追悼・松本零士氏 ~ next of kin [日本のニュース]
漫画家の松本零士氏が亡くなった。氏の作品やアニメとともに育った世代として、何とも残念である。国内だけでなく、海外のメディアも訃報を載せていた。
氏の作品については後ほど個人的な感想を書こうと思うが、英語のブログなので、まずは氏の逝去を伝える英文記事にあった表現をひとつ取り上げよう。なお氏は「零士」についてRではなくLで始める綴りを使っていた。
- Manga artist Leiji Matsumoto, well known for his works “Space Battleship Yamato” and the series “Galaxy Express 999,” died of acute heart failure at a Tokyo hospital on Feb. 13, his company announced Monday. He was 85.
A private funeral was held with next of kin.
("Leiji Matsumoto, famed for 'Space Battleship Yamato' anime, dies at 85" The Japan Times, February 20, 2023)
next of kin は「近親者」という意味で、複数も同じ形であることに注意が必要だ。
- [C, U] (pl. next of kin)
your closest living relative or relatives.
I'm her next of kin.
Her next of kin have been informed.
(OALD)
- your closest relative or relatives, for example your mother, father, son, or daughter. This word is used especially in official documents.
(Macmillan Dictionary)
- plural next of kin
the person or group of people you are most closely related to:
We cannot release the names of the soldiers who were killed until we have informed their next of kin.
(Cambridge Advanced Learner's Dictionary & Thesaurus)
さて、松本零士氏の訃報は新聞等で読む限り、「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」を中心としたSFに重点を置いた内容が目立ったように思う。もちろんそれはそれでいいのだが、イギリスBBCの記事は、そうした通りいっぺんではない情報も盛り込んであって、いい意味で意外だった。
その記事では、4パラグラフ目で、
- His work often included anti-war themes and emotional storylines.
("Leiji Matsumoto, legendary manga creator, dies aged 85" BBC, February 20, 2023)
また、
- More than 150 of his manga stories depicted the tragedy of war - Matsumoto was seven years old when World War Two ended. Many years later, he said he had been inspired by his own father, who had been elite army pilot and had taught him that war should never be fought because it "destroys your future".
(ibid.)
と、氏にとって「反戦」や「戦争」が持つ意味の大きさに触れていたほか、
- "There was an immense sadness in his works, a grandeur nowhere else seen. All wrapped in powerful visuals that were equally mythological and futuristic," Mr Davisson said.
(ibid.)
と、その作風にも言及していた。自分の国の作家ではないのに、こうした踏み込んだ記述が書かれているのを読むと、やはり嬉しいものだ。
私が子供の時に松本零士氏を知ったのは、アニメとして社会現象となった「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」、あるいは「宇宙海賊キャプテンハーロック」といったヒット作品よりも前のことで、「戦場まんがシリーズ」というシリーズによってだった。
単行本は友人の間で何度も回し読みをしたものだったが、”戦争を知らない世代”であり、まだ小学生だった自分たちにとって、このシリーズは戦争への怒り、戦争の虚しさを教えてくれる一種の教科書のような存在であったように思う。
そのちょっと後に出会ったのが、アメリカのC・L・ムーアという作家によるSFファンタジー連作小説「大宇宙の魔女」の翻訳シリーズに氏が描いたイラストだった。
妖艶な宇宙の美女たちを描いた数々のイラストを、当時の私がドキドキしながら眺めたのは当然だが、あの「戦場まんがシリーズ」の作家が、こうしたセクシーな画を描くというのが意外に思えたものだった。
さらにそのずっと後、前述のアニメで超売れっ子になっていた松本氏が、実はリヒャルト・ワーグナーの大ファンだということを、この作曲家について氏が熱く語ったエッセイを読んで知った。
戦争に与しない考えであるのは明らかだが、戦争や戦闘そしてメカを克明に活写し、宇宙へのロマンを感じさせる作品の一方で、「男おいどん」のような日常もの・人情ものを描く。そして好戦的なキャラクターと美女による救済が描かれるワーグナーの作品世界への傾倒。
それぞれ、一見したところ矛盾したり対照的だったりする要素が併存しているのが、松本零士氏の特質なのだろうと考えるようになった。
そうした松本氏について論じる文章を、紙面が限られた新聞の訃報に期待するのはそもそも無理だったのだろうが、「大宇宙のロマン」といった型通りの見方を超えるような松本零士論を読んでみたい気がする。
数々の印象的な作品を生み出し、夢と現実の両方に目を向けさせていただいた松本零士氏の冥福をお祈りします。
過去の kin 関連の参考記事:
・kith and kin ~古い辞書にもご利益がある
・fictive kin 「家族同然となった人」
・「ハムレット」の名セリフの訳
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氏の作品については後ほど個人的な感想を書こうと思うが、英語のブログなので、まずは氏の逝去を伝える英文記事にあった表現をひとつ取り上げよう。なお氏は「零士」についてRではなくLで始める綴りを使っていた。
- Manga artist Leiji Matsumoto, well known for his works “Space Battleship Yamato” and the series “Galaxy Express 999,” died of acute heart failure at a Tokyo hospital on Feb. 13, his company announced Monday. He was 85.
