blue-sky ～英和辞典の訳語は適切か

前回の a patch of blue sky「雲の晴れ間」から、今回は後半の blue sky にからめて書いてみたい。形容詞の blue-sky は、英和辞典を見ると「空想的な」「現実味のない」「実際的でない」「足が地についていない」といった訳語が載っている。

単語自体からは鮮やか、さわやかな感じを受けるが、訳語を見ると、どちらかといえばネガティブなイメージを持つのではないかと思う。

自分の英語学習ノートを探すと、次のような実例をメモしていた。イラク戦争でのブッシュ政権の対応を描いたノンフィクションにあったものだ。このブログを始めたころ何度か引用した作品であり、時の経つのが早いことに驚く。

- As best Card could remember there had been some informal, blue-sky discussions at times along the line of "What could we do differently?" But there had been no formal sessions to consider alternatives to staying in Iraq.
(State of Denial: Bush at War, Part III by Bob Woodward)

イラク問題での行き詰まりに打開策を見いだせないブッシュ政権の苦境・迷走ぶりを描いた部分だが、この "informal, blue-sky discussions" は「現実性のない空論」という感じに訳していいのだろうか？

英語圏の辞書から、blue-sky の定義と例文を見て考えてみることにしよう。

- creative or visionary and unconstrained by practicalities:
blue-sky research
(Concise Oxford Dictionary)

- involving new and interesting ideas which are not yet possible or practical
The government has been doing some blue-sky thinking on how to improve school standard.
(OALD)

- a. Not limited by conventional notions of what is practical or feasible; imaginative or visionary:
"Proponents of blue-sky thinking often cite the Wright brothers as validation".
b. Unrealistic or impractical:
"[The author] shows what is testable physics, what is philosophy's domain, and what is blue-sky nonsense".
(American Heritage Dictionary)

こうした記述からは、「非現実的な」などの訳語から受ける後ろ向きな感じよりも、「モノになるかどうかはわからないが、これまでとは違ったやり方や考え方に取り組んでみる」というように、むしろ前向きなニュアンスで考えられる場合があるように思う。

確かに、American Heritage 辞典が２番めの語義として unrealistic や impractical をあげているので、そうした場合にも使えるのだろうが、単に「空論」「お花畑の考え」という感じ一辺倒の言葉ではない、ということは言えるのではないだろうか。

ではどういう訳語がいいのか、と言われると私自身解答はないのだが、英和辞典が訳語の羅列だけでなく、英英辞典のように単語の説明を載せてくれたらありがたいと思うし、重要語については実際そうした動きも見られる。しかしすべての収録語についてそうするのは事実上不可能だろう。

辞書に並んでいる訳語から形作られる単語のイメージが、本来の意味とはズレてしまうこともあるのは否定できまい。そこで、英英辞典の記述や実際に使われた実例に触れるなどして偏ったイメージを持っていないか確かめ、そうであればそれを補正していくことが必要だと思う。

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