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「略奪が始まれば射撃も始まる」はトランプが考えた言葉ではなかった [英語文化のトリビア]

アメリカでは、人種問題に端を発した抗議デモや暴動が新型コロナウイルスをしのぐ騒ぎになっているようだ。トランプ大統領は先週、"When the looting starts, the shooting starts." 「略奪が始まれば射撃が始まる」とツイートをして、当のツイッター社から警告表示を受けた。

この言葉は日本のメディアでも広く伝えられた。さらに大統領はツイートで thug というキツイ単語も使い(しかもすべて大文字にして強調し)、事態をあおっているのではと思ったほどだ。

ただ、くだんの言葉については「表現としては韻を踏んでいて、うまいな」と、感心すべきではない状況なのに感心してしまった。

ところが、ウェブで関連記事を読んでいたら、これはトランプ大統領のオリジナルではないことを知った。

たとえば、このような説明がある。

- In 1967, Miami police Chief Walter Headley used the phrase "when the looting starts, the shooting starts" during hearings about crime in the Florida city, invoking angry reactions from civil rights leaders, according to a news report at the time.

"He had a long history of bigotry against the black community," said professor Clarence Lusane of Howard University.
("The History Behind 'When The Looting Starts, The Shooting Starts'" NPR May 29, 2020)

また英語版 Wikipedia はこの言葉を項目に立てており、1967年の出来事から今回のトランプ大統領のツイートまでを説明している。
https://en.wikipedia.org/wiki/When_the_looting_starts,_the_shooting_starts

ということで、アメリカで黒人差別問題と公民権運動が燃え盛っていた半世紀前に、フロリダの警察署長(上記サイトの写真を見ると、当然だが白人)が述べたものだとわかった。

そして、トランプ大統領はこの言葉を聞き知っていて、自分のツイートで使ったというわけである。

ついでだが、大統領の言葉に対するツイッター社の警告については、

- Twitter has flagged a tweet from the official White House Twitter account which reposted the text of a tweet President Donald Trump sent early Friday morning, saying "when the looting starts, the shooting starts," claiming the tweets violated its rules about "glorifying violence."
("Twitter flags Trump, White House for 'glorifying violence' in tweets about George Floyd protests" ABC News May 30, 2020)

などと報じられている。ここに出てくる flag(旗をあげて合図する、反則を告げる、警告フラグを出す、といったイメージだろう)や glorify violence 「暴力を賛美する、称える」といった表現も知っておいて損はない。

ところでトランプ大統領は今回のツイートの後、この言葉にまつわる過去の背景は知らなかったと記者団に語った。

- When asked about his use of the phrase, Trump said he was unfamiliar with its history.

"I've heard that phrase for a long time. I don't know where it came from or where it originated," Trump said. "Frankly, it means when there's looting, people get shot and they die. And if you look at what happened last night and the night before, you see that, it's very common. And that's the way that's meant."
("The History Behind 'When The Looting Starts, The Shooting Starts'" NPR May 29, 2020)

これが言い訳ではなく、背景までは本当に知らなかったというのなら、さすがにトランプといえども(?)そこまでヒドイ人間ではない、ということだろうか。大統領はまた、今回の騒乱の引き金となった事件で死亡した黒人ジョージ・フロイド氏を悼む言葉も出している。

また平和的に行われている抗議デモとは別に、暴動や略奪を目的とするグループが狼藉を働いていることも確かなようだ。ただ逆に見ると、トランプ大統領のツイートが Antifa と呼ばれるこうした団体を煽る結果になったといえるのかもしれない。

そのへんは私にはわからないが、たとえ大統領が主張するように”一般論”としてであっても、こうした刺激的と思える言葉を不用意に使うというのは、やはり思慮に欠けるのではと思ってしまう。言葉を使うことの重みや怖さに政治家が不感症であってはならないだろう。

そういえば、「責任」は「ある」ものだが「取る」とはものではないと考えているらしい総理大臣もいる。そうした言動を繰り返すことで、口にする言葉は本来あるべき意味よりも軽いものになり、信頼もまた失われていく。

そうした言動が当たり前になり、どこが問題なんだ、別に悪くないではないか、と思われるようになる社会が、ご本人がかつて提唱していた(今やまったく聞かなくなったが)「美しい国」の姿なのだろうか。アメリカでの騒乱から、そんなことも考えてしまった。


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