police in China are far better equipped for a crackdown in 2020 than they would have been in previous years, thanks to a vast surveillance panopticon that the state has built up nationwide, but previously not used to tackle something of this scale.
("China's massive security state is being used to crack down on the Wuhan virus" CNN February 11, 2020)

- On the routes where Silk Road caravans once traveled, a sophisticated surveillance apparatus shrouds the wider populace in an AI-powered panopticon, where every action is watched, recorded and judged by algorithm.
("The Coronavirus Outbreak Could Derail Xi Jinping’s Dreams of a Chinese Century" TIME February 6, 2020)

先に書いたように、私の潜在意識に残ったのは綴りが特徴的だったからだろうが、語源は、all を表す pan- (pandemic やパンパシフィックなどの「パン」である)、それに optic とか for sight を表す optikon (いずれもギリシャ語)があわさったものだそうだ。「全部が丸見え」ということになるだろうか。

こうした一元的な監視システムは、ジョージ・オーウェルの「1984年」を想起させるが、中国では個人の統制に使われているわけだから、私としては到底受け入れられるものではない。ただ、うまく(?)活用すれば、防犯や犯罪捜査、また今回の新型インフルエンザ対策など、社会秩序を保つうえで大変役に立つことは否定できないだろうから、何とも複雑な気持ちになる。


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Kawada

記事によっては“panopticon”という表現(おそらくpanopticonのもじり)もあるようです。

https://www.economist.com/briefing/2020/03/26/countries-are-using-apps-and-data-networks-to-keep-tabs-on-the-pandemic
by Kawada (2020-04-29 08:14) 

tempus_fugit

「coronopticon という表現」ということですね。うまくもじっていますね(なおご紹介のこの記事、私も紙媒体で読んでいました)。

私は英文週刊誌はかつて TIME を読んでいましたが、昔に比べて内容が落ちた感があり、The Economist を読むようになって久しいです(厳密にはこちらは weekly magazine ではなく weekly newspaper で、位置づけが多少違いますが)。
by tempus_fugit (2020-04-29 09:57) 

Kawada

Tempus fugit様
読んでおられたのですね。
これは失礼いたしました。
私も「Economist派」です。表紙の絵が面白く、つい買ってしまったものです。今は電子媒体でサイトの無料登録(記事閲覧5回まで)を利用して読んでおります。特に、見出し、小見出し、挿し絵などを見て、文学的背景、もじり、洋楽がバックにあるもの、興味深い表現があるものを中心に読んでおります。
by Kawada (2020-04-29 12:58) 

tempus_fugit

The Economist は見出しや表紙が秀逸ですよね。「あ、これは○○のもじりだ」と気づくものが毎号いくつかあります。逆にいえば、自分が気づかないものも相当あるはずなので、じっくり調べれば勉強になるだろうなと思っています。

私は紙媒体を置いている場所を利用できるので、そこに行った時にパラパラ眺めています。じっくり読みかえしたい内容の記事があった時はウェブで読んでいますが、私も閲覧制限のある登録者なので精選する必要があります。購読契約をすれば制限がなくなるのですが、やはりちょっと高額で、ずっと二の足を踏んでいます。

by tempus_fugit (2020-04-29 16:24) 

Kawada

Tempus fugit様
panopticon関連でもう一つ、記事のURLを貼ります。
“new abnormal”という語を見て、違和感を覚えましたが、そう言わざるを得ない、書かざるを得ない状況なのでしょうかね。

https://asia.nikkei.com/Spotlight/Cover-Story/Government-puts-economy-before-life-Voices-from-the-pandemic
by Kawada (2020-04-30 11:07) 

tempus_fugit

new normal という言葉をもじったものですね。うまい表現だなと思いました。記事はこれからゆっくり読んでみます。ご紹介ありがとうございました。



by tempus_fugit (2020-05-02 12:43) 

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