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坂本龍一氏逝去~ Ars longa, vita brevis #2 [音楽と英語]

坂本龍一氏が亡くなった。万全な形ではなくても、何らかの形で活動を続けていけるようになってほしいと思っていたが、残念である。

イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)が人気となったのは、ちょうど私が大学生になった頃と重なる。そのテクノポップや、若き”教授”のビジュアルぶりから、最初は変わったグループぐらいに思っていた。

しかし、そのうち坂本氏自身の単独作や「戦場のメリークリスマス」などの映画音楽、そしてそこに込められたアジア的な響きに触れるにつれ、”いろもの”と捉えていた自分を恥じるようになった。世界的に多彩な活動を繰り広げ、まさに”国際人”と呼ぶのにふさわしかった。

所属事務所が発表した発表文は、坂本氏が好んだ言葉として、"Ars longa, vita brevis" をあげて結ばれていた。

今回はこの言葉を取り上げようと思ったが、15年前にすでにこのブログで brevity 「時の短さ」「表現の簡潔さ」という単語とともに紹介していることがわかった(→こちら)。

そのエントリでは、「芸術は長く、人生は短し」と訳されるこの言葉は、もともとは「芸術」ではなく「医術」を指して古代ギリシャの医師ヒポクラテスが使ったもので、意味も、時を超えて残る芸術の永続性についてではなく、「医の技法の習得には長い時間がかかるが、人生は短い」というのが本来の意味だったらしい、と書いた。

ということで既出であるが、その時は上記の情報を日本語の辞書から引用しただけで、今回せっかくでもあるので、英語での説明を "Phrase Finder" というサイトから引用しよう。

- What is usually understood by 'Ars longa, vita brevis' is something along the lines of 'art lasts forever, but artists die and are forgotten'.

That is questioned by some, who say that it is a misinterpretation based on a misunderstanding of the translation of 'ars' as 'art'. If we accept that the Latin term 'ars' is equivalent to the Greek 'techne' and that 'ars' is better translated into English as 'skill' or 'craft', we may opt to interpret the phrase differently.
(中略)
That would lead us to interpret the meaning as 'it takes a long time to acquire and perfect one's expertise (in, say, medicine) and one has but a short time in which to do it'.
https://www.phrases.org.uk/meanings/ars-longa-vita-brevis.html

ということで、それこそ「テクノ」につながる原語のギリシャ語 techne は、ラテン語では ars だが、これを英語版で skill とか craft ではなく art と不適切に訳したことから、ラテン語の Ars longa ... も誤解されて広まったということになるようだ。

そうであれば、ヒポクラテスの元の言葉は、技術習得の難しさを端的に述べたもので、正直そこまで凄い箴言とはいえない気がする。しかし誤訳されたことによって、ラテン語版の方は”格言度”が格段にアップした、といえるのではないだろうか。

そして坂本龍一氏も、作者の有限の人生を超えて後々まで芸術は残る、という意味でこの言葉を好んでいたことはもちろんだろう。

私には驚きのニュースだった坂本氏の逝去だったが、職場では、「名前を聞いたことがある」くらいの認識の若い人もいて、自分が若かった頃からの時の流れを実感した気にもなり、ちょっと寂しい気持ちになった。

さらに、そんな若い衆に対して私の後輩が、「そうか知らないのか、僕が子供のときに大ヒットしたんだ」と言って、名曲「ライディーン」をハミングしてみせたのを見て、私は「それはたしかにYMOの曲だから間違いではないが、作曲したのは坂本龍一ではなく高橋幸宏なんだけどな」とさらに寂しく感じたが、指摘はしなかった。

そういえば「ライディーン」は、訃報を伝えるテレビのニュースでも使っていたところがあったが、坂本氏なら、天国からそれを見て、苦笑しつつも許してくれそうだ。そこには先に亡くなった盟友の高橋氏もいっしょにいるだろう。



その昔、とりわけ気に入った氏の作品ばかりをカセットテープにダビングした手製の「坂本龍一作品集」を作ってよく聴いていたが、残念ながらとうに失くしてしまった。また、素晴らしい曲は多いものの、「これ一枚」というようなアルバムをあげにくいアーティストではないかと思う。

そこで追悼の意味で取り出して聞くことにしたCDが、YMO結成前の坂本龍一が参加した、大貫妙子の Sunshower というアルバムだ。TV番組「YOUは何しに日本へ?」で、このレコードを探しに来た外国人が取り上げられたことがあった。名盤である。

この作品も私が若い時に出会ったが、坂本氏が編曲を担当したと知ったのはけっこう後になってからだった。今でも愛聴している作品となったのは、大貫妙子の独特の味わいのあるヴォーカルとともに、古さを感じさせない坂本龍一の編曲が大きいのではないかと思う。

Ars longa, vita brevis. 坂本龍一氏の冥福をお祈りします。R.I.P.

(追記)
坂本隆一が自らピアノを弾き大貫妙子が歌った「UTAU」を聴いたが、何とも心に染み入る作品集となっていて、愛聴盤になりそうだ。例えば一曲めの「美貌の青空」は、坂本氏が最初に発表したアルバムとは違ったしみじみした味わいを強く漂わせている。こうした才能、またコラボや演奏を聴く機会が失われてしまったのがかえすがえずも残念である。







過去の関連記事:
・「少年老い易く学成り難し」 (brevity)
https://eigo-kobako.blog.ss-blog.jp/2008-05-17

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