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as American as apple pie ~アップルパイはアメリカ発祥ではなかった [英語文化のトリビア]

前回取り上げた pie in the sky から as American as apple pie という表現を連想したので、少し息抜き的に書いておきたい。

「アップルパイのようにアメリカン」ということだが、何かについて「きわめてアメリカ的な」「いかにもアメリカらしい」と言いたい場合に使われる。

- very typical and normal in America:
He defended his driving, saying "fast cars are as American as apple pie."
Diverse families are now becoming as American as apple pie.
(Cambridge Advanced Learner's Dictionary)

私がこの表現を知ったいきさつは後述するが、この表現について、アップルパイはアメリカの”典型的な菓子”だから、という説明を読んだ記憶がある。

これを「典型的な”アメリカの菓子”」というように読んだのか、あるいは実際にそのように書いてあったのか定かではないが、それもあって私は「アップルパイはアメリカで考案された」と思っていた。

ところがある時、アップルパイの発祥地はイギリスであることを何かの本で読んで知った。ご存知の方から見れば当たり前のことなのだろうが、思い込みがあった私にとっては意外だった。

その本はすでに手元にないので、ウェブ上にある情報を引用すると、

- An apple pie is a pie in which the principal filling ingredient is apple, originated in England.
(中略)
English apple pie recipes go back to the time of Chaucer. The 1381 recipe (see illustration) is the earliest known apple pie recipe in the world, and lists the ingredients as good apples, good spices, figs, raisins and pears.
https://en.wikipedia.org/wiki/Apple_pie

- There are few things as American as apple pie, as the saying goes, but like much of America’s pie tradition, the original apple pie recipes came from England. These pre-Revolutionary prototypes were made with unsweetened apples and encased in an inedible shell.
("A Brief History of Pie" TIME, September 26, 2008)

ということで、少なくとも14世紀のイギリスでは作られていたわけだが、現代人が食べているタイプのアップルパイの製法が確立されたのはアメリカだというので、それを考えればこの表現が使われるようになったのも筋違いとまでは言えないのだろう。

なにせ "Apple pie is an unofficial symbol of the United States and one of its signature comfort foods." (Wikipedia) となっている。またアメリカでは「母親の作ったアップルパイ」は、日本での「おふくろの味噌汁」に当たる存在だという説明も見聞きする(「おふくろの味」としての味噌汁は今や衰退しているかもしれないが)。

ちなみに、その昔アメリカに初めて行った時に現地で食べたアップルパイは、”物量作戦”的で味もいまひとつ、その意味では確かに「いかにもアメリカ的」と感じたのを覚えている。

この表現を私が知ったのは十代の時で、以前取り上げたことがある同時通訳者の國弘正雄氏が、インタビューなどで何度か使っているのに触れたからだった。

かつて國弘氏が行った往年の英語インタビューをウェブでいくつか聞くことができるが、そのひとつ、当時の国連事務総長クルト・ワルトハイム Kurt Waldheim 氏との対談で apple pie に言及しているところがある。下記動画の2分あたりである。



ここで國弘氏は as American as apple pie ではなく、

- I don't think I am exaggerating when I say that what the United Nations means to the Japanese is somewhat akin to what apple pie, or motherhood, or the flag means to the average American.

という形で使っている。

私は若い時にこのインタビューを聞いたのだが、実はこの部分を耳にした際、ちょっと違和感を持ったのを覚えている。もちろん英語そのものについてではない。

英語を母国語のように使うとはいえ、ワルトハイム氏はウィーン生まれのオーストリア人である。日本人の国連観をたとえるのに、アメリカに密着した英語表現を引き合いにするのはどんなもんだろうか、と生意気にも思ってしまったのである。

なお当時私が聞いたこのインタビューは、今はなき "Business View" という月刊誌とカセットテープに掲載されたものだった。この雑誌は國弘先生による英語インタビューを時おり掲載していて、そうした場合は別売のカセットテープも購入して音声を聞くようにしていた。

後にインタビューだけをまとめたカセットテープが販売されたが、長い時を経てその音声をどなたかがウェブにアップし、今また聞けるようになったわけである。

上記のような身の程知らずの感想はあくまで例外的なことであり、雲の上の人である”師匠”のインタビューを何度も繰り返し聞いて英語学習に励んでいた遠い昔を、アップルパイをきっかけにしばし思い出してしまった。

過去の参考記事:
同時通訳の草分け 國弘正雄先生逝く


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