A private funeral was held with next of kin.
("Leiji Matsumoto, famed for 'Space Battleship Yamato' anime, dies at 85" The Japan Times, February 20, 2023)
next of kin は「近親者」という意味で、複数も同じ形であることに注意が必要だ。
- [C, U] (pl. next of kin)
your closest living relative or relatives.
I'm her next of kin.
Her next of kin have been informed.
(OALD)
- your closest relative or relatives, for example your mother, father, son, or daughter. This word is used especially in official documents.
(Macmillan Dictionary)
- plural next of kin
the person or group of people you are most closely related to:
We cannot release the names of the soldiers who were killed until we have informed their next of kin.
(Cambridge Advanced Learner's Dictionary & Thesaurus)
さて、松本零士氏の訃報は新聞等で読む限り、「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」を中心としたSFに重点を置いた内容が目立ったように思う。もちろんそれはそれでいいのだが、イギリスBBCの記事は、そうした通りいっぺんではない情報も盛り込んであって、いい意味で意外だった。
その記事では、4パラグラフ目で、
- His work often included anti-war themes and emotional storylines.
("Leiji Matsumoto, legendary manga creator, dies aged 85" BBC, February 20, 2023)
また、
- More than 150 of his manga stories depicted the tragedy of war - Matsumoto was seven years old when World War Two ended. Many years later, he said he had been inspired by his own father, who had been elite army pilot and had taught him that war should never be fought because it "destroys your future".
(ibid.)
と、氏にとって「反戦」や「戦争」が持つ意味の大きさに触れていたほか、
- "There was an immense sadness in his works, a grandeur nowhere else seen. All wrapped in powerful visuals that were equally mythological and futuristic," Mr Davisson said.
(ibid.)
と、その作風にも言及していた。自分の国の作家ではないのに、こうした踏み込んだ記述が書かれているのを読むと、やはり嬉しいものだ。
私が子供の時に松本零士氏を知ったのは、アニメとして社会現象となった「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」、あるいは「宇宙海賊キャプテンハーロック」といったヒット作品よりも前のことで、「戦場まんがシリーズ」というシリーズによってだった。
単行本は友人の間で何度も回し読みをしたものだったが、”戦争を知らない世代”であり、まだ小学生だった自分たちにとって、このシリーズは戦争への怒り、戦争の虚しさを教えてくれる一種の教科書のような存在であったように思う。
そのちょっと後に出会ったのが、アメリカのC・L・ムーアという作家によるSFファンタジー連作小説「大宇宙の魔女」の翻訳シリーズに氏が描いたイラストだった。
妖艶な宇宙の美女たちを描いた数々のイラストを、当時の私がドキドキしながら眺めたのは当然だが、あの「戦場まんがシリーズ」の作家が、こうしたセクシーな画を描くというのが意外に思えたものだった。
さらにそのずっと後、前述のアニメで超売れっ子になっていた松本氏が、実はリヒャルト・ワーグナーの大ファンだということを、この作曲家について氏が熱く語ったエッセイを読んで知った。
戦争に与しない考えであるのは明らかだが、戦争や戦闘そしてメカを克明に活写し、宇宙へのロマンを感じさせる作品の一方で、「男おいどん」のような日常もの・人情ものを描く。そして好戦的なキャラクターと美女による救済が描かれるワーグナーの作品世界への傾倒。
それぞれ、一見したところ矛盾したり対照的だったりする要素が併存しているのが、松本零士氏の特質なのだろうと考えるようになった。
そうした松本氏について論じる文章を、紙面が限られた新聞の訃報に期待するのはそもそも無理だったのだろうが、「大宇宙のロマン」といった型通りの見方を超えるような松本零士論を読んでみたい気がする。
数々の印象的な作品を生み出し、夢と現実の両方に目を向けさせていただいた松本零士氏の冥福をお祈りします。
